1→2→3で異世界へ
後にチート有り、エロ有り、奴隷あり、当然LGBTQへの配慮無し、おおよそ主人公らしからぬゲスい行動を取ります。現代人が力を手に入れてだんだん理性のタガが外れて行き本能を解放するとこうなるんだろうなと思いながら描きます。
身勝手を力で正当化し、無理も通らば道理となり、力こそパワーで欲望を満たしていく品性の無い下卑た内容になる事をご容赦ご期待くださいませ。
①ブラック企業勤務
②激務&鬱
③終電逃しのトラック事故
お約束のスリーステップで無事異世界転移成功。
もしかするともっと細かい条件があるかもしれないが今はは辞めておこう。
せっかく神様が与えてくれたこの機会を存分に楽しむ為に頭を使おうと思う。
ま、それもこの状況を生き抜ける事が出来ればの話だが…
転移直後、早速異世界の手荒い洗礼を受けデカい狼数匹に囲まれたまま木の上で夜を過ごした。あの狼トラくらいデカいんだが…幸いデカ狼達は途中で諦めて何処かへ消えていってくれたがもし、粘着されていたのかもしれないと思うと背筋が凍る。
しかしだ、それでも俺は異世界に思いを馳せていた。思いを馳せると言うか、そう言う幼稚な妄想で現実逃避をしていた言う方が正しいのかもしれない。40を過ぎ決して高くない収入に独身、会社役員達を裕福にする為に日々身を削り激務に耐えるしか選択肢が無い現状に耐える為、お薬と幼稚な妄想で何とか耐え凌いでいた。
「おぉ…これは…」
そして今、この木の上から見る朝焼けの異世界は暗く狭い自宅のパソコンで作ったあの異世界の景色を遥かに上回っていた。
巨木の上で携帯食を食べながら今後を考える。
見渡す限りの大森林にとてつもなくデカい川が一本流れている。その川を目で追っていくと段差で川が消えていて恐らく滝になっているのだろう。
「確か遭難の時は川沿いに下れか」
いつもの習慣に従い思わずスマホを取り出し検索をしかけて途中で辞めた。
「あ〜バカか俺は」
当たり前だがこんなところでインターネットが使える訳がない事に気付く。
こうなると世紀の大発明も何の役にも立たないただのお荷物だ。ただの重量物と成り下がったスマホを放り投げようとしたが…
2日前。何とか抽選に選ばれた上4時間並んでようやく手にしたマットブラック仕上げの最新機種お値段47万円は勿論分割払いはここでは何の役にも立たないどころか体力を削るだけの重量物だ。残念な事にウォッチとイヤホンとパッドもセットで購入してしまった。総額100万を超えてしまったが、ブラック企業勤務でお金が貯まる一方だと余計に心的疲労がデカい。何かに使わないと何の為に働いているのか時々わからなくなってしまう。だからそこまで欲しくなくても無理してでも使う様にしないと心が持たないのだ。
そこまで欲しく無いモノが今、本当の意味でのお荷物となってしまった。
「・・・ん〜。」
捨てた後、突然現代に帰れてしまう事を懸念しているのではなく単に勿体無いのだ。
この場でコレをポーンと捨てすぐに前を向ける人は大物だろう。きっと異世界でも上手くやっていけるんだろうと思う。
「ま、俺は小物だしな」
身の程をわきまえているので捨てない事にした。しかしスマホを握りしめながら少し考え込む。こうやって勝手にルールを作るのは悪いクセだ。この場で潔く捨てれたら大物?捨てられないから小物?本当にそうか?そうやって自分をすぐに過小評価するクセは良く無いのでは?
