奴隷を所有してみたり
ダンジョン探索は非常に順調だ。本来当たり外れのある宝箱だが俺は下僕達のお陰で大当たり確定なので物凄く気分がいい。『おい!探索の醍醐味は!』と言われそうだが楽しみ方は人それぞれだろ?丸一日かけて10フロアの11個全ての宝箱を回収完了、かなり疲れたが取り敢えずボスを倒してワープで戻ろうと思う。ここの10階ボスは超有名なダンジョンの最初のボスなので可哀想なことに名が知れ渡っていて攻略法も確立されている。大きいサソリだが動きはかなり緩慢、ハサミで捕まえて尻尾の毒刺しのセオリーだが小回りが効かずとにかく後ろに回れば何も出来ない無抵抗なボスの出来上がりらしい。その説明文の通りのボスに苦戦するハズも無く無事にワープして地上に戻る。取り敢えず走り回って疲れたので宿に帰り一眠りしてお宝の鑑定は明日にしよう。お疲れ様でした〜
翌日、早速昨日ゲットしたお宝を鑑定所に持ち込む。鑑定の結果、魔力付与がの高そうな装備3個は手元に置いておいて、その他6個を売り払い金貨5枚と大銀貨6枚に変わった。
「あーやっちまった」
なかなかの稼ぎになったのに思わず呟いてしまったのは、それなら金貨の入った宝箱も開ければよかったのだ。おそらく金貨5〜6枚は余裕であった筈だ。身体一つでぽんぽん稼げてしまうので調子に乗っていたが、俺の第一の目的はレベル上げだ。ステータス画面とかが無いから数値で見れない分、装備や新たな魔法の開発に注力しなければいけないのについ楽しくて目的がズレてしまった。ダメだ、これではいけない。ここはもう一度初心に帰り今一度自身の精進を心掛けるとしよう。
ま、取り敢えず日本人サラリーマンの年収程は稼いだので後は余裕を持って今後の探索に集中出来る足早整えたと考えよう。買取屋を後にしてまだ回ってない店舗なんかを除いて回ることにした。しかし、さすが遺跡探索に来た冒険者相手の商売だ、非常にピンポイントで俺達の心を刺激するサービスが多く、殺伐としたダンジョンとは打って変わってまるでラスベガスの様な華やかさがある。財布の紐を縛るのにかなりの精神力消費を強いられる。そして精神力の防御力は店を回る毎に徐々にすり減って行き【ジョーの店】と言う看板の前でバニーガール、ポニーガール、キャットガールの客引きの女の子に目を奪われる。ここでは『飲む、打つ、買う』と言う欲望の全てが揃った店らしく、日常とかけ離れたまるでハリウッド映画で見る様な危険な雰囲気すら漂う。それはつまり非常に魅力的でもある。今の俺は強く、金も有り、名声も一部ではそこそこ、こう言う店に出入りする程度には成功してるのでは無いだろうかなどと考えていると黒服に声をかけられた。
「これはこれは侮れない雰囲気の御仁、名の有る傭兵とお見受け致します!ささ!お前達ご案内を」
そう言って俺が1番見ていたポニーガールに腕組みされて中へ案内されてしまった。いきなり俺の弱点を攻めてくるとはあのフロントの黒服こそ侮れない。ここは連れ込み宿でもある為宿泊も出来るのでついでに泊まる事にした。受け付けを済ませて荷物を部屋に置き地下一階のカジノフロアへ。
高そうな両開きの扉の前に来るとご丁寧に2人の門番が扉を開けてくれた。
扉の向こうは映画でしか観たことの無い別世界が広がっていた。体育館程の5倍は有りそうな空間に様々な人種が熱気と狂気を帯びていた。入ってすぐ右にステージがあり、そこではオールディーズの様な生演奏が奏でられている。卓上を見て回るが地球の博打、特にバカラとかルーレット、少し変則的だがブラックジャックに酷似したゲームがあり、どちらかの文化が影響を受けているとしか思えない程似ていてビックリした。その時シャンパンガールが目の前に来て酒を手渡してくれたのでその場でグイッと飲んで空になったグラスを返す。
「ふぅ〜」
空きっ腹に冷えたシャンパンが染み渡る。奥のカウンターではフルーツや様々な一品料理がバイキング方式でつまめるので腹に放り込みまた酒を煽ると日々の疲れ(今日は大して疲れていない)が吹っ飛ぶ。
「ん〜まぁ数日で年収分稼いだし多少はね」
などと言いながらルーレットのテーブルに座る。
