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1.事件簿:狐坂(1)

 千年の歴史を越える政令指定都市の北東部のオフィス街に細長い五階建てのオフィスビルがある。近くには公立大学、高校、中学校、小学校もあり、生徒や学生達の元気さが溢れている街だ。

 築年数は五十年を超えており、最新の耐震基準を満たしていないボロビルだ。

 エレベーターは無い。階段で昇降するしかない。多分、壁や天井にアスベストも使われているだろうから、簡単に壊すこともリフォームすることも難しい。

 テナントを埋める為に年季の入りの割には、見た目は非常に綺麗だ。オーナーが定期的に改装を施している効果だ。

 細長さに比例し、ワンフロアに二部屋しか無い。ビルの中央の階段を挟んで、向かい合わせになっている。非常階段も無く、唯一上下に移動できる手段だ。

 壁は薄いが隣合わせで無いので、音漏れの心配は無い。古さゆえか、空室も目立つ。

 これって、今建てたら消防法や建築基準法違反、間違いないだろうな。

 が、背に腹は代えられない。テナント料が安い。相場よりもかなり安い。金が無い貧乏な俺には都合の良い物件だ。

 そのビルの二階に部屋を借り、窓ガラスに「識屋」と明朝体でカッティングシールを張っていた。

 普通、広告や屋号は目立つようにするものだろう。だが、それは必要最小限度の大きさで注意深く見なければ目立たない。

 一般人向けの商売じゃないし、馴染みと紹介客がメインだ。その紹介客に存在を気づいてもらえれば良いからな。

 一般人には何を生業としているのか分からないだろう。電話番号の表示も出していないし、出す予定も無い。ホームページやSNSもしていない。広告の類は出していない。意味が無いからだ。

 ひっそりと事務所があり、必要とする者だけに分かれば良いのだ。

 そんな胡散臭い処が、俺の城だ。俺こと、弓削ゆげ智典とものりは選べない。

 自分の城すら自由に選べない。デザイナーズマンションや一戸建てに住んでみたい。

 早く、貧乏から抜け出したいぜ。


 その事務所の事務室兼応接室兼リビングで、俺はだるそうに事務椅子に座り、タブレットを眺めていた。

 タブレットには細かい文字が並んでいる。電子書籍だ。

 俺は、購入したばかりの推理小説を読み始めていた。

 この推理小説を選んだ理由は特に無い。ネットショップでおすすめにあがり、評価が高かったからだ。俺は本のジャンルにこだわりは無い。活字中毒の乱読家なのだ。

 純文学からライトノベル、古典も読む。読まないのは専門書や図鑑くらいだろうか。

 あれらも好きなのだが、いかんせん電子書籍で読むのには向いていない。あれらは、紙の本でないとな。

 ちなみに今読んでいる本は、半額+ポイント還元セールで実質無料であることも選択した理由だ。金が無いんだよ。畜生。

 貧乏なりにささやかな贅沢はしている。本を読む時には、必ずコーヒーを手元に用意しているのだ。

 缶コーヒーは手軽なのだが、空き缶を捨てるのが面倒だ。

 また、ペットボトルのコーヒーも同じだ。空きペットボトルを捨てなければならない。

 ゆえにインスタントコーヒーを紙コップで作るのが、一番面倒が無いという結論に辿り着く。粉を入れお湯を注ぐ。紙コップを軽く回せば、スプーンやマドラーもいらない。

 飲み終われば、燃えるゴミとして処理できる。そうゴミの分別と言う手間が省けるのだ。

 それに洗い物も出ないしな。

 恥ずかしい話だが、1回の使用では捨てない。最低2回は使う。だって、もったいないだろう。紙コップだって高い物なのだぜ。

「やはり、これが最適解だな。」

 俺は事務机に足を投げ出し、淹れたてのコーヒーを味わう。いつも適当に作っている為、一定の味にはならない。どうせ、コーヒーの違いなんて濃いか薄いかくらいしかわからない。

