41話 せめて一緒に
「どうしたの? 戦わないの?」
フィルローネは、仲間の仇を討つために向かってくると思っていたが……
しかし、彼女は動かない。
悲しく寂しそうな瞳をリアラに向けるだけだ。
「私は……」
「うん」
「リアラちゃんの力になりたい、って思っていたの」
「そうなの?」
唐突な告白。
ただ、それを遺言として捉えたリアラは、それくらいは聞いてやろうと攻撃を待つ。
「なんていうか……うまく言葉にできないんだけど、目が離せない子で、惹きつけられるところがあって、面倒を見たくなるところがあって。うん、そうね。妹みたいに思っていたわ」
「出会って、そんなに長くないよ?」
「それでも、思う時は思うわ。そうね……ちょっと変な例えだけど、一目惚れのようなものかしら?」
「んー……それ、わからないかも。私、恋をしたことがないから。その前に酷いことされたから」
リアラにとって、もはや人間は敵としか映らない。
あるいは、復讐を成し遂げるための道具……だ。
「そんなリアラちゃんに、幸せになってほしい、って思っていた。そのために、私にできることは手伝おうと思っていた」
「なら、私の復讐の邪魔をしないでくれる?」
「それがリアラちゃんの幸せ?」
「もちろん♪」
リアラが極上を笑みを浮かべると、フィルローネは小さな吐息をこぼす。
「そっか……今更だけど、リアラちゃんは、もう止まれないのね。戻れないのね」
「やっと理解してくれたみたいで嬉しいな。それで、どうする? 戦う?」
「……ううん。私じゃあ、リアラちゃんに勝てそうにないわ」
フィルローネは武器を手に取ることはなくて、降参というように手を上げた。
それは正しい判断だ。
リアラは、マイトとリーネの攻撃を一度も喰らうことなく、逆に、一瞬で殺してみせた。
圧倒的な力の差。
千回挑んだとしても、千回とも返り討ちに遭うだろう。
二人の間には、それほどまでの差があった。
「意外と理解が早いんだね。それに、やけに物分りといいというか……私のことが憎くないの?」
「憎いわ」
リアラは、長年、一緒に過ごしてきた仲間を殺した敵だ。
フィルローネが怒りを覚えて当然のこと。
ただ……
「でも……ちょっと複雑」
「どういうこと?」
「リアラちゃんも仲間だから」
「え?」
「短い間だけど、一緒にパーティーを組んで、いくつかの依頼をこなしたでしょう? だから、リアラちゃんも仲間なのよ」
「……」
「もちろん、マイトとリーナを殺したことは許せない。でも、憎しみだけじゃなくて、リアラちゃんのことを大事に思う気持ちも確かにあって……だから、複雑なのよ」
「そっか」
リアラは笑顔を消した。
澄んだ真面目な顔でフィルローネを見る。
「私の復讐は誰にも邪魔させない。誰がなんて言おうと、この国の全てを滅ぼしてやる。だから、マイトとリーナも殺した。もちろん、フィルローネも殺す」
「やっぱり、そうなるのね」
「でも……」
一度、言葉を止めて。
迷うような間を挟んで。
それから、リアラは再び想いを紡ぐ。
「本音を言うと、みんなと一緒にいた時間は楽しかったよ。それだけ、伝えておこうかな、って」
「ええ、ありがとう」
「じゃあ……さようならだね」
リアラは漆黒の剣をフィルローネに向けて、
「……最後にいいかしら?」
フィルローネは、一歩、リアラに近づいた。
「なに?」
「これからリアラちゃんが歩く道は、とても険しい道。茨の道なんて生易しい表現で、たぶん、煉獄に落ちるよりも苦しく辛いことになると思うわ」
「覚悟の上だよ」
「だから、せめて、リアラちゃんのために祈らせて?」
フィルローネは静かな表情でそう言うと、さらに足を進めてきた。
リアラは警戒するものの、しかし、敵意は感じられない。
武器もすでに捨てていた。
「よしよし」
「あ……」
リアラは、そのままフィルローネに抱きしめられた。
優しい温もり。
それと、頭を撫でられる心地よさ。
一瞬、飲まれてしまいそうになる。
ただ……
それは致命的な隙となる。
「捕まえた」
「っ……!? フィルローネ、あなた……!!!」
フィルローネは、リアラを抱きしめるようにして捕まえた。
急速に魔力が収束されていく。
すぐに振り払おうとするが、どうしてもそれができない。
強力な接着剤でガッチリ固定されてしまったかのようで、ピクリとも動かない。
「なにを……!?」
「私は、リアラちゃんを倒すほどの力は持っていないけど……でも、一緒に逝くことはできるわ」
「まさか……自爆!?」
フィルローネの元に膨大な魔力が集まる。
本来、彼女が持つ魔力ではない。
生命力を全て魔力に変換しているのだろう。
リアラは顔をひきつらせて、慌てて脱出しようとした。
しかし、フィルローネがそれを許さない。
しっかりと捕まえられて、どうしても抜け出すことができない。
「リアラちゃんの気持ちはわからないでもないけど……やっぱり、復讐なんてダメよ。意味のないことで、してはいけない」
「勝手に決めつけないで!」
「リアラちゃんの主張があるように、私にも私の主張があるの。それを曲げることはないわ」
「押し付けているじゃない!!!」
「大人だから、子供は言うことを聞くものよ。大丈夫。私も一緒だから……リアラちゃんを一人にはしない」
「くっ……!?」
「一緒に逝きましょう?」
フィルローネは聖母のような優しい表情で、リアラを優しく抱きしめた。
それは、あまりにも優しくて。
温かくて。
亡き母を思い返してしまい、リアラは、一瞬、抵抗を忘れてしまう。
「リアラちゃん……これで、終わりよ」
「や、やめっ……!!!」
瞬間、フィルローネが収束させた膨大な魔力が暴走した。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について』
https://ncode.syosetu.com/n3865ja/
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