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4.事件簿:狐坂(4)

「さてと、これからの予定だが。」

「若武者の指差したとこだよね?」

 さすが、幼馴染兼育ての子。俺の考えをしっかり分かってる。あれ、育ての子って言葉あったけ。まあ、いいか。意味は通じるだろ。

「あいつが指差したのはどこかな。」

 ポケットから飾に貰った地図を取り出す。

「ここに若武者が居て、指差したのが南か。」

「で、その先をなぞっていくと。」

「鳥居の地図記号があるな。」

「ここでいいのかな?」

「狐坂の崖の下か。俺の足元を指したのじゃなく、崖下を指していたと考えれば、辻褄が合うな。さて、この社には何があるのやら。」

「行けば分かるよ。ね、とも君。」

「ま、そうだな。とりあえず行くか。」

「うん。」

 飾は信頼しきった眼で俺を見つめてくる。

 俺は行き当たりばったり何だが…。信頼されると困る…。その信頼に応える自信は、売り出し中の曲がり者である俺には無いんだが…。


 地図にあった崖下の鳥居の地図記号の場所へと俺達は居る。

 塗装されず木目が剥き出しの鳥居があった。鳥居には看板があがり、○○社と書かれているのだが、肝心の上二文字が汚れて読めない。

 そう、それだけ汚れて読めなくなるほど、古い社だった。歴史だけはあるのだろう。

 神社という規模ではない。村の社という感じだ。

 雑木林に囲まれ、人気は無い。枯葉の上に獣道の様な跡がある為、誰かが参拝はしている様だ。社の背後はそびえ立つ崖。ここは狐坂のヘアピンカーブの真下になる。

 鳥居を潜れば、すぐに小さな社が一つ。六畳一間くらいだろうか。

 屋根は苔生し、柱も良い感じに色褪せている。味がある、いやあ、雰囲気を出してるね~。

 その脇には獣道が続いている。どうやら、ここから狐坂へ上がる山道がある様だ。

 昔はこちらが本道だったのだろう。車が走る様になり、車道が別のところに取り付けられ、今の形になったのだろう。

 つまり、落ち武者が指差していたのは俺の足元ではなく、この社だったわけだ。道路を掘る破目にならなくて本当に良かった…。


 俺達は鳥居の前にスクーターを止め、小さい境内に入った。

「変化が無いな。」

「清浄感が無いね。」

 神域は、一般的には清浄な空気に満たされている。だが、街中の欲に塗れた穢れた空気と変わらない。

「何かがおかしいな。社を確認するか。飾、離れてろ。」

「はいは~い。」

 飾が鳥居をくぐり、神域から出たことを確認した。

 俺は、社の観音扉をゆっくり開く。

 中は六畳ほどの大きさの板間か。奥には小さな祭壇が拵えられているな。

 残滓でも残っていれば警戒するのだが、何も感じられない。神性も魔性も感じられない。ただの古い建造物にしか見えない。札を用意する必要はないな。

 板間には埃があまりないな。隅は埃だらけだが、誰かが頻繁に使っているのか。

 祭壇を見ると、丸く平たい錆びた金属の塊が倒れていた。

 手のひらサイズの金属を持ち上げ、観察する。そこそこ重い。青銅で出来た物だな。

 細かい彫刻がされているが、これは何の模様だったかな。縞々を囲む丸い線。はてさて、どこかで見覚えがある様な無い様な。

 俺の右肩に重みが生じ、飾の頬が俺の頬にひっつく。俺の背中越しに飾が青銅の塊を覗き込んでいた。

「離れてろって言っただろ。」

「だって、残滓も悪意も感じないもん。大丈夫だよ。」

 飾の言葉通り、残滓も悪意も感じない。御神体なのに神性や霊性も感じない。ただの青銅の塊だ。危険は無いだろう。

「この模様って、亀の甲羅に似てるね。」

「ああ、なるほど。どこかで見たことがある訳だ。亀の甲羅を模しているのか。」

 俺は青銅の塊を裏返す。こちらの面は、平らで彫刻の痕も無い。

「つるつる。」

 お前もな、と思った。かろうじて声に出さない。危ない、危ない。セクハラ発言だ。普段から言動には気を付けないとな。

 青銅の塊は、鏡だった。鏡には神が宿ると昔から信じられている。

「鏡だな。しかし、何も籠められていない。どうやら、神性が抜けてしまったようだな。」

「じゃあ、落ち武者は、消えた神様を返せって言いたいのかな?」

 飾は俺にくっついたまま、話す。飾が口を動かす度に俺の頬に振動が伝わってくる。

 寒いのか。仕方ない奴だな。しばらくは背中にぶら下げておいてやろう。

「なら、『おとせ』じゃなく『返せ』だろ。」

「じゃあさ、鏡を落としてみる?」