つい今朝方【ここはもう一度初心に帰り今一度自身の精進を心掛けるとしよう】と心を引き締めたばかりの人間が取っていい行動では無いが、まぁ多少はね。
———1時間後———
俺は金を取りに部屋へ帰っていた。
「待て待て待て落ち着け俺、金貨1枚つまり100万ほど溶かしたって事だぞ…まぁ全財産は後金貨9枚程有るからそれはいっか。てかお金より自身のレベルアップの方が大事だから金はどうでもいいか(笑)」
と言う、負けた事実を捻じ曲げ、無茶苦茶理論で自分を正当化して欲望に身を任せる。追加資金の金貨4枚が投入される事になった。
———更に3時間後———
「大丈夫大丈夫、金はすぐに稼げるからまだまだ遊んでも大丈夫(笑)」
残りの金貨5枚も投入。
———翌朝———
「んご…!」
昼過ぎにようやく目が覚めたが案の定二日酔いだった。深酒の寝起きの水程美味いものは無いかも知れない。あー昨日は遊んだなしかし、久々にハジけて遊んだー!って感じで心は爽快だ。
「ん…」 ゴソゴソ
「え!?!?」
突然隣で誰かが寝返りを打って驚いた。待て待て、全く覚えてないぞ?おいおい俺も手癖が悪いなしかし(笑)
酒に酔って記憶が飛ぶのも初めてだがそのままお持ち帰りも初めてだ。覚えてない分ちょっと損した気分だが、まぁ今その分から楽しめば良いかとシーツをゆっくりめくると燃えるような真っ赤な髪が視界に飛び込む。
「おぉ、良いねぇ〜!」
もう堪らずシーツをバッとめくると、真っ赤な髪の筋骨隆々大柄ゴリマッチョが姿を現した。裸で。
「え…ウソ…」
俺は思わず自分のケツを確かめたがどうやら無事だった、て事は・・・
「ん…? んあぁ〜よく寝たぁ! おう、おはよう!」
「え、あぁ、おはよう、え?てか誰?」
掘ったのか掘ってないのか真偽も定かで無いまま大男が目を覚ました。この展開にまるで免疫が無い俺はもうどうしていいか分からずフリーズしてしまっている。大男はそんな事にお構いなく美味そうに水を飲み干してニカッと笑う。
「なんだよ、覚えてねぇのか?俺を奴隷として買ってくれたじゃねえか、ホラ」
そう言って首に巻き付いている黒い文字を見せてきた。アレは確か奴隷紋、て事は俺の手首に主の紋様が…あった。あ〜なんか思い出してきた。
———昨晩———
「だっはははは!大勝ちだわ(笑)」
追加資金最後の金貨5枚の投入から破竹の勢いで盛り返し、金貨14枚まで資金が増えていた。先の負けを差し引いても金貨10枚の大儲けだった。その隣でこの世の終わりみたいな顔で金貨1枚を握り締めながら
「帰って来い!必ず帰って来い!!俺の元へ!」
と呟く真っ赤な髪の大男がいた。そのすぐ後ろで睨みを効かせた明らかにカタギでは無いと分かるイカつい3人の男が左右と後を囲んでいた。これで負けたら絶対エスポワールに乗せられるんだろうなと思いながらも勝負は無慈悲に始まる。簡単な半丁賭博の様な1/2の博打で大男は奇数に金貨を置く、それを見た俺は勿論反対へベット。てかさっきからコイツの反対にベットすればほぼ勝てると言う法則を見出していた。つまり俺の大勝ちはコイツのお陰でも有るなぁ〜などと酔った頭で考えていた。結果は勿論金貨5枚の払い戻しで俺の大勝ち。お気に入りのポニーガールが勝利の酒を運んで来たので極楽気分で酒を飲んでいると、隣で地獄の取り立て劇場が始まった。聞き耳を立てていると金貨10枚の借金らしいがどうやらエスポワールをすっ飛ばして地下帝国の鉱山で一生死ぬまで賠償生活らしい。あ〜あ可哀想にとポニーガールの谷間にチップを挟み尻を触りながら酒を飲む。
「なぁアンタ、大勝ちしてたよな!頼む!俺を買ってくれ!鉱山で一生を終えるよりアンタに尽くさせてくれ!頼む!」
てな感じで酒と大勝ちで気分が良かった俺はそこにいたコワモテ3人から熱いヨイショを受け、赤髪からも持ち上げられ、まぁどーせ泡銭だし10枚渡してもまだ5枚勝ってるしと気分が大きくなってて確かその場で奴隷契約結んだわ。
「昨日はマジ助かったぜロキ、俺はディーゼルだ、今後とも宜しくな」