「よし、今日は丁度良い濃さだ。うまい。やっぱりブラックが一番。頭が冴える。さて、この後の展開はと。」

 俺はタブレットの小説に没入しようとするも、それは叶わなかった。

 事務所の扉がバンと勢いよく開かれた。

 そこには、MA-1ジャケット・レギンス・スニーカー・ワークキャップを着た背が高く線の細い少年が立っていた。今日も来たか…。お邪魔虫 兼 金づる。

「とも君、お仕事持って来たよ。恩に着たまえ。えへん!」

 その声は、高音で涼やかだ。それは、少年でなく少女であることを示していた。

 ジャケットのせいか体の線が分からず、少年に見えるのだ。

 髪型も勘違いの一因だ。本人曰く、本当は長い髪なのだが、三つ編みにした毛を後頭部で丸くまとめているそうだ。俺は、その長髪の姿を見せてもらったことが無い。まあ、どうでも良いか。

 で、その髪型とワークキャップによりショートカットに見えるのだ。


 少女は肩に下げていたスポーツバッグを応接セットの机に置き、ジャケットを脱ぎ、ハンガーにかけた。肩についていた桜の花びら一枚がヒラヒラと舞い落ちる。

 ジャケットを脱ぐと黒いタンクトップが現れた。タンクトップとレギンスの組み合わせであれば、身体の線がはっきり出るのだが、やはり起伏に乏しい。

 十六歳になったし、成長期はもうすぐ終わりか。この体型で確定だな。

 ちなみに、うなじが見えたり、起伏が乏しいのが、俺好みであったりするのは絶対の秘密だ。

 この秘密だけは、こいつに握られてはならん。一生、こき使われるからな。だから誰にも言うなよ。

 ちなみに巨乳は苦手だ。どうしても生理的に受け付けない。

 男が皆、巨乳好きだと思うなよな。俺みたいな微乳好きもいるんだからな。

 と思いつつも声には出さない。子供に弱みは一切見せてはいけない。大人の沽券にかかわることだからだ。

 まだ桜が散り始めた肌寒い季節だというのに、少女は薄着でも元気一杯だった。

 少女は、隣の給湯室に入るとガチャガチャと音を鳴らし、紙コップを手に応接室へ戻ってきた。紙コップからは湯気が出ている。

 また、勝手に紅茶を入れてきやがったか。

 紙コップから立ち上がる薫りで中身が分かったのだ。

 ここの主である俺に対して、給湯室使用の承諾は一切得ない。

 少女はこの事務所開業時より入り浸っており、勝手知ったる何とやらだ。もう注意する気も起きない。好きにしろ。

 ちなみに俺が紅茶を買い置きした訳じゃない。少女が勝手に買い置きしたのだ。

 その内、事務所を乗っ取られるかもしれないな。

 その時は、家賃を払ってもらえばいいか。


 俺はタブレットをスリープにし、事務椅子に正しく座り直す。

 少女が何をしに来たのかは分かっていた。その話を聞くには、事務机に足を放り投げたままで聞くわけにはいくまい。だが、溜息をつきつつ、うなだれる。

「貧乏が悪いんだ。何で女子高生が持ってくる仕事で喰い繋がなきゃならんのだ。一発、でかい山を当てたいよなぁ。」

 少女が持ってくる仕事は、俺の生命線だった。今月も仕事が少なく、テナント料が払えるかどうかの瀬戸際だ。

 つまり、弓削智典は選べない。

 事務所も仕事も選べない。仕事の選り好みをする贅沢は許されないのだ。

 情けなくなる気持ちを切り替え、少女の方へ向き直った。

「で、かざり。今日はどんな案件を持って来たんだ?」

 飾と呼ばれた少女はスポーツバッグから一枚の紙切れを取り出し、俺の真正面、つまり事務机にドカリと座り込んだ。

 相変わらず、行儀が悪いな。クソジジイに行儀作法を仕込まれているだろうに。

 そんな行儀の悪さを批判する俺の視線を無視し、飾は紙切れを俺の前に差し出した。

 それは一枚の地図だった。

 地図には赤丸が一つついていた。

『狐坂』

 この街の北部と山間部を繋ぐ道だった。道幅は二車線あるのだが、途中、百八十度のヘアピンカーブがあり、高低差も激しい。ここを観光バスが曲がるには、対向車線に大きくはみ出し、車体の底を擦りながらでないと曲がれない有名な坂だ。

