再びダンジョンへ
「俺は悪魔の傭兵ロキだ。使い魔を通して語りかけている」 ザワザワ…
教会公式認定なので正式に二つ名を頂く事にした。これで名実共に異名持ちだ!思ったより早くGET出来たな。
「俺を襲撃する指示を出した司教はこの猛毒の蛇によって暗殺した。このように」 ドシュ!
大司教の首元に噛みつき致死量の猛毒を送り込む。やがて大司教は苦しみにのたうち周り余りの苦しさに自らの首を掻きむしり泡を拭きながら絶命した。
「お前らは俺に喧嘩を売ったから必ずオトシマエを付けるが詫びを入れるなら手土産持参で俺の宿まで謝りに来い、そうすれば水に流してやる」 バリン!
伝え終わるタイミングで窓ガラスを破りフクロウがオロチを回収してすぐに逃げる。
と、見せかけて外ですぐにオロチを放ち再び侵入させて会話を盗聴。かなり場が荒れたがどうやら観念したようで、結論として毒蛇による暗殺から常に身を守るのは不可能との見解らしい。その後すぐに俺の宿へさっきの会議の顔ぶれが公衆の面前で正式に謝罪があったので約束通りに水に流してやる事にした。ま、表向き謝ってはいたが内心穏やかで無いのは見て取れる。が、舐められたら終わりのこの世界では面子が命だ、ケジメはきっちり取らないと示しがつかない。詫び料に金貨1枚をGETした。
———翌日———
早朝トレーニングを終えた朝早くにとある司教が来訪した。丁寧に挨拶し手土産まで持ってかなり機嫌を伺っている。
「いやはや先日はウチの関係者が大変失礼を」
「いや、もう終わった事だ。蒸し返さなくてもいい」
「何と寛大な!これは悪魔の傭兵では無く神の傭兵に鞍替えですな(笑)」
ぶっちゃけしんどい…慇懃無礼とはこの事だな。
「露骨な機嫌取りは癇に触る。要件を言え」
「大変失礼を致しました。実は昨日私の隣におりましたローグ司教と私バルが次の大司教候補なのですが、ローグ司教は昨日の件に納得がいっておらず大司教になった暁には国王に直訴してロキ殿を追い込む腹積りでいる様子、私は決して……」
(あ〜なるほど。嘘かホントかは知らないが要は俺に対立候補を始末させたいんだな)
「要はそいつを殺したいのか?」
意表を付いてド直球を投げる。
「あ、いえ!私はただ進言しただけでそのような…」
「じゃあ放っておく、話は終わりだ。帰れ」
「え? い、いやお待ち下さい!彼奴が大司教になればロキ殿に牙を向くのは必須!その点私はロキ殿に向ける牙も爪も持ち合わせておりません!」
「回りくどいな、結論を言えよ」
「殺すかどうかはロキ殿次第ですが、いなくなればロキ殿にとっても私にとっても良い結果になる事は間違いないかと」
そう言うと懐から重そうな袋を出し、まさに悪代官バリの袖の下を通してきた。どうしようかな〜。確かに昨日のあいつ、ローグ司祭だっけ?露骨にオコだったし面倒そーではあるが今の所別に恨みは無いし、その恨みの無い人間を金で殺るのは何かポリシー的に嫌だな。てか聖職者としてはコイツよりローグ司祭の方がよっぽどまともだよなぁ。なんて事を考えながら一応袋の中を見るとこの前ギルドで受け取った報酬銀貨20枚の倍ほど入っていた。
「ま、それはお手付けですので私が大司教に就任した暁にはこちらを…」
そう言って袖から金貨2枚を見せて来た。俺はニヤリと笑みを返して本日はお帰り願った。
「めんどくさ、まぁでも力を持つとこう言う事もあるか〜、これが有名税ってやつかな?」
と調子に乗っているとまた新たな来訪者が現れた。馬車から降りて来たのは小柄で華奢な【可憐】と言う言葉が服を着て歩いている様な少女とも淑女とも言える、清純とも淫乱とも見える気品に溢れた女性で、AIの様な不自然なほどの可愛さは3次元の限界を超えていた。
「お初お目にかかります。ロキ様とお見受けしますがお間違い御座いませんでしょうか?」
アニメ声にある様なカン高いだけの声じゃ無く、華奢な体躯から出てるのが分かる柔らかな声質は非常に耳障りが良かった。思わず鼻の下が伸びそうな所をグッと堪えて気を引き締める。
「いかにも、何か御用で?」
貴族か?かなり高貴な感じに見て取れるが油断は禁物だ。ハニートラップかも知れないと更に気を引き締め…いや、これならハニートラップにかかってもいいんじゃ無いか?と思わせてしまう程良い女だ。むしろちょっとハニートラップを期待している自分がいる。
