6話 いつか必ず
「王、大丈夫ですか!?」
新たに姿を見せたのは、城に務める魔術師達だ。
数十人がかりで拘束魔法を使い、リアラの動きを止めている。
「ぐっ、うぅうううっ……」
リアラはもがくけれど、その分、光の鎖は強度を増した。
リアラの白い肌が焼けて、鎖が擦れて傷が増えていく。
それでもリアラはもがくことを止めない。
目の前にいるオーレンに剣を突き刺そうと、必死で抗い続ける。
「お前を、お前が……!!!」
「なんという執念だ……」
この時、初めてオーレンはリアラに恐怖した。
ありとあらゆる悪と戦い。
時に命を賭けた戦いを乗り越えてきたオーレンではあるが、この時ほど大きな恐怖を覚えたことはない。
今、ここで確実にリアラを殺す。
そうしなければ、将来、平和国の大きな障害となる。
本能的に危機を感じたオーレンは、改めて剣を構えた。
その刃をリアラに向ける。
「魔女よ、私がお前の命を刈り取り、その生を終わらせてやろう。お前の魂は煉獄に堕ちて、未来永劫、浄化の炎に焼かれ続けることとなる。己の行いを恥じて、悔いるのだな」
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな……」
出し尽くしたと思っていた憎悪がさらに湧き出してきた。
憎い。
憎い。
憎い。
この男が憎い。
平和国の民が憎い。
自分から全てを奪った連中が憎い。
「こんなところで、私はっ!!!」
終わることはできない。
その一心で、リアラは魔法を唱える。
光の鎖に締めつけられて。
肌を焼かれて。
それでも詠唱を止めず、発動させる。
「嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ。みんな嫌いだ、死んでしまえ。私は歌う、死の喜びを。破滅を賛美して、絶望を受け入れよう。終わりの炎をここに……悪夢ノ炎<ナイトメアフレア>」
「なっ!?」
リアラは、ほぼゼロ距離で魔法を発動させた。
黒炎がオーレンだけではなくて、リアラも包み込んだ。
リアラが発動した魔法だとしても、攻撃対象を区別することはできない。
その場にいる者、範囲いう者、全てを飲み込む。
「うぉおおおおお!?」
オーレンは黒炎をまともに浴びてしまい、大きく吹き飛ばされた。
地面を何度かバウントして転がり、壁に激突して止まる。
一方のリアラは……耐えていた。
ゼロ距離で魔法を発動させるという決断をしていたために、対処も容易だ。
吹き飛ばされることなく、その場に踏みとどまる。
ただ、無傷というわけにはいかない。
己の魔法で全身を焼かれ、あちらこちらの肉が焼けていた。
それでも拘束魔法は消えて、自由を取り戻すことができた。
リアラは……笑う。
「あなたを」
リアラは、壁に叩きつけられたオーレンを見て、笑う。
「絶対に」
一歩後ろに下がる。
「……殺す」
トン、と地面を軽く蹴り、リアラは後ろに跳んだ。
その先にあるのは、街を流れる運河だ。
最近降った雨で増水して流れが速くなっている。
それを見越した上で、リアラは運河に身を投げた。
そうやって逃げることが、今できる最善の手と知っていたから。
――――――――――
「……」
リアラがオーレンに放った殺意は、あまりにも純粋だった。
欲にまみれたものではなくて。
ただただ『殺したい』という殺意に特化した殺意。
そのような想いを今までぶつけられたことがないオーレンは、リアラを追いかけることも忘れ、呆然としてしまう。
「王、無事ですか!?」
「酷い怪我だ……今、治療いたします!」
「……うむ」
部下達の声で、ようやくオーレンは我に返ることができた。
治療を受けつつ、今度の対応についての指示を飛ばす。
「……」
指示を飛ばしつつ、オーレンはリアラについて考えていた。
帝国第三皇女。
最後の帝国の血筋。
そして、聖女と呼ばれていた。
「……聖女? あれが?」
オーレンはリアラと交戦した時のことを思い返して、背中を震わせた。
一撃一撃に殺意が込められていた。
迷うことなく急所を狙ってきた。
今まで戦ってきた人間、魔物……どんな敵よりも恐ろしく、強敵だった。
驚くべきは、リアラはまだ12歳の少女ということだ。
戦闘経験はないと聞く。
その少女が、オーレンにあと一歩のところまで迫った。
笑いながら兵士や民を虐殺した。
そのようなこと、12歳の少女にできるのだろうか?
いや、できるわけがない。
あれは見た目通りの存在ではない。
魔物か悪魔が人間の皮を被っているのだろう。
「魔女め……!」
オーレンが言うように、リアラは聖女を捨てた。
確かに魔女となった。
しかし、そうなった原因はオーレン達にあり……
そのことを彼はまったく自覚していない。
「あの魔女は、平和国の脅威となる……いずれ決着をつけないといけないな」
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