寝起きとは思えない程ハッキリした口調で爽やかに名乗るディーゼルはよく見るメッチャ男前だった。往年のブラッドピットバリの顔面偏差値に肩まで伸びた燃えるような真っ赤な髪はただ伸ばしだけの無造作な髪なのに様になっている。体躯はこの世界では珍しく俺より遥かにガッチリで俺より背が高く、アソコも俺並みのサイズだった。何よりその二重のパッチリおめめは青とグレーの魅力的な瞳だった。正に日の打ちどころの無いイケメン、地球なら人生イージーモード確定だったであろう。しかし…超絶美人の奴隷を買うならまだしも男の奴隷を買ってしまうとは・・・大いに反省だ、今後は酒を飲むときは気を付けなければと心に誓う。マジで。
まぁ便利なパシリでも手に入れたと思って諦めるか。
「まぁ酒の勢いとは言え買っちまったもんは仕方ない、俺は傭兵をやってるロキだ。普段はダンジョンで稼いでるから今後はお前にも手伝ってもらうよ」
「え? 俺は炭鉱夫だから戦闘経験なんて無いぞ?」
はいやっちゃいましたー。戦闘童貞でしたー。
「じゃあ別に炭鉱で借金返してても良かったんじゃねーの?」
「ちげーよ!全然ちげーよ!稼いだ金は全部取られて飯だけの現物支給、外出の自由も無けりゃ娯楽も無く一生死ぬまで穴ぐら生活だぜ?」
「確かにな、で傭兵になってもらうけど構わねーか?」
「俺に選択肢や拒否権は無ぇ、アンタに着いていくぜ」
あー嫌いじゃ無いなこう言うの。、ちょっと憧れてたかも。女奴隷よりこっちで良かったかもとちょっと思ってしまった。取り敢えず傭兵ギルドに行き鑑定やアレコレ登録を済ませ装備を買いに行く。ディーゼルは炭鉱で働いてただけあってバリバリの土属性だった。炭鉱夫の中でも特に力が強い上に鉱石類の重さを操れる土魔法らしく、それを駆使して普通の人の10倍稼いでいたらしい。その能力に目をつけられ借金付けにされた様だ。この働き手が一生手に入るなら金貨10枚は確かに安い、すぐに元が取れるだろうな。
「何か武器の希望とかあるか?」
「どうだろうな?武器なんて振るった事が無ぇから分かんねえけどハンマーやツルハシなら毎日10時間はぶん回してたぜ」
・・・10時間?逆にすごいんじゃ無いそれ?もしかすると前衛としてかなり期待できるかもしれないんじゃ無いのか?
「この辺とかいいんじゃ無いか?」
ウォリアー用のハンマーやメイス、ハルバートや大斧を持してみるがしっくりこないようだった。
「ん〜ちょっと軽いな、もっと重いのは無いのか?」
ウソだろ?両手用の武器を片手で軽々と扱っている、ぶっちゃけ俺でも片手ではあんなハエ叩きみたいに扱えないぞ?コイツのとんでもない筋肉量は伊達じゃなく、超絶肉体重労働でガッツリ鍛え上げた本物の肉体だ。
「ウチにゃあそれよりデカい獲物は置いてねぇ、ちょっと値は張るが【洞穴の剣】って看板の店に行きな、ここをまっすぐ行った右側にある店だ」
教えてもらった店の前まで来ると筋骨隆々な男達が群がる暑苦しい店だった。中へ入ると壁一面にあらゆる武器が所狭しと飾ってあり、どれも金属素材をふんだんに使用している贅沢な物が多い様に見られる。デザインは無骨な物が多く実用性重視、まるで『ウチは本物しか取り扱わないよ』的な心意気を感じる。
「おい」
声のする方を振り返るとザ・テンプレドワーフ、頑固者、酒強いとわかる店の主人と思われる人物がコチラを見ていた。渋みのある酒焼のいい声だ、俺はコレ系の声が嫌いじゃ無い。
「お前らとんでもねぇ身体してやがるな」
長年のアレで見たら分かる的なヤツらしい。
「どれ」
そう言いながらドワーフのオヤジは俺とディーゼルの身体を確かめる様にベタベタ触りまくるのでちょっとキモチワルイ…
「おっほ♡ けしからん身体してやがるな♡」
ちょっとキモい…そう言えば店の名前も確か『洞穴の剣』だったな…
「いや悪いがそっちの趣味はない。この大男に合う武器を見繕いたいんだが」
「チッ…客かよ。戦闘スタイルは何だ?」
このオヤジは切り替えが早いようですぐに仕事モードの顔付きになった。
「超重量の両手武器はあるか?」
「ならこっちだ」
そう言って少し奥の方の展示を見せてくれた。そこにはハルバート、ロングソード、大戦斧、大型フレイルとあったがディーゼルがそれら全てを片手で軽く扱っているのを見てオヤジも目を丸くしていた。
「こりゃあスゲェな…それらを軽々振るヤツは久々にみたぜ、よし着いて来い」
てっきり2階に案内されると思っていたら地下に案内された。