「突然のご無礼お許しを。こちらの席宜しかったでしょうか?」
隣に座りたいとの申し出を断れるはずも無く席を促す。ゆるいウェーブの真っ赤な髪を耳に掛けながら椅子に腰掛ける仕草が非常に艶かしい。際どい下品な服では無く、逆に全く隙の無いチラ見せも無い防御力の高い服だ。椅子に座る時ほんの少しだけかがんだ時に見えた谷間…とまで行かない谷間の始まりがほんの少しだけ見えた。自己主張が控えめな胸は華奢な体躯に良くあっている。マリーとは対照的で、これはこれで1つのジャンルとして確立出来る程に魅力的だった。
「実は本日ロキ様に折り合ってご相談が御座いましてやって来た次第です。我々は裏町と呼ばれている勢力に御座います。正式には盗賊ギルド【グレイワーム】の私シャルローズと申します」
前に聞いたが裏町とは要はマフィアだ。街の風俗、賭博、麻薬などの利権をシノギにしている。どの世界でもヤクザのやってる事はテンプレなんだなと思った。むしろ健全にマフィアをやってると言える。と言うかどっかの貴族だと思っていたがまさかのマフィアとは恐れ入った。
「て、ご相談とは?」
「お話が早くて助かります。実は昨日大司教が亡くなられた事はご存知かと思いますが、次の大司教候補に我らから是非推薦したい司教様がいらっしゃいまして」
おやおや?どっかで聞いた事のある話だぞ?
「ローグ司教様は貧しい裏町にも手を差し伸べて下さる大変心根の優しい方でして。また対立候補のバル司祭様におかれましては余り良い噂を耳に致しません、ここは一つ元大司教様の後を追って頂くのが街の為かと」
そう言ってシャルローズは後ろの執事から袋を受け取り机に置いた。 ジャラ
何かそう言う相場とかあるのかね?って言いたくなるくらいさっきと同じくらいの金額だった。
「ローグ司教が当選した暁には追加で金貨2枚を。こちらは成功報酬であり口止め料でも有りますのでバル司教の生死には関係無くお支払いさせて頂きます」
俺はニヤリと笑みを返して袋を受け取ると満足そうに馬車で帰って行った。いや〜しっかし良い女だったな。目の保養になるとかよく聞くけど、見るだけであれだけの満足感を得れる美人には早々お目にかかれない。それはさておき、さてさてどうしたものか、ちょっと面白い事になって来たぞ〜。
———トール工房———
「え、またそんな事が?名前が売れた証拠ですね(笑)」
教会の揉め事が終わり、俺の異名が付いたのでソッコーでトール君ちに飲みに来ている。しばらくは来れないと覚悟を決めた矢先だったので嬉しい誤算だ。
「そうなんだよね〜、んでこの2人の司教って実際の所どーなの?」
「ぶっちゃけ2人とも利権に絡む話ばかり聞こえてくるのでどっちもどっちですね」
「腐った聖職者か、どこの世界も同じだね〜ホント。まともな聖職者はいないのかって話だよホント」
まるで高架下の屋台で飲んでいる様なこの雰囲気はかなり好きだ。
「1人居ますね、確かまだ司祭でしたけど貧困街で人助けとか布教してたり本気の教会活動してる人が確か…名前は忘れましたね」
いるんだなぁ良い人って、願わくばそんな人に大司教になって貰いたいもんだ。
「で、どうするんですかその仕事?」
「さーどーしよーかねー、ぶっちゃけ面倒だから放って置こうかと思う、それよりダンジョン行きたい、冒険したい」
「ですよね(笑)」
いつの世も宗教や政治に関わるとロクなもんじゃ無い。
翌日からは気持ちを切り替えダンジョン攻略に精を出す。殲滅作戦での報酬は良いとして、殺す殺さないの話だけで何もしないのに銀貨100枚近くも得るのは何か心が怠けてしまう。せっかくなのでそのお金を使って少し遠征用の装備を揃えて少し遠くの遺跡ダンジョンを目指す。そこはやや難易度が高いがドロップするお宝が結構良い事で有名らしい。片道丸一日かかって山の麓に到着、ここから更に山の中腹まで行くと遺跡入り口があるらしい。
「おぉ…」
