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5.事件簿:狐坂(5)

「オミナ。緊縛符、出せ。」

 俺は左手首に着けたスマートバンドに命令を出す。

「緊縛符、出力中。完了。」

 落ち着きのある低音の女性の声がスマートバンドから流れる。

 スマートバンド経由でスマホに搭載したAI『オミナ』が俺の命令を受領したのだ。同時に命令も実行される。

 無線でスマホと接続された腰のラベルプリンタが動き出し、達筆な毛筆で描かれた一枚のラベルが出力された。かなり文字を崩しており、余白には力を強める飾文字を加筆してある。

 つまり、俺にしか読むことはできない。この様な画像を数十種類保存しておき、その都度プリンタで出力する。こうすれば、いつでも必要な札を用意できるだろ。それに書き損ないも無いしな。

 ちょいと紙に書くより単価が高くつくが、そこは効率重視ということでよろしく。

 ラベルを人差し指と中指で挟み、血力を込める。

「発!」

 俺は、緊縛符に籠めた血力を開放した。

 不良共の足元に赤い多重円が発生し、無数の触手が多重円より生まれる。同時に札は赤い霧となって空に消えた。

 無数の触手は、不良三人組を絡め取る。不良達は触手に足掻こうとするが、関節を固められ身動きがとれなくなっていた。何か騒いでいるが、聞こえねえ。無視無視。

 よしよし、予定通りに動作したな。これで三人の自由を奪った。

「オミナ。忌避符、出せ。」

「忌避符、出力中。完了。」

 ラベルプリンタから更なるラベルが出力される。先程とは、違う文字内容だが達筆である事は変わらない。

 新たなラベルを指二本に挟み、血力を込める。

「発!」

 俺の足元を中心に半径二十メートルの赤い多重円が発生する。指に挟んだ札がまたも赤い霧となり散っていく。

 これは、人払いの結界だ。これで赤い多重円の存在に気づく者は無く、中で行われていることが見えても聞いても認識できない。そこには何も無いと思い込む。無論、円の中に入ろうとすらしない。

 もっと人目に付かない方法もあるが、それは俺が疲れるから今回はしない。片付け屋も来るし問題無い。飾が呼んでくれたから、片付け屋への俺の持ち出しは無い。経費削減よし。