今は異世界で俺を貶めるブラック企業の奴らは誰も居ない。今俺の評価を下げたのは俺自身だ。
せっかく異世界に来た俺をまた不幸の道筋に誘おうとしているのは紛れもなくネガティブな俺自身だ。
「これじゃあダメ…いやダメじゃない!良く気付いた俺!よくやった俺!」
また自己否定をしてしまいそうな自分を押し除けて1人ガッツポーズを取りながら自分を褒め称える。
昨日も狼と戦わず、刺激せず、木の上でひたすら息を殺して夜明けを待つ判断をした俺を褒める。
そして今、スマホを捨てない決断をした自分も褒める。ま、これは特に理由は無いけどとにかく褒めておく。
「しかし後にこの時スマホ捨てなかった事が俺の運命を大きく左右する事になった」
と言うナレーションを独り言で呟いた。
こうすると何かスッと腑に落ちると言うか納得出来る気がしたので(笑)
携帯食を食べて一息ついた後、異世界の絶景を愛でるのにも飽きて来たので下に降りる事にした。幸いな事にサバイバル用品一式は常に携帯していた。これはブラック企業勤務でいい具合に精神がぶっ壊れていた。正気の沙汰では無いがいつ異世界に行ってもいいようにと重さ25kgの装備で出社していたのだ。
と、ここで有る事に気付いた。25kgのリュックを軽々片手で扱えている事に驚く。そう言えば身体の調子がいい様に感じていた。会社に行かなくて良いから精神的なモノかと思っていたがそうではない。確実に身体が軽い。いやもっとハッキリしている。
【物理的に軽い】
ふと頭上の太い枝を掴む。何かにぶら下がる時の様に上からではなく下からただ無造作に掴む。そのまま握力と腕力に任せて身体を持ち上げてみる。
「えっ!?」
なんと身体が持ち上がってしまった。
そのまま片手でスッスッスッと数回懸垂を試みるもアッサリ成功してしまう。
「何だこれ?」
ハッキリ言って困惑だ。長年デスクワークで勿論ジムなど行った事が無い。
なのに動画でよく見るゴリマッチョ並みの懸垂が出来てしまった。
恐らく地球より重力が弱いのだろうか?そのくらいしか思いつかない。
ま、良い事なのであまり深く考えずに受け入れる事にした。
ロープや道具や駆使しようと考えていたが、ロッククライミングの様に握力にモノを言わせて木の凸凹を掴んで降りた。
降りてきた巨木をしばらく呆然と眺めてしまう。こう言った困難をフィジカルだけで乗り切れたのは初めてかもしれない。
「ドクン」
心の奥深く、それは奥底に埋もれてしまっていた【オス】としての自尊心が溢れてくるのが分かる。久しぶりに自分の掌をジッと見つめ、その手を何度かグッパグッパしてみる。
ふと目についた足元の手頃な石を拾い強めに投げてみると
「ドシュッ!」
とんでもない風切り音と共に曲線では無く直線で飛んでいき木に当たってパーンと砕け散った。多分100km以上出てた気がする…
「いやいやいや。これはとんでも無いことやと思うよ」
どうも現状にかなり浮かれている様で変な独り言を言ってしまう。何だかさっきの狼にも勝てそうな気がしてくる。ともあれさっきの投石や懸垂のお陰で未知なる異世界の川沿いを下る勇気が俄然湧いて来た。やっぱりフィジカルが強いとあらゆる行動の原動力となるのは間違いないなと思った。
川沿いの移動中、ほんのチラッと一瞬しか見えなかったが多分ギュスターヴみたいな生物がいるのが分かったので川から20m程離れて歩く事にした。幸いまだモンスターらしいモンスターには出会っていないが、動物的な奴はチラホラ見かける。デカい狼もそうだが角兎とか対岸にデカい猪も見た。荷物も身体も軽いお陰で遠くに見えていた滝まで割とすぐに到着した。
予想通り滝になっていたがそのスケールは予想とかけ離れていた。少し湾の形になっていてその高さと長さはナイアガラの3〜4倍はありそうで余りの大迫力に思わずスマホで撮ってしまった。
「しっかし…これどうやって降りるよ?」
200m程有りそうな崖下を覗き込むと少し下が段になっていた。少しと言っても20mは下だが隠れ家的で安全そうな場所なので正直ちょっと冒険心がくすぐられた。一応ロープで命綱をして降りたが、10秒もかからずスイスイと降りれてしまった。
岩にかかった指に軽く力を入れるだけで身体を固定で来てしまう。ビシッと安定する。例えるならまるで水の中でクライミングをしてる様な感じだ。
「あれ?これもしかして200mイケちゃう俺?」と本気で思ってしまう。隠れ家なスペースに降りてはみたもののすぐに飽きてしまった。休憩場所としては満点だが今は別に疲れても無い。
むしろクライミングが楽しくてちょっと200mにチャレンジしたくなってしまっている。
「ふぅ、」
大荷物を抱えているにもかかわらず割と簡単に降りれてしまった。改めて見上げると凄まじ断崖絶壁だよこれ。しかし重力からの解放がこんなに楽しいとは考えもしなかった。
これで魔法とか存在する世界ならと考えると居ても立っても居られない気持ちになる。
俺は足早に川沿いを下る事にした。しかし、何と言うかさっき迄と雰囲気が違う…?何がと言われると具体的には言えないが、植生とかどんよりした雰囲気?としか言いようがない。
「ギャギャッ!」
遠くで何かが鳴いたのが聞こえた。
「ガサガサ…」
音がした所から何かが左右に走る、それはまるで俺を包囲するかのように。
緊張が走る。
わかる、これはハントだ。勿論獲物は俺。
命を狙われる緊張感がさっきまでの自信を消し飛ばしとにかく逃げる事に頭が切り替わる。
「カサッ……」
気配の主は少しづつ距離を詰めて来ているのがわかる、完全に包囲されている。
どうする!?どう逃げる?!前後左右は恐らく無理、となると上、俺はリュックの横ポケットから鉤縄を出し素早く頭上の枝に引っ掛けた。
グッと引いてみて感触を確かめる。
その瞬間真後ろから「バサっ!!」と音がしたので後ろを振り返る事なく手に持った縄を力一杯引くと一気に体が宙に浮いた。
そのまま上にあった枝に捕まりどうにか難を逃れ下を見下ろすと緑色の人型生物が4人?4匹?多分ゴブリンだろうかコチラを見上げていた。
悔しがったり喚いたりせず、ただジッとコチラを見ていた。ゴブリンはお互い目線を合わし軽く頷き何処かへ消えていった。
アレはヤバいかも…思っているより知能が高そうだ。これはちょっとアレだな、地面に降りるのが正直怖くなって来た。
しばらく木の上でやり過ごす事にしたので取り敢えず枝の上でゴロンと寝そべった。
「ズドッ」 「ん?」
音がした方に目をやるとさっきまで頭があった位置に槍が刺さっていた。
「なっ!?」
下を見るとゴブリンが槍を構え正に次の攻撃を繰り出す所だった。それに一瞬早く気づけた俺は何とか身を躱す。
ズド!
