表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

領地奪還作戦

「ロキさん!どうしたんですかびしょ濡れじゃないですか!入って入って!」

すぐにタオルを渡され寒くも無いのにわざわざ暖炉に火まで入れてくれた。 彼の入れてくれた暖かい紅茶が沁みる。しばらくすると俺も落ち着いてさっきの出来事をトール君に話した。嫌われるかもしれないが心に引っ掛かりと言うか、ずっと何かがチクチクしている。彼に咎められるか許されるかで恐らく楽になれると確信している。友人の存在は思っているよりかなり大切だなと今になってわかった。

「なるほど。で、今は良心の呵責に苛まれてる感じですか?」

「うん…」

「ロキさん、前に殺す覚悟を決めて下さいと僕言いましたよね?」

「え、うん、だからそれは殺したけど…」珍しくトール君の言葉が強い、かなり怒っている。

「それで罪悪感を感じてるんですか?」

「あ、いや…それはあんまりと言うか、正直言うと全然感じてないと言うか…」

自分でも驚いている、3人も殺しておいて微塵も心が動かなかった。

「じゃあ何故?女の事ですか?」

「…うん」

「ロキさん、ここには誰も居ません。勿論地球でも無いし地球の常識も一切通用しない世界です。自分の言葉で何故その女を殺さなかったのかをちゃんと口に出してみて下さい」

「その…なんて言うか若くて可愛いくて良いカラダをしてるから殺すのは()()()()って思って、それで【何でもしますから】ってお願いまでされたから」

「ロキさん、ソレです」

「え!? ソレ??」

俺には【ソレ】の意味がわからない、要領を得ない。

「ロキさんの【命】を奪おうとした対価には本来【命】を持って等価交換とされる取引を、その女の若くて可愛いくて良いカラダに【価値】を見出したから【取引】が成立したんです。本来なら成立しない取り引きなのに命も財産も何も取らずにカラダだけで許すなんて…」

「え、でも…」

「ロキさん!それでも取り引き的に相手の女は大儲けですよ」

「そうなの?地球だったら俺は相当な罪になると思うけど…」

「ロキさん!!!!俺たちはいまここで生活してるからあっち(地球)が異世界でここが故郷なんです、いい加減ここ(故郷)を異世界というのは辞めて下さい。だから軸がブレて凹むんですよ」

あっちが異世界…確かに。ここでは免許も法律も人権もモラルも常識も何一つ役に立たない、有るのは己のみ。トール君が本気の剣幕で諭してくれたお陰で完全に腑に落ちた。

「トール君ありがとう。本気で目が覚めたし本当にここで生きていく覚悟が決まったよ」

「いえ、僕も声を荒げてすみませんでした。でも本当の意味でわかってもらえたみたいで良かったです」

なんだかやっと心が落ち着いた。落ち着いた途端に逆らえない急激な眠気に襲われてしまいその日はそのまま泊めてもらった。


翌朝、まるで憑き物が落ちたかのように、溜まっていた物を吐き出したかのようにスッキリサッパリした気持ちのいい朝を迎えた。

「トール君おはよう!昨日はありがとう!」

「おはようございます、よく寝てましたね(笑)」

2人で近くの店で朝食を済ませて俺はダンジョンに行く支度をする。昨日の内にトール君が手入れまでしてくれていた。もう彼には世話になりっぱなしで足を向けて寝られない、恩と借りが溜まりすぎてどう返したものかと悩む。昨日とは打って変わって晴れやかな気分で送り出されダンジョンへ向かう。途中、昨日の場所に差し掛かったが何も無く血痕だけが残っていた。おっと…その事にもう罪悪感は微塵もない、それどころかアレだけで許してやったと上から目線でいようと思う。そんな事を考えながら現場に到着、串肉食べて即ゲートへ。


探索は順調、報酬も上々、日々買取の額が少しづつ増えているのが実感できる。そんなある日ギルドで珍しく大規模討伐の募集がかけられていた。


〜〜〜〜〜大至急〜〜〜〜〜

パグル村にて大量ゴブリン発生。

ゴブリン、ホブゴブリン、オーク、オーガの混成グループ。総勢およそ150匹と見られる。早急な対処に当たる必要あり。王国軍、教会聖騎士団、傭兵団の連携により2日後に作戦行動開始予定。

報酬は1人銀貨20枚→作戦後払い。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あ〜聞きましたよパグル村の、かなり大規模な討伐作戦らしいですね、多分1ヶ月後には700匹は産まれるって予想されてるみたいですよ」

