37話 英雄、血に沈む
「あぁあああああっ!!!」
「はぁあああああっ!!!」
共に裂帛の気合を放ちながら、リアラとドルガが何度も何度も激突した。
リアラは膨大な魔力を込めた魔法を連射して。
ドルガは嵐のような猛攻をかいくぐり、鉄拳を繰り出していく。
強大な力と力の激突。
その立ち入ることは何人も許されていない。
これは、リアラとドルガの死闘。
もしも間に入ったとしたら、巻き込まれ、一瞬で命を落としていただろう。
「これで……」
ドルガはあえてリアラの魔法を受けて……
それでも足を止めず、前に出た。
リアラが目を大きくする。
「終わりですっ!!!」
全身に巡らせていた魔力を、右拳、一点に集中。
魔力が光り輝いて、金色のオーラをまとう。
「かはっ……!?」」
リアラは、ドルガの拳を受けて血を吐いた。
衝撃が駆け巡り、全身がびくんと震える。
一瞬、意識が消える。
でも……
「私の……勝ち♪」
今度は、リアラがドルガの腕を捕まえた。
その状態で、漆黒の剣を召喚する、慣れた魔法を使う。
ただ、一つ、詠唱が付け足されていた。
「我は願う。血を喰らいたい、魂が欲しい。そのために必要なものは、無慈悲な断罪の刃。正義を砕き、悪を実現せよ。顕