表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/42

8話 美味しいごはん

「……ぅ……」


 リアラはゆっくりと意識を取り戻した。

 目を開けると知らない天井が映る。


 続けて顔を動かして周囲を確認した。


 丸太を組んで作られたログハウスだ。

 部屋は広く、壁一面に本棚が並べられている。

 その手前に机。


「ここは……うぐっ!?」


 体を起こすと、芯に響くような鋭い痛みが全身を貫いた。

 自分を抱きしめるようにして、背を丸くして、悶える。


 悲鳴をあげなかったのは、よくわからない意地だ。

 これ以上泣いてたまるものかという、運命に対する反抗のようなもの。


「おや。ようやく起きたみたいだね」

「あなたは……」


 部屋の扉が開いて老婆が姿を見せた。


 髪は白に染まり、深いしわが刻まれている。


 ただ、背筋はまっすぐ伸びていた。

 歩き方もおぼつかないということはなくて、しっかりと床を踏み、力強さを感じさせる。


「くっ……!」

「だから、動くんじゃないよ」

「え」


 気がつけば老婆が目の前にいて、リアラは、トンと額を指で押された。

 たったそれだけのことで体から力が抜けて、再びベッドに寝てしまう。


「今、なにを……」

「体の重心をちょっとズラしてやっただけさ。誰にでも通用する技じゃないが、弱っているあんたには効果てきめんだろう?」

「……」

「ほら、食べな」


 ぶっきらぼうに言いつつ、老婆はサンドイッチが乗せられた皿を差し出してきた。

 リアラは再び体を起こして、ゆっくりと皿を受け取る。

 それから、じーーーっとサンドイッチを見つめた。


「毒なんて入ってないよ」

「……信じられない」

「あのね……殺すつもりなら、もっと簡単にやれるよ。それに、あんたを助けたのはあたしだよ」

「あなたが……?」


 言われてみると、体中は酷く痛むものの、死の予感やどうしようもない悪寒を感じることはなくなっていた。


 いつの間にか、そこそこに綺麗な服を着ている。

 めくってみると、その下に包帯。

 怪我の手当の跡が見えた。


「……どうして、私を助けてくれたの?」


 全身傷だらけで、ぼろぼろで。

 それでいて、老婆に対しては黒の剣を顕現して、刃を向けた。


 普通に考えて助けてもらえるわけがない。

 騎士団に通報するか、そのまま見捨てられるか、その二択だろう。


「……別に。ただの気まぐれだよ」

「気まぐれ、って……」

「ほら、さっさと食べな。それだけ話せれば、食べる気力もあるだろう? 食べるものを食べないと、傷は治らないよ」

「あ」


 言うだけ言うと、老婆は会話を一方的に打ち切り、部屋を出て行ってしまった。


 リアラは少し迷い、空腹に負けてサンドイッチに手を伸ばした。

 恐る恐る口に運ぶ。


「……美味しい」


 自然と涙がこぼれた。


 この2年、リアラはまともな食事をとっていない。

 カビの生えたパン、腐ったスープ、泥水……そんなものばかりだ。


「美味しい……美味しいよぉ……」


 リアラはぽろぽろと涙を流しつつ、ゆっくりとサンドイッチを食べた。




――――――――――




「ここは……どこかな?」


 まともな食事を食べたことで体力が少し回復して、ゆっくりだけど歩いて動けるようになった。

 窓から外を見ると、なにもない平原が遠くまで広がっていた。

 村のどこかにある一軒家だと思っていたが、ここは村ですらないらしい。


「おや、歩けるくらいには回復したのかい」

「っ!?」


 突然、老婆の声が聞こえてきて、リアラは猫のように飛び上がる。


 扉の開く音が聞こえない。

 それだけではなくて、気配をまったく感じなかった。

 まるで幽霊だ。


 驚いたリアラは、反射的に黒の剣を顕現させてしまう。

 しかし、老婆は慌てることなく動揺することもなく、自然体のままだ。


「なんだい、それであたしを斬るつもりかい?」

「……怖くないの?」

「怖くないね」


 老婆は迷うことなく答えた。


「その剣は確かに厄介だ。とんでもない代物だ。ただ、扱う者がなっちゃいない。あんたが使っている限り、脅威にはならないよ」

「……っ……」


 老婆の言葉に、リアラはついついカチンと来た。


 脅威にならない?

 それは目が曇っていないか?


 この剣で、何人もの騎士を切り捨てた。

 オーレンもあと少しのところまで追い詰めた。


 それなのに……


「なら……確かめてみてよ」


 気がつけば、リアラは老婆に斬りかかっていた。


 攻撃の予備動作を見せない、完璧な奇襲だ。

 間違いなく刃が届いた。


 ……そう思っていた。


「え?」


 次の瞬間、リアラは宙に舞っていた。

 くるっと宙で回転して、床に転がる。

 したたかに背中を打ち付けて、一瞬、息ができなくなった。


「かはっ……な、なんで……」

「なんでもなにもあるものかい。そんなわかりやすい攻撃、子供だって避けられるよ」


 そんなはずはない。

 現に、自分は何人もの騎士を斬ってきた。

 この老婆が異常なのだ。


 そう……異常に強いのだ。


「あなたは、いったい……」

「そういえば、まだ名乗ってなかったねえ。あたしは、グリム・テイラー。しがないババアさ」

「普通の人には思えないよ」

「なら、なにに見えるんだい?」

「……怪物」


 卓越した剣士か、それとも熟練の格闘家か。

 グリムの『武器』はわからないものの、相当なレベルに位置していることがわかる。


「口の悪い子だね。それで? あたしが怪物だとしたら、どうするんだい? 逃げるかい?」

「ううん」


 リアラは、そうすることが定められていたかのように、自然に言葉を紡いだ。


「私に戦い方を教えて」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


「面白そう」「続きが気になる」と感じていただけたのなら、

『ブックマーク』や『☆評価』などで応援していただけると嬉しいです!


皆様の応援がとても大きなモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