「ヤバっ!やっぱ行っておいた方がいいのかな?」

「変な義務感以外なら参加は良いと思いますよ、後、こう言う大規模な作戦であれば目立てば名前が売れますね」

「名前は売れた方がいいの?」

「ロキさんの進む方向性なら断然売れた方が良いと思います」

ん〜正直言って目立ちたいしオラオラ俺つえーをやりたいし、ぶっちゃけ二つ名とか異名に憧れている。

「乗るしかねぇこのビッグウェーブに!」

参加登録の際に死亡しても当局は一切何たらの例の用紙を記入して死んだ時の身元判明用の木製プレートを貰って完了。その夜、一杯やりながら敵陣の偵察をしているがオロチとフクロウは本当に役に立ってくれているとしみじみ実感する。

「うわっ!凄い数だなこれ、事前報告の150匹どころじゃ無いぞ?」

報告に無かったコボルトやダイアウルフがわんさか蠢いている。オロチに家屋の中も探らせて数えた結果、全合計422匹。これはギルドの報告にある数の倍以上の戦力だ。

「え?人類側大丈夫かコレ?」

自軍が拠点の有る方を覚めるのでこちらの戦力が相手の倍ならわかるがその逆は完全にアウトだ。しかもご丁寧に罠まで用意されていて、気になるのはその罠を支持しているのがターバンを巻いた商人風の人間の男だった。そいつは角の生えたデミヒューマン?に話してそのデミヒューマンがテキパキと指示を出している。とにかくオロチにその商人風の男をマークさせる事にした。周りが騒がしすぎて商人の声が聞き取れないが、罠の設置はまるで攻めてくる人数と方角が分かっているかのような支持内容だった。その後村の1番大きな家屋に行き、商人は人質の女で楽しんでいた。

翌朝、ギルドに敵戦力の報告をしに行く。


「お、お待ち下さい、ギルマスを呼んできますので」

受付は慌てて上に話を通してくれその後別室に呼ばれる。

「ギルマスのドゥエインだ」

「傭兵のロキです」

「ん?何処かのご貴族でらっしゃいますか?」

「いえ?全くの一般人ですが?」

「そうですか、物腰に品があったので(笑)で、敵の報告で有力な情報を持ってきたと聞きましたが」

昨日見た戦力、種族とその数、商人風の男、デミヒューマン、罠の報告をした。簡単にレポートにまとめておいたので分かりやすいかなと思ったんだがギルマスはずっと見入っている。

「どこから話せばいいか…すまないがこの情報の信憑性を証明出来るか?」

そう来ると思った。余りにも正確で唐突な内容だから疑うのも無理はない。俺は立ち上がり窓を開けて外に向かって指笛を吹く、すると一羽の黒い梟が俺の肩に止まったが勿論俺の下僕のフクロウだ。本当は指笛なんか吹かなくても呼べるがそれは内緒。

「俺はコイツと資格の共有が出来る」

勿論聴覚も共有出来るがそれも内緒。

「聞いた事ないな・・・」

どうも信じられないようだったので隣の部屋にフクロウを置いてテストした結果やっと信じてもらえた。

「すまないが今から一緒に来てくれ」

何処に行くのか何の説明もないまま馬車に乗せられ移動する。馬車の中でドウェインは一言も発せずにずっとレポートを見ていた。馬車が付いた場所はこのエリアの領主マグナス男爵の家、明日の集合場所だった。今は教会聖騎士と王国軍が明日に備えて常駐していた。仮設テントを通り抜け直接領主館に向かう。応接間に通され待つ事5分、血相を変えて偉いっぽい責任者風の2人入ってきた。何か大事をやらかした中心人物っぽくてドキドキする。

「火急につき名乗りのみで失礼する、今回の作戦指揮を取る王国騎士団小隊長マグナスだ、此方は聖騎士団隊長ルーク殿、おおまかな話は聞いたがにわかに信じられないが無視も出来ないでいる」


ソーダローネー。いかにもって感じの無骨な武人マグナス、相反するスラッと細身のルーク。その2人とはまた違う野蛮な戦士タイプのドウェインが申し訳なさそうに耳打ちしてきた。