山の中腹に突如現れた高さ20m程の大洞窟、その両脇に更に大きい何らかの神が岩肌に彫刻されていて、その足元にワープゲートが有るのがわかる。ここにも少しだけ屋台が出ているが、どちらかと言うと簡易的な宿の方が多い。確かにまた下山して丸一日掛けて拠点まで戻るのは骨が折れる。少し値は張るが屈強そうな主人がやっている所を選んで荷物を預け、先払いの10日分を払い早速ダンジョンへ入る。更に奥へ続く洞窟内の両脇には何かの物語なのか歴史なのかさまざまなレリーフが壁画として彫られている。圧巻だ…観光としてもかなり見応えのある遺跡に胸が躍る。 ピピッ
面頬の翻訳機能が解析をしてくれた様でその歴史や成り立ちを字幕で紹介してくれた。
———グレゴール大洞窟遺跡———
全てのドワーフの祖エンシェントドワーフが暮らし巌窟王と呼ばれた初代皇帝グレゴリオ大帝が統治するグレゴール帝国、約1000年前に滅びその原因は神の不況を買ったグレゴリオが悪魔と契約し、やがてそれは神と悪魔の代理戦争に発展し滅亡を迎える。かろうじて逃げ延びたドワーフ達がその子孫に当たり古い物語としてドワーフに受け継がれている。かつての繁栄の礎にあるのはドワーフが得意とする製鉄、精錬技術に有り、伝説級の様々な武器や防具が今も遺跡の奥深くに眠る。
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「いいねぇ〜!ロマンが有るねぇ〜!!」
ドワーフの遺跡…タイトルを聞くだけで期待が膨らんでしまう。翻訳によると神と悪魔の戦争は200年程続き、今も洞窟の奥地では原始の神と悪魔の戦いが行われているそうだ。つまり国は滅んだが神と悪魔の戦争はまだやっているって事か、スゲェな。洞窟の最奥にとてつもなく巨大な扉が現れほんの少しだけ開いていた。遠くから見ればほんの少しだが近くで見ると10mは開いている。扉付近ではドワーフの職人がまだ壁画の続きを掘っていてサグラダファミリアみたいにまだ未完成らしい。ご丁寧に壁に注意書きが書いてあり、自己責任とか死んでも責任はとかの例の文章の他に神と悪魔の事が書いてあった。
【神と悪魔はどちらも人類の魂を糧とし、大昔の人類はただ捕食されるだけの脆弱な家畜であった。神と悪魔が使う魔法を真似て人類も力を得る事により繁栄を手に入れる。その後神とは契約により一部の力を譲渡してもらう対価に永眠の際に魂を捧げる、悪魔も同じ】
なるほど、つまり俺らはアイツらのご飯なわけだ。で、もしかしたらアイツらの魔石を取り出して食う事もあるから俺のご飯でも有るって事か、じゃあ結局神も悪魔も食物連鎖の中に居るんだな。豊富なお宝に豊富な魔石か。これはかなりの期間潜ることになりそうだな。
洞窟の扉を一歩入れば栄華の極みにあった大帝国の名は伊達じゃ無い事を遺跡だけでも分からされた気分だ。扉の向こうは東京ドーム程の開けた空間があり、その空間が遥か奥まで続いていた。【竜の通り道】と呼ばれているメインの大通りらしく、ドワーフ達の生活空間であった事もあり壁の至る所に光る魔石が嵌め込まれている。大通りから脇道へ入る小道が無数に存在するが、その数の多さに何処から手をつけて良いのか溜息が出る程の数が並んでいる。「さて…」
取り敢えず最初にする事は、その場にドカッと座り込む。何故ならフクロウとオロチにマッピングをさせる為だ。時間がかかりそうなのでちょっとだけ仮眠を取ることにした。
「・・・おっと」
軽い仮眠のつもりが結構ガッツリ寝てしまった様で視界に映る時間経過の数字は4時間を示していた。一応この面頬にも周囲3mではあるが索敵アラームが有るので気が緩んだ結果随分寝てしまったのだろう。作成マップはとんでもない量になっていたが未だに終わりが見えない。仕方なくその日はそこでキャンプをしたが翌日もマッピングが終わらず一旦2匹を手元に呼び寄せた。取り敢えず現時点のマップを確認すると山の形と同じでピラミッド状に広がる遺跡ダンジョンは下に行けば行くほど広がっていくがその広さがとにかく尋常ではない。一応10階下のボス部屋は確認出来ているがまだ未完成だ。確認出来ている宝箱は163個、フクロウの超音波、オロチのサーモグラフィで宝箱の中身はある程度確認出来ているので費用対効果の良さそうな物だけピックアップして後は削除と。残り71個中銀貨のみは削除、魔力の無い武器や防具も削除と…これで残り11個まで絞れた。何て合理的で効率がいいんでしょう!科学最強!さて、回収に行きますか!