トレーニングが趣味の辺境伯令嬢は壇上で初見の王子に婚約破棄を伝えられる
「エミリア・コンウォル辺境伯令嬢、貴殿との婚約の破棄をここに宣言する!度重なるタニア・アボット男爵令嬢への嫌がらせは悪戯の域を越えている。許されざる行為と心得よ!」
ヨーゼフ第二王子は学園の卒業式で突然叫んだ。壇上の王子の腕にタニアが絡みついている。指名されたエミリアは壇上で二人と対峙した。
「また、タニアへの謝罪を要求する。慰謝料等後日通達する!」
「あの、私に婚約者はいないのですが、姉と婚約したヨーゼフ様でしょうか?」
「はぁ?タニアを虐めたのがエミリアなんだろう?」
ヨーゼフはタニアを見た。慌てたタニアは大きく頷いた。
「その……タニア嬢はどちらで被害にあわれたのでしょう?」
「学園内です。忘れるなんて酷いわ!」
「私、トレーニングが趣味でして」
「はあ?」
「騎士学校に通ったんです。とっくに卒業して、今日は来賓としてこちらに。この学園には初めて来ました」
「来賓だと?」
「コンウォル辺境伯の名代です。私、最初から壇上にいました。学生ではありません」
「ヨーゼフ殿下!その方はコンウォル騎士団団長です。この学園の学生ではありません。タニア嬢の主張は何かの間違いです!」
慌てた学園長がヨーゼフとエミリアの間に入る。
「失礼ながら、エミリア様が殿下の婚約者だという事実もございません!どなたにお聞きになられたのですか?」
「それは……タニアが……」
「何で原作と違うの?どういうこと?」
タニアは視線を彷徨わせて必死に考えている。
「……トレーニング……!転生者!」
タニアはハッと顔を上げてエミリアを見た。
「前世は日本の格闘好き男子だったもので」
「そんな……ストーリー通りじゃなかったなんて……」
「何を言っているんだ!タニア!ちゃんと説明してくれ!」
ヨーゼフはタニアの両肩を掴んだ。
「ヨーゼフ殿下」
エミリアはカーテシーのまま静止した。トレーニングで鍛えられた筋肉が生み出す美しい姿勢。お手本のようだ。
「コンウォル辺境伯への婚約破棄、謹んでお受けいたします」
「待ってくれ!そもそも俺は誰と婚約していたんだ?」
「姉のアメリア・コンウォルです」
「あの有名な美人か!」
「姉は私よりも怖いですよ?」
顔を強張らせるヨーゼフ。彼に剣術を指南する騎士団長と似た覇気を放つエミリア。訓練中の恐怖を思い出して何も言い出せない。
「それでは失礼して」
エミリアは学生の方を向いた。
「辺境伯騎士団へ入団する者を祝いに来た。ご卒業おめでとう!」