7話 辺境の地で
リアラは、果てのない絶望と憎しみによって強大な魔力を得た。
それこそ魔王に匹敵するほどの力を得た。
ただし、実戦経験は皆無だ。
強大な魔法を撒き散らすことはできても、技術を用いた戦闘は難しい。
名も知らぬ兵士を相手にするのなら圧倒できるが、オーレンのような真の強者と対峙した場合、技術によって押し切られてしまう。
「私は……弱い」
運河の果てにある、王都から遠く離れた場所にある小さな川。
そこまで流されたリアラは、咳き込みつつ陸に上がる。
「強く……ならないと」
リアラは肩で息をしつつ、立ち上がる。
……立ち上がろうとして、急に体から力が抜けて、地面に膝をついた。
「うっ……」
酷い目眩がした。
吐き気もする。
体中が痛い。
逃げることに必死だったため、体の治療をしていない。
体も冷えているため、だいぶ衰弱しているようだ。
「治療を……あと、火を……あなたに幸せを。あなたに笑顔を。あなたに安らぎを。神よ、私は願います。この者の心に花を咲かせることを。そのための光をここに……神聖光<ブレス>」
まずは魔法で傷ついた体を癒やす。
それから近くにある草木を集めて、
「燃えろ……炎<ファイア>」
火をつけて暖を取る。
火傷しそうなくらい近づいて、全身を温める。
「……温かい……」
体だけではなくて心も温まるようだった。
優しい火に思わず涙が出てしまいそうになる。
「……誰っ!?」
人の気配を感じたリアラは地面を蹴るようにして立ち上がり、右手に黒の剣を顕現させた。
「誰、は私の台詞なんだけどね。ここは私の土地だよ。なにか変だと思って様子を見に来たら人が流れ着いていて、いきなり剣を向けられるとはね」
姿を見せたのは老婆だ。
ゾクリ、とリアラは背筋が震えるのを感じた。
怖い。
なぜかわからないが、この老婆が恐ろしい。
悪意とか、そういうものではなくて……
純然たる恐怖。
まるで、人を食べることに味を占めた猛獣と出会ってしまったかのよう。
「っ!!!」
リアラは恐怖に突き動かされて、反射的に剣を振っていた。
戦闘技術を持たないリアラではあるが、その魔力から生み出された魔法は『異常』の一言に尽きる。
想像を遥かに超える威力を叩き出して、なにもかも灰燼と化すだけの力がある。
黒の剣もそうだ。
鋼鉄をバターのように切断する。
盾を構えたとしても、頑丈な鎧を着込んだとしても、そのまま両断する自信があった。
しかし……
「やれやれ、いきなり襲いかかってくるかい」
「なっ……!?」
老婆は、あろうことか指先二本だけで刃を止めてみせた。
それだけではない。
気がつけばリアラは宙を舞っていて、背中から地面に叩きつけられる。
「かはっ!?」
「少し寝ててもらうよ」
老婆はリアラの前にやってきて、その拳を振り下ろす。
リアラには拳の軌道を見切ることはできず、まともに喰らい、そのまま意識を闇の中に沈めてしまうのだった。
――――――――――
「……」
気絶したリアラを見て、老婆は小さな小さなため息をこぼす。
「やれやれ……余生をのんびり過ごすつもりだったけれど、まさか、こんなことになるなんてねぇ」
口ではそう言いつつも、老婆がリアラを見る目は優しい。
ただ、優しさだけではない。
哀れみと悲しみ。
それと、贖罪にも似た罪悪感が隠れていた。
「このまま放置……というわけにはいかないね、さすがに」
老婆はそっとリアラを抱き上げた。
そして、驚く。
「なんて軽い……まったく、こんな子がこんな目に遭うなんて、嫌な世界だね。まあ……あたしがそれを言えた義理でもないか」
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