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42話 どこまでも、いつまでも

 天を突くような巨大な炎が立ち上がる。

 領主の屋敷を一瞬で吹き飛ばして、さらに、周囲を更地に変えた。


 それだけに留まらず、離れたところにある、周囲の倉庫や兵舎も吹き飛ばしてしまう。


 余波は街中を駆け抜けて、無数の家屋のガラスを割る。

 天井を吹き飛ばす。


 極大の嵐が吹き荒れたかのようだ。

 領主の屋敷を中心に破壊が広がり、ありとあらゆるものが原型を失う。

 壊れ、砕け、潰れ……

 無となっていた。




――――――――――




 炎は十分ほど顕現してみせた。


 余波は消えたものの、熱は残ったまま。

 爆心地となった領主の屋敷は影も形もない。

 全てが炭と化して、また、一部の岩や土も溶けていた。


 十天獄。


 自らの命を捧げることで発動する、究極の攻撃魔法。

 その威力に耐えられる者はいない。

 また、術者の力量次第ではあるが、国を一つ、壊滅させることも可能。


 その威力と使用条件が危険視されて、禁忌に指定されている魔法だ。

 習得している者は、世界中を探しても見つからないだろう。

 存在を知る者も少ない。


 フィルローネが習得していたのは、本当に偶然だ。


 家族が禁忌に関わる仕事をしてて。

 その手伝いをする過程で、十天獄の存在を知り、習得した。


 半分は興味。

 残り半分は、いざという時のことを考えて。


 その選択、判断は正しかった。

 普通なら絶対に手が届くことのないリアラに、手を届けることができた。


 その結果は……




――――――――――




「う……くぅ」


 ゆっくりと宙から降りてきたリアラは、地面に着地して、そのまま膝をついた。


 足にまったく力が入らない。

 しばらく立ち上がれそうになかった。


「まさか、自爆なんて……」


 フィルローネがそこまでの覚悟を持っていたことを、リアラは見誤っていた。

 ただ、ギリギリのところで挽回できた。


 魔法が発動する瞬間。

 わずかにフィルローネの力が緩み、リアラは脱出することができた。


 初めて使う魔法。

 それ故に、最後の最後でフィルローネはミスをしてしまったのだろう。


 リアラは急いで距離を取り……

 しかし、完全に逃げることは叶わず、爆発に巻き込まれた。


 咄嗟に展開した結界は全て破壊された。

 まともに動けないほどのダメージを負った。


「でも……私は、生きている」


 フィルローネは失敗した。

 そして、リアラは成功した。


 生き延びる。

 それが、今回の勝利条件だ。


「ただ……これ以上は、難しい……かも」


 ようやく立ち上がることができたものの、それが精一杯。

 体のあちらこちらが悲鳴を上げている。

 死を避けただけで、体は深刻なダメージを受けていた。


「この街は……また今度、だね……」


 リアラは体を引きずるようにして、ゆっくりとその場を立ち去ろうとする。


 土の都を潰すことは叶わなかったものの、相当の打撃を与えたはずだ。

 なによりも、四賢者の一人を殺した。

 全体で見れば、上出来と言える範囲だろう。


 ただ……


「……フィルローネ、マイト、リーネ……」


 仲間だった者達。

 いや。

 利用した者達の名前をつぶやいた。


 罪悪感はない。

 そんなものは、あの日、全ての者に裏切られて、目の前で母が殺された日に消えた。

 まともな人間らしい感情なんて残っていない。

 絶望と憎悪が全てだ。


 それでも。


「……私は」


 フィルローネとマイトとリーネは、『良い』人達だった。


 リアラの事情を全く理解せず、誰にでも吐けるような善を口にしていたが……

 それでも、善は善。

 彼らの魂は、英雄王達などと違い、澄んで輝いていたのだろう。


 そんなフィルローネ達をリアラは殺した。

 容赦なく。

 一切の慈悲なく。

 全力で排除した。


「……」


 リアラは目を閉じる。


 これから、自分はなにをなすべきなのか?

 復讐は本当に正しいことなのか?


「……そんなことは」


 リアラは目を開いて、前を見た。


「決まっているよ」


 心を乱す迷い。


 それはほんの一瞬で……

 すぐに絶望と憎悪に塗りつぶされた。


 憎い。

 憎い。

 憎い。


 物事を都合のいいように解釈して、目の前の現実を見ようとしない民が憎い。

 自分を魔女に仕立て上げて、おぞましい拷問の限りを尽くした平和国が憎い。


 そして……

 最愛の母を奪った英雄王が憎い。


「こんなところで、立ち止まってなんかいられない……私は、絶対にやってやる。この国を、英雄王を……潰してやる!!!」


 リアラは、一瞬ではあるが迷いを抱いた。

 しかしそれは、憎悪を絶望を膨らませる糧となり、より強固な決意をさせることになる。


「私は……魔女だ。この憎しみで、全て、断つ……!!!」


 リアラは前に進む。

 復讐を果たすために。

 理不尽な運命を叩き壊すために。


 その歩みは、全てを壊すまで止まらないだろう。


 いつまでも。

 どこまでも。

ひとまず、ここで終わりにしようと思います。

新しいジャンルに挑戦してみましたが、どうだったでしょうか?

復讐ものは難しいですね><

また別の作品を書く予定なので、その時は、お付き合いいただけると嬉しいです。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 仲間に手をかけた時の震えは魔女の中に残ってた少しの「善」があったものか・・ もっと違えば良いパーティにだけに。 作者さんもこういうのはイリスの事を頭に浮かんでましたかね? 結構珍しいよな〜…
[気になる点] 冒険者組を殺した時点で復讐ってより八つ当たり入ってない...? そこ以外は楽しめました
[一言] 完結お疲れ様でした 今までにない内容に毎日楽しみにしていました。 他のお話も引き続き楽しみにしております。これからも頑張ってください。
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