 ちなみに怪奇スポットでもある。今回は妖異絡みかな。

「で、この坂がどうした?」

 男は地図から顔を上げると前屈みになった少女が目の前に居た。完全に距離感がバグっている。必要以上に近い。

 そして、タンクトップが重力に従い、弛んでいた。首元からヘソまで中がしっかりと見える。

 そう、起伏が少ないから途中で視線を遮る物が無いのだ。

 そして、大人しいデザインのシンプルな白いブラが弛み、胸先のぽっちが見える。それはそれは綺麗なピンク色だった。

 この馬鹿たれは、本当に警戒心がねえな。

 ちなみに俺の竿はピクリとも反応してないからな。

 それにしても、学校でもこんな感じなのか。飾の通う高校に制服は無い。私服だ。この格好で学校に通っている筈だ。

 飾の高校は、共学で野郎共も居る。こんな無防備な美少女が目の前をうろついていたら、思春期の男子は大変だろうねぇ。盗撮やオカズの対象になってそうだな。

 クソジジイが知ったら、盛った男どもを殺しかねないな。

 まあ、俺は、飾のオムツを替えたり、小学校まで一緒に風呂に入れてやってたから、何も感じねえんだけどな。しかし、成長しねえな、こいつ。

 俺は気づかぬ振りをし、地図を持ち上げ、視界から隠した。男の視線に女は敏感だ。いくら兄妹同然に育ってきた幼馴染 兼 はとことはいえ、これくらいはマナーだろう。

 俺は子供には興味ないんだよっと。微乳好きだが、ロリコンやアリコンじゃねえ。

 警戒心ゼロのこの少女は、この春から近所の公立高校に通う女子高生だ。

 こいつの名前は、井筒いづつ かざり

 先日の入学式前、十六歳になった。十六歳は未成年。つまり、子供だ。

 こんなことは俺達の間にあり得ないが、お互いが『大人の同意書』を交わした上で事をなしても犯罪者にされるのは俺だけだ。

 ゆえに絶対に未成年には手を出さない。飾が中学生になってから、手に触れることすらしなくなった。危機管理という奴だな。

 俺は犯罪者にはなりたくない。

 男が性犯罪者になったら人生終了って、みんな分かってくれるよな。


 飾の見た目は、美少女というより美少年に近い。黙っていれば、よく少年に間違えられる。

 起伏が少ない体形。ショートカットに見間違える髪型。そして高身長。多分170cmはあるんじゃないか。俺より少し背が低いだけだからな。

 案外、スーパーモデルにでもなれるんじゃないかと思ったりもする。外国ではこういうタイプが受けるんだろ。

 ちなみに俺は177cmだ。えっ、興味ない。そうだよな。男のスペック何て誰も気にしないよな。

 まあ、この容姿では仕方ないだろう。少年と間違えても仕方なし。

 しばらく顔を見れば美少女であることに皆気付くし、声を聞けば即座に気付く。

 今のところ、日常生活で困ったことはないそうだ。本人が言うのだから、他人があれこれ口出すことではないだろう。

 折角、美少女に生まれたのならば、それを最大限に生かす方向に身繕いすれば、恋人もすぐにできるだろうし、得する人生を送れるだろうに。もったいない。

 ちなみに飾は、このビルのオーナーの孫娘である。雑に扱う訳にはいかない。

 オーナーであるクソジジイは、孫娘を溺愛している。孫娘の飾を泣かせるとここから追い出される可能性が、いや、必然となるだろう。俺は住所不定にはなりたくない。

