5話 復讐の始まり
「我は願う。血を喰らいたい、魂が欲しい。そのために必要なものは、無慈悲な断罪の刃。故に顕現せよ……魂喰ラウ刃<ソウルイーター>」
リアラは立て続けに魔法を唱えて、右手に漆黒の刃を作り出した。
夜の闇を凝縮したかのような、どこまでも黒い刃。
それを使い、手近にいた兵士の首をはねた。
「は?」
あまりにも鮮やかな手際で。
そして、まったく迷いのない一撃に、首をはねられた兵士は、その状態でもなお、いくらか意識を保っていた。
「なっ、あ……!?」
「うるさい」
足元に転がってきた兵士の頭部をリアラが踏みつけた。
「力が欲しい。何者にも負けない力を求める。なぜか? 理不尽を跳ね除けて、己の足で前に進むためだ。故に力をよこせ……狂歌<バーサーカーソング>」
身体能力を強化する魔法を使い、リアラは足に力を入れた。
頭部は風船のように破裂して、血や脳漿が周囲にぶちまけられる。
「……ぇ……」
仲間の悲惨な死を前にして、他の兵士達は再び動けなくなっていた。
その隙を見逃すことなく、リアラが前に出る。
兵士達の中央に移動して、片足でターン。
踊るように右手の剣を振り、五人の兵士の首を斬る。
血の雨が降る。
「なっ……こ、この魔女が!」
「これ以上、のさばらせておくものか!」
ようやく我に返った兵士達は武器を手にして。
「「「うあああああっ!?」」」
集まった民衆は悲鳴をあげて逃げ出した。
それを見たリアラはニヤリと笑い、
「嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ。みんな嫌いだ、死んでしまえ。私は歌う、死の喜びを。破滅を賛美して、絶望を受け入れよう。終わりの炎をここに……悪夢ノ炎<ナイトメアフレア>」
逃げ惑う民衆に向けて、特大の炎を撃ち込む。
黒炎が宙で弾けて、流星のごとく降り注ぐ。
それらは民衆を飲み込み、燃やして、炭化させて……
次々と命を奪う。
密集していたこともあり、たったの一撃で数十人が犠牲となった。
「貴様ぁっ!!! 罪なき人々を狙うとは、どういうことだ!!!?」
オーレンが吠えるものの、
「苦しめ、泣き叫べ、命乞いをしろ。私が願うのは、お前達の破滅。魂すら残さず、全てを喰らってみせようではないか。煉獄よ顕現しろ……滅ビノ旋律<イクリプスディザスター>」
リアラは無視して、第二射を放つ。
蛇のように地面を高速で這う紅の斬撃が、まとめて三人の民を切断した。
縦に、横に真っ二つにされて、悲鳴を上げる間もなく絶命する。
「あはっ♪ いいよ、もっと綺麗に、たくさん死んでね?」
楽しい。
楽しい。
楽しい。
リアラは2年前に忘れていた笑顔を取り戻していた。
その笑みは歪んでおらず、邪に染まっているわけでもない。
本当に無邪気で。
子供のような笑顔を見せていた。
「おのれぇえええええっ!!!」
兵士に避難するように促されていたオーレンではあるが、このような状況を目の前にして、自分だけ逃げるわけにはいかない。
正義感の強いオーレンは腰に下げた剣を抜いて、自らリアラに立ち向かう。
「魔女よ! 我が正義の断罪を受けるがいいっ!」
「ちっ」
鋭い剣撃に、リアラは舌打ちしつつ後退した。
追いかけてくるオーレンの剣を漆黒の剣で受け止める。
重い。
たった一撃を受けただけで手が痺れてしまい、バランスも崩されてしまう。
英雄王の名は伊達ではない。
果てのない絶望と憎悪で強大な力を得たリアラではあるが、オーレンはさらにその上をいく。
リアラは確かに強大な力を手に入れた。
その身に宿る魔力は、魔王と比べても遜色ない。
強大な魔法を唱えることで、人をゴミのように殺すことはできる。
ただ、戦闘経験は皆無だ。
こうして、本格的な戦闘を挑まれると弱い。
また、相手は英雄王と呼ばれているオーレン。
人類最強の守護神であり、切り札。
力に目覚めたばかりで戦うにはあまりにも分が悪い。
しかし。
だからといって。
「魔女め! 貴様もすぐに愚かな女がいる煉獄へ送ってやろうっ!!!」
「それは……ママのことかぁあああああっ!!!」
最愛の母を殺して、自分から全てを奪った元凶。
殺すだけではなくて、母の名誉も誇りも、なにもかも踏みにじり汚した。
許せない。
許せるわけがない。
撤退という選択肢はない。
リアラは前に出て、がむしゃらに黒の剣を振り回す。
「ぐっ……剣筋はでたらめだが、力はとんでもないな」
「ああああああっ!!!」
「だが、甘い!」
「甘いのは……お前だぁあああああ!!!」
「なっ!?」
反撃で右肩を突かれてしまうリアラだが、止まらない。
痛みに泣くことはない。
そんな感情は2年の拷問で消えた。
今、リアラを突き動かしているのは怒りだ。
理不尽に母を奪われた怒りが全てだ。
オーレンの斬撃は全て無視して。
それによって作られた傷も無視して。
「死……ねぇええええええええええええええっ!!!!!」
オーレンの懐に潜り込み、体ごと叩き込むような感じで、リアラは黒の剣を突き出した。
狙うは一点、オーレンの心臓だ。
刃がまっすぐとオーレンの胸に吸い込まれて……
「うあっ!?」
瞬間、リアラは光の鎖に拘束された。
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