「それは止めておこう。さすがに違うだろ。」

「だよね~。『おとせ』って何だろうね~。」

「不器用な奴だ。もう少し解りやすく、伝えてくれないだろうか。」

「いきなり切りつけて来るんだもん。感情表現が下手だよね。」

「お前は逃げてただろ。」

「だって、僕が怪我したら、とも君が困るんでしょ。」

「ぐっ。その通りだ…。」

 飾にかすり傷をつけただけで、クソジジイが切れ散らかす状況がまざまざと目に浮かぶ。

「今後もさっさと安全圏に逃げてくれ。」

 俺の身の安全のためだからな。

「りょ~か~い。で、次はどうするの。」

「このままでいいよ。」

「は~い。」

 というのも、社殿の外に悪意を持つ者が三人現れたのだ。何と運がいい。どうやら今回の仕事は今日中に終わりそうだ。よし!黒字だ。


「おいおい、男同士でなにやってるんだ。」

「BLってやつか。」

「俺達に続きを見せてくれよ。」

 若い男の声が背後から掛かった。声の質から十代後半だろう。俺は飾をおんぶしたまま振り返った。

 社殿の入口には、不良少年の見本の様な三人が立っていた。

 ジャージの様な、パーカーの様な、同じ様な服を着ている。不良をやるのにルールがあるのか。何で皆見た目が同じ様なかっこをするんだ。

 周囲がウザいからドロップアウトしたんだろ。なら、そんな型に嵌まらず、オリジナルを出せばいいのに…。

 で、くわえタバコか…。別にタバコや薬やろうがどうでもいいが、俺に迷惑をかけるな。家でラリってろ。ま、おつむが悪いから無駄にしんどい生き方を選ぶんだろう。

 ルールは表面上だけ守り、あとは好きに生きれば良いのに…。わざわざ、俺はルールを守りませんって、宣言するって馬鹿だよな。

 ああ、だから頭の良い悪党共の駒にされて使い捨てにされるのか。なるほど。悪党共にとって都合が良い訳だ。

 使い捨ての駒を拾う目印に最適ってか。マンガとかで上手く刷り込んでやがるな。

 本当の悪党って頭良いよな。絶対、表に出て来ないし。

「おいおい、ビビってんのか。何か言えよ。」

「無理無理、女も抱けないホモ野郎だぜ。そんな根性ねえよ。」

「本当に玉なしかもな。見せてみろよ。なあ。」

 俺は何も言わない。飾は顔を見られぬ様に俯き、ワークキャップのつばで顔を隠している。

 さて、事件の全貌が見えてしまった。三人に黒い残滓がこびり付いている。

 しょうもな。いや、被害者には不謹慎だな。

「おっさん、何か言えよ。ちびったのか。」

 三人のリーダーらしき少年が一歩前に出る。どうやら、力関係を全く感じ取っていない様だ。

 こいつら三人、俺一人に勝てないことを理解していない。力の差を感じないのか。犬猫でも力の差を理解するというのにな。

 まあ、現代人の大半は、野生の勘が鈍っている。対峙した相手の力量を計れないのも仕方ないか。


 リーダーからは、色欲の残滓が特に色濃く表れている。真黒だ。

 こいつ、常習犯か…。救えねえ。俺が一番嫌いなタイプだ。

「聞こえてんのか。返事しろよ。」

「こいつ、ビビり倒してんよ。」

「いつも通り、狩るか。」

 はあ、狩るとか言ってるぞ。自分達が強者だと思っているのか。弱い者いじめしかしたことがないアホの分際が。沸々と熱くドロリとした怒気が血を滾らせていく。熱い。

 落ち武者の怒りの原因がわかった。こいつらだ。こいつらの行動が落ち武者の怒りに触れたのだ。落ち武者に切られるという、とばっちりを俺が受けたっていうことか。益々、腹が立ってくる。

「なあ、飾。」

「なに、とも君。」

「いいよな。もう。」

「そだね。価値ないね。片付け屋に連絡を入れとくね。」

 飾はそう言うと俺から離れた。

 つまり、自由に戦って良しとお許しが出た。スポンサーの許可さえ出れば、俺は自由に力を使う。何せ、経費がかかるからな。はぁ、貧乏じゃなきゃ、自分の意志で決められるのに。

 俺は選べない。全てスポンサーの都合に振り回せるのだ。

「何、ぶつぶつ言ってるんだよ。無視するんじゃねえよ。」

 リーダーの怒りが沸点に達したらしい。くわえタバコを吐き捨て、ポケットから伸縮警棒を取り出す。はいはい、ステゴロなし。武器で蹂躙タイプか。こちらも手が痛くなくて助かるよ。

「蹂躙する。」

 俺のこの言葉が口火となった。

「は、何だと!」

「潰す!」

「殺す!」

 不良共の逆鱗に触れた。

 蹂躙という言葉は理解できるのか。なんて、どうでもいい感想が浮かんだ。

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