 いや、それで済まされるのか。もしかすると、あのクソジジイなら、命を狙ってきてもおかしくないか。孫愛が狂ってるからな。

 てな訳で、はとこの幼馴染とはいえ、ぞんざいに扱えない理由があるのさ。

 ちなみに俺の爺さんの兄貴がクソジジイだ。ゆえに、はとこにあたる。血縁関係にあるのは間違いない。その伝手でこの部屋を借りたのも事実だ。

 弱みばかり握られているな、俺。


 そういえば自己紹介がまだだったな。

 俺は弓削ゆげ智典とものり。二十四歳。

 一昨年、近所の大学を卒業し、怪奇現象専門の事務所を始めた。

 中学生の頃からその系統のバイトみたいな事をしていた。クソジジイの紹介で専門家、曲がり者のサポートをしていた。

 怪奇現象を感知できる能力を持つ人間を曲がり者と呼ぶ。古来は、一癖ある人間を曲がり者と呼ぶらしい。妖異と対峙できる人間なんて一癖も二癖もあるからな。その呼び方で間違いないだろう。

 ま、俺も飾もそんな種類の人間、曲がり者の一人だ。

 その時は、これは稼げると思って事務所を開業してみたが、現実はそんなに甘くなかった。

 怪奇現象に出会う人間がそれ程いなかったのだ。いや、居るのかもしれないが俺との出会いが無かった。

 つまり、定期収入、安定収入が無い。

 バイトの時は実家に寄生していた為、お小遣い程度の額でも充分だった。しかし、一人暮らしをするとなるとそうもいかない。

 大見得を切って実家を出て来たから、実家に頼ることもできないし、見栄を張らなきゃならんぐらいだ。そうでないと、嫌味を何時間も聞かされることやら。ああ、ウザい。

 てな訳で、少ない収入で遣り繰りし、貧乏生活に耐えている。

 だから、事務所にはパソコンもテレビも無い。給湯室には、小さなツードアの冷蔵庫と電子レンジ。無論レンジにオーブンとかの機能は無い。温め専用だ。

 そして、洗濯と脱水だけの洗濯機。乾燥機能どころからタイマーすらついていない。あとは電気ケトルくらいか。

 簡単な料理をするのには、アウトドア用のストーブ、普通に言うとカセットコンロを使っている。折り畳めば、手のひらサイズになり、野宿にも便利だ。

 野宿ってのは、仕事で泊りがけになる時があるからな。けどな、宿代がもったいないから、テントを張るんだよ。便利なのがビルの屋上だな。誰も来ないし、人目に付かない。張り込みもしやすい。

 アウトドア用のコッフェルで、ああ、小さい鍋兼カップで料理したり、コーヒーを飲んだりするんだよ。

 分からん専門用語が出てきたら検索してくれるとうれしい。俺は説明が下手なんだ。スマンな。

 テント、寝袋、マット、テーブル、椅子もコンパクトになる物を選んでいるから、リュック一つに収まる。

 寝袋なんか、一流メーカー品なんか手のひらサイズの物が二メートル近い俺の身体を覆うふかふかの寝具になる。それでいて、外気温三度まで耐えられる。化け物性能だぜ。ああっと、また話が逸れて来たな。戻そう。

 それらをまとめたリュックが給湯室の一角に転がっている。初期費用は、少々高かったが十年以上は使える。年単位で考えれば、めっちゃ安いんだよ。キャンプ用品は、普段使いもでき、片付け場所を取らないし、便利だぜ。