「二度手間ですまないがさっきのアレをもう一回見せてくれるか?」


好評につき2度目のお披露目。優雅に窓を開けて甲高く指笛を「ピュイ!」後は隣の部屋に行き同じ事を披露して賞賛を浴びるだけ。

「わかった、ではここに書かれている内容が事実とするならば明日我々は確実に敗北だ」

皆んな同意の沈黙をする。最初に沈黙破ったのはマグナスだった。

「今から王国軍の増援は間に合わん、聖騎士団は尚更だ。傭兵団の増援は見込めるかドゥエイン殿?」

「目一杯だ、これは街の、国の問題でも有るから街の冒険者や傭兵ほぼ全員が参加してる、増やせるとしたら裏街に頼るしかない」

「120対422か…」

今度は迷いの沈黙が流れる。これもう俺要らないんじゃないでしょうか・・・

「貴君、我々とは違う雰囲気を感じるが何処の出身か?」

マグナスさんに唐突に話を振られた。これは予想していなかったがテキトーに答える。

「ニポーン国出身です、海を渡った極東ですのでおそらく皆さん存じ上げないかと」

「極東の島国と言えばダルモア帝国の隣か、貴君は我々とは違う文化や視点をお待ちのようだ、恐らくこのような前情報の有効な使い方など有れば是非御教示願いたい」

「同感だ」 ルークさんが短く強く同意する。

これはアレか、シミュレーションゲームで鍛えた得意の領地戦奪還作戦をで出しゃばるってみるか?

その日はおおまかな作戦変更をして時間を前倒しして真夜中に出発、恐らくこちらには内通者が居て攻め込む時間など全て把握しているのでその裏をかく。敵さんはまだグッスリ寝ているのをオロチで見て俺は知っている。2時間ほどの行軍で罠の前に到着し、静かに罠の解除に当たり再び進軍。じきに村に到着したが内通者のお陰で見張すら居ない、完全に油断し切っている証拠だ。ここで斥候部隊を村の町長の家へ送り込み先に人質の救出を済ませる。人質家屋の出入り口には流石に見張が居たがオロチの毒により既に排除済み、人質の位置も事前に把握しているので4箇所を順に周り全ての人質の奪還が完了。その間に王国軍30人、聖騎士団30人、傭兵軍40人、裏町部隊20人の4部隊で村を包囲、各部隊に大型投石機の設置も完了。その時ちょうど運搬部隊が到着、小麦粉が入った袋を大量に投石機に設置して合図を待つ。村の出入り口でヤツらに向かって今度は俺たちが罠を仕掛ける。罠の設置完了をフクロウで確認、そのままルークの元にフクロウをやる。

フクロウがルークの肩に止まると彼は静かに剣細身の抜き空へ掲げる。

「我らに神のご加護を。ブレスイング」

祝福の祝詞を唱えると剣から赤い光が迸りその光は空中で弾けて全員に降り注がれた。攻撃強化のバフだ。

「合図だ!撃て!」 バンッ! バンッ! バンッ!

一斉に放たれた小麦粉は村のあちこちに着弾して白い煙を巻き上げる。

「撃て撃て!」 寝込みを襲われた敵は対応出来ずに狼狽えてバラバラに逃げ回り罠にかかる。そこを魔法と弓で狙い撃つ。

魔法と弓矢の雨、小麦粉の爆弾が降り注ぎ村が真っ白になったところでもう今度は青い光の防御の祝福の光が迸る。

「合図だ!全員伏せろ!!!」


ドッカァァァァン!!!!!


とんでもない爆発が巻き起こり敵は勿論味方も何人か鼓膜を負傷したようだ。粉塵爆発を初めて見たけどあんなに凄いんだ…

「殲滅開始!全軍前へ!」

号令と共に全員獲物を抜き瀕死のモンスターの駆逐にあたる。コチラはまだ無傷、敵は恐らく60%以上の兵を失い、残りの殆どが負傷していると予想される。フクロウで確認するとオーガ1匹とデミヒューマン一匹が逃げる用意をしていた。

「マグナス隊長! あっちの方にボスがいて逃げようとしている!」

「承知!分隊長ここは任せた!」

マグナス隊長は馬を翻しボスへ向かうと同時に俺も走って追いかける。

「な!なんと貴君は馬並みか!」

多分足の話をしてるのだと思うがアソコも馬並みだぜと言える仲では無いのでこの場は我慢する。馬と馬並みの俺達は直ぐに追い付き、直ぐにルークも合流したが2人とも躊躇っている。

「魔族とハイオーガか、分が悪いな…」

ハイオーガは身長2.5mくらいある赤黒い大鬼って感じで、魔族って言われた方は病弱なエルフに角が生えた感じで強そうには見えない。ぶっちゃけ俺1人でここに来ても良かったが名声を広めるには盛り立てるギャラリーが居ないとね、だからわざわざお二人にお越し願ったワケよ。

「さて、行きますかぁ〜!」  シャキン

「ま、待て!」

久々に鎌鼬を構えゆっくりと歩を前に出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