「うぉっ!危な!」
ゴブリンは槍を3本投げるとネタ切れになったのかついに木を登り始めた。ゴブリンの手足の爪が割と凶悪でワイルドな感じでいらっしゃる。
手に持っているナイフと爪を使ってグングン登って来る。俺は焦りながら何か投げるモノを探してリュックを見る、ポケットから焚き火用の着火剤が見えたのでそれを登って来るゴブリンに垂らしてやり火の付いたマッチを落としてやった。
ガソリンの様には燃え無いがそれはメラメラしつこく燃える感じでゴブリンにの顔にまとわり付く。
ゴブリンはたまらず両手で顔に付いているゲル状の着火剤を払うが両足の爪で木にホールドしていた。
「何だと!クソッ!」
慌ててリュックを探り、アレがあったのをやっと思い出せた。
【コンパウンドボウ】
滑車とケーブルでテコの原理や複合材料など力学と機械的な要素で組み上げられた近代的な弓である。
しかも俺のはナイトスコープのオプション付けまくりの違法ギリギリチューンナップを施した自慢の一品。
しかも切り替えで矢とパチンコ玉どちらも射出可能…ヤベ!
すぐそこまでいらっしゃってたので顔面目掛けてパチンコ玉をフルショット。
「パシュッ」 バチッ!!
綺麗に眉間の鼻の付け根に当たりたまらず木から剥がれ落ちるゴブリン、それを下の2匹が受け止めたので大事故になり損ねてしまった。
「チッ、まぁいいや。でもこれで俺が優勢だな、いざとなりゃあ殺傷力のある矢もあるしな」
下から見上げてくる3匹のゴブリンはやはりジッとコチラを…!?
何だこれ?何か知ってる…既視感?何かムカつくこの感じ…
入社仕立ての新人の頃、熱意と勢いだけで足を使って取った大口契約。上司がサポートするから何やかんやと理由を付けて横取りされたクソ上司の顔と被る。正にアレだ、企みが成功した時、顔は笑ってないが目だけが笑っている…何を企んで…3匹…ハッ!
最初4匹居たのを思い出した!後ろを振り返るともう手斧を振りかざしていた。
「う、うわぁっ」
俺は情け無く枝にしがみつきながら足だけでシッシッと蹴るマネをしていたらゴブリンの腹に軽く当たった、と思ったら
「ゴフッ!」
ゴブリンは2mほど吹っ飛び落下して動かなくなった。寝そべった状態で膝先だけの蹴りとも言えない蹴りでだ。
「え、あれ?」
落下したゴブリンに3匹が安否を気遣っている。コチラを見上げる顔には先程の笑は無く、その目を見ると立場が一気に逆転したのを悟った。
俺は迷う事なくコンパウンドボウを切り替えて殺傷力のある矢をつがえる。
「パシュッ」 カン
また同じ眉間に当たるが今度は痛がるヒマもなかった様だ。
それを見て残り2匹は走り出したがすぐに後頭部を貫かれ倒れた。
最後の1匹は少し遠くになってしまったが心臓付近の胴体に当てる事が出来た。
「はぁ〜、危なかった」
警戒しつつ下に降りて矢を回収する。勿論サバイバルナイフを構えて残心だ。幸い死んでくれていたのでサバイバルナイフの出番は無かった。
生き物を殺したのはゴキブリ以外ではあまり記憶に無い。喧嘩すらした事無いのにそれをスッ飛ばしていきなり殺し合いだ。罪悪感はない、だって向こうも殺しに来てたからね。ただの弱肉強食、自然の摂理、むしろ興奮している。俺が生き残りゴブリン共の死体を見下している、命のやり取りに勝ち残った優越感がヤバい。身体の奥の奥、心の底から味わった事の無いザワザワしたものが溢れ出して来る。
わかる、男の男たる本能。忘れていた暴力の解放。
ここじゃあ本気の殺意を遠慮無くぶつけてもいい世界なんだと改めて認識する。
多分俺は今、あの時のクソ上司みたいな顔をしてるんだろうな。なるほどね、