 高価な物は、スマートフォンとタブレット、それにラベルプリンタくらいか。これは仕事道具で絶対に必要だ。これが無ければ仕事にならない。贅沢品じゃないぞ。

 格安SIMを使って通信費も抑えてるんだからな。動画サイトなんて、絶対に見ない。どんだけギガを消費するんだ。貧乏な俺には縁のない世界だぜ。

 はあ~。自分で言っていて、悲しくなってきな。普通の人間の生活がしたい…。

 かといって、他にできる仕事は無く、何とか生活できるから今も識屋を続けている。

 丁度、財布の中身が空になりそうになると飾が依頼を持ってきてくれるので、何とか餓死しなくて済んでいる。

 くう~情けね~。早く独り立ちしたい…。飾に頼らずにすむようになりたい…。


 え、電子書籍なんて贅沢するな。図書館に行け。スカイ文庫を使え。

 正論ありがとよ。

 でも、読みたい時にぱっと読みたいし、貸し出し中とかで読めないのは嫌だろ。俺は活字中毒なんだよ。

 暇があれば、小説を読みたい。そこは妥協したくないんだ。分かってくれよ。

 スカイ文庫は、著作権切れの小説を有志がネットで公表してくれているんだが、どうも現代人の俺には実感が湧かないんだよな、時代背景が古くてさ。

 すれ違う二人とか言われてもさ、今時、リアルですれ違えるか。無理だろ。

 スマホで連絡とったり、位置共有アプリを使えば、お互いの居場所が分かるんだぜ。やっぱ、昔の名作は俺の感覚には合わないんだよな~。古典レベルになると逆に割り切れて、普通に読めるんだが…。わがままでスマン。

 おっと、また話が逸れすぎたな。飾の話を聞こうか。


「で、狐坂がどうした。」

「ウチのクラスの子がさ、三日前から高熱にうなされて寝込んでるんだぁ。」

「風邪か。季節の変わり目は体調を崩しやすいし、新学期で生活環境が変わったストレスか。」

「だったら、とも君のところに来ないよ。多分ね、た・た・り。だと思うよ。」

「じゃあ、サクッと説明をしてもらおうか。」

 俺が地図を机に置くと、飾は更に踏み込んできた。二つのぽっちが視界に入るが、あえてここは飾の目を見る。ここで視線をずらせば、何処を見ているか丸わかりだからな。

 女の子の目を正面から見るのが恥ずかしい?飾相手にそんな気持ちにならんよ。

 俺が育児してきた子供に発情しないし、ある界隈では、変態紳士と呼ばれる俺は、そんな気遣いもできる。

「友達の家からの帰り道にその子は狐坂を通ったの。で、背後から呻き声が聞こえたから振りかえったら、なんと!」

 飾はここで紙コップの紅茶を飲む。

「いや、溜めなくていいから。要件だけでいい。」

「ええ、つまんない。」

「仕事だから。はい、簡潔に。」

「とも君のいじわる。せっかく、情感たっぷりに説明しようと練習してきたのに…。練習が無駄になったよ。

 うんとね。振り返ったら落ち武者が立っていて、頭を掴まれた。怖くなって走って家に逃げ帰った。

 その晩から高熱が出始め、夢に落ち武者が出てきて、『おとせ、おとせ』と言ってくるんだって。

 これで何かわかる?」

「うんにゃ。情報が足りんな。それで分かれば、今頃、貧乏してねえ。商売繁盛だ。」

「じゃ、どこから手を付ける?」

「そうだな。まずは被害者の状況を確認だな。残滓でも調べてみようか。」

 俺は立ち上がると、商売道具を確認する。

 左腰のスマートフォンホルダーには、愛用のスマートフォンが収まっている。

 右腰にはモバイルプリンタがベルトに固定されている。

 左手首には、安物のスマートバンドが巻かれている。

 人工革の黒い安全靴、黒いチノパン、黒いフリースの上に春用の黒いコートを羽織る。コートのポケットにはメモ帳が一冊、筆ペン、愛用のスクーターのスマートキーも収まっている。全身黒ずくめの鴉仕様。闇に紛れるには丁度いいんだよ。あと返り血も目立たない。おっと、今のは聞かなかったことにしてくれ。

 へ、ださい?仕方ないだろう。貧乏なんだから。お洒落にまで気と金は回せないんだよ。

「よし、俺は準備良し。で、飾はどうだ?」

 俺は飾の方に振り向くとすでにジャケットを羽織り、半キャップを被り、手袋までしてVサインをこちらに送る姿が確認できた。準備の良いことで。

 半キャップは後頭部が露出するから安全性を考えると止めて欲しい。

 だけど、丸めた団子があって被れないとか言いやがる。安全より見た目か…。女の子だもんね、起伏が無いけど。

 ちなみに俺はジェットヘルメットだ。張り込みする時にヘルメットを被ったまま、食事ができるので重宝している。

「ナビはお任せ。」

「識屋、行くか。」

 そう言うと俺達は事務所を出た。

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