 こんな雑魚に注ぎこむ血力と財力は持ってないのだ。もったいない。


「くそ、動けねえ。」

「何しやがった。」

「さっさと離せ、ぶっ殺すぞ。」

 不良共が喚くが俺は一向に気にしない。結論を決めてからの俺の心は穏やかだ。

 どの様な罵詈雑言を浴びても冷静でいられる。だが、身体の中を廻る血は熱い。血力が活性化している証拠だ。

 俺はリーダーの伸縮警棒を奪う。飾は板間に可愛く座り込み、観戦体勢に入っていた。

 よしよし、安全地帯に居るな。なら遠慮なく。

「手前、こんなことして分かっているんだろうな。」

 リーダーがガンを飛ばしてくるが、何も怖くない。俺にとっては、目つきが少しきつくなっただけだ。はいはい、がんばってね。

「なあ、たまには違う言葉を発してくれないか。不良のルールでもあるのか。」

「ああ!ある訳ないだろう!馬鹿か!俺達は自由なんだよ!好き勝手に生きるんだよ!」

「その割には、お前らって同じ様な格好をして、同じ様に酒を飲んで、タバコを吸うよな。どこが自由なんだ。」

「は!法律も大人の言うことも聞かないアウトローだよ!カッコイイだろ!」

「その発想って、小学生じゃねえか。法律を守らないんじゃなくて知らない。大人の言う理屈が理解できない。

 知能指数が低いだけじゃねえか。どこがかっこいいんだ?なあ?」

「うるせえよ。説教は聞きたくねえよ!」

「俺、説教したか?不良にルールがあるのか、聞いただけだぞ。」

「うるせえ、離せ、オッサン。」

 リーダーは喚く。

「とも君、そういう奴は言葉じゃ理解できないよ。」

「あ、そうだったな。ありがとう、飾。俺としたことが初歩的なことを忘れてたわ。」

 俺は無造作に伸縮警棒をリーダーの顔面に叩き込む。こいつらには言葉でなく、暴力を見せつけた方が大人しくなる。

 鼻が陥没し、盛大に血しぶきが飛ぶ。ああ、汚ねえ。警棒があって良かった。

 痛みなのか、顎の関節が砕けたのか、リーダーはあわわしか言わなくなった。じゃあ、次な。

「お前、不良Bな。面倒かけるなよ。」

 俺はリーダーの右側に立っていた不良を指差し、勝手に名前を付ける。こいつらの個人情報には興味ないからな。

「な、なんだよ。お、おれも、やるのか。そ、そんな、脅しに、の、のるかよ。」

 威勢の良い台詞を吐くが声が震えている。ようやく、状況を理解し始めたか。低能には、暴力って便利だよな。絶対勝てない相手に喧嘩を売ったことを。

「お前ら、ここで何した?」

「お、おっさん、には、か、関係、ね、ねえよ。」

 関係ないという事は、何かをしたということだ。やはり、黒か…。こいつら、この世に要らね。

 俺は無造作に伸縮警棒を振るう。不良Bの太腿を強打する。

 不良Bは、余りの激痛に倒れそうになるが、自由を奪う触手が倒れることを許さない。太腿ならぶっ壊しても会話はできるだろう。

 不良Bの額から大量の脂汗が流れてる。これは骨が折れたな。もう、威張る元気すらとれないのか。他愛無い。

 リーダーの左側に居た奴に目を向ける。こいつは不良Cでいいか。

「お前は不良Cだ。ここで何した?」

 同じ質問を繰り返す。不良Cは震えるだけで答えない。もう一押ししておくか。

 見せしめに、不良Bの反対の太腿へ伸縮警棒を叩き込む。

「ぐがあが~!」

 確実に骨を折ってやった。これで不良Bの心は折った。ついでに不良Cの心も折れてると楽なんだが…。

 不良Cの頬を伸縮警棒で突きながら、もう一度質問を繰り返す。

「ここで何した?」

 不良Cは、顔面が陥没したリーダーと両足を折られた不良Bを見比べ、最後に俺の顔を見て俯いた。やれやれ、観念したか。

 そして、ぼそぼそと話し出す。


 まあ、要点の得ない下手な話し方だ。俺が知りたいことを明確に聞かなきゃ答えねえ。

 一を聞いて十を知る何て芸当はできないタイプだ。

 廻りくどい尋問を続ける。仕方ないよ。全貌を知る為だ。これもお仕事の内だからね。

 時間をかけて聞き出したことをまとめると、

 ・暇な時は社にたむろしている。

 ・ここで葉っぱ吸ってラリる。

 ・時々、拉致ってきた女を三人でまわす。

 ということだった。このカス共が。

 今回、飾の同級生はその被害に遭ったわけだ。ご愁傷様。

 だが、男を怖がったりする雰囲気は無かったな。どういうことだ。母親もただの病気の様な対応だった。こういう場合、誰にも会いたくないものだが…。

 俺は目の前で繰り広げられる不良共に強いた実演を蔑み乍ら見、同時に考えていた。

 あと一欠片が足りない。鍵はあいつか…。


 俺は符術で不良三人をオモチャにしている。不良B・Cにリーダーが美女に見える様に催眠をかけ、さらに劣情を及ぼす様にした。逃げ惑うリーダーを抑えつけ蹂躙する。

 リーダーは止めてくれ、痛い、助けてと叫ぶがその度にB・Cのどちらかが殴りつけ黙らせる。

 これが当時行われていたことの再現か…。ひでえ扱いをしやがる。

 沸騰しそうだった熱い血が収まる。どうやら、俺の憤怒も落ち着いたようだな。

 おや、神域に神性が戻っているな。目の前の獣の営み以外は、清浄な空気が流れてきているな。

 神棚を見ると鏡が青い光を発していた。空気の源はここだ。力を取り戻したのか。

 飾は、すぐに俺の背中に隠れる。そだね。神性さを感じても味方とは限らないものな。ちゃんと逃げて、偉い偉い。

 青い光は人型へと固まると若武者の姿となる。狐坂で見た若武者はボロボロの落ち武者だったが、この若武者は新品同様の鎧に身を包み、刀は腰に差したままだ。

 だが、顔は間違いなく落ち武者と同一人物だな。

「不届き者への劫罰ごうばつ、感謝する。」

 若武者はそう言うと両手を腰にあて、軽く会釈する。若武者の礼か。

「いや、別にアンタの為にしたわけじゃない。俺がムカついただけだ。」

「この後、この獣共は如何にするのであろうか?」

「女役を順番に変らせて、一周した後に殺す。この世で何の役にも立ってねえからな。」

「相分かった。某からもその様にお頼み申す。」

「で、この前の女に何かしただろう。何したんだ?」

「あれは、女子おなごにはあまりもの惨い仕打ち。だが、某には止める力が無いゆえに記憶を改竄し申した。少しでも心安らかになれば良いのであるが…。

 力無き神で相済まぬ。」

「ああ、参拝者、つまり信者少ないから神力を発揮できない訳か。」

「その通りである。立派な社に祭られているにもかかわらず不甲斐無し。某の願い聞き届け頂き、心より感謝申し上げる。」

「あの女の額の痣は手前の力の所為か。」

「誠に申し訳ござらん。記憶は問題無く改竄した。ここの古井戸に落ちて、体のあちこちを殴打し、全身が濡れ、風邪を引いた。その様に思っておる筈。

 ちと、力を強く込め過ぎて手形が残ってしもうた。それについては、心よりの詫びを。」

 これで最後の一欠片が埋まったか。だが、一つだけ納得できん。

「で、何で切りかかってきたんだ。」

 ファーストコンタクトで、奴は刀を二度も振りやがった。殺す気か?

「すまぬ。てっきり、悪党共の一味かと…。」

 若武者は両手を合わせて俺を拝む。拝まれてもなぁ。

「俺って、そんなに悪党面なのか…。」

 俺の背中に体重がかかり、頬に温もりを感じた。

「うん、悪党面だよ。善人ではないよね~。」

 飾が頬をくっつけたまま感想を述べる。蕩けるような甘い香りが俺の鼻を刺激する。嗅ぎ慣れた飾の体臭だ。おっと体臭と言うと怒られるな。薫りと訂正しておこう。

 血と脂の匂いが籠った社の中で俺を現実に引き戻す。だが、絶対にバレてはならない。弱みは見せてはならないのだ。何事も無かったかの様に会話を続けるのだ。

「嘘だろ~。俺って曲がり者として、妖異からの困りごとを解消してるんだぜ。善人だろ…。」

「相済まぬ。今後は、人を見かけで判断せぬゆえ、お許し願おう。」

 若武者は真面目に言うが、それって悪人面を肯定しているんだぜ。とほほ。

 俺は、この傷心を不良共にぶつける。ふう、少しはスッキリした。


 後日、事務所にいつもの様に元気に飛び込んできた飾から同級生が何事も無く登校してきたことを聞いた。社も片付け屋が綺麗にしてくれた。

 どうやら、俺の仕事は完遂した様だ。

 さて、あとは報酬を振り込まれるのを待つばかり、久しぶりに贅沢して牛丼でも食うかな。

 無論、持ち帰りだ。生卵をのせたいからな。家でのせる方が安くつくだろ。

 次の依頼、早く来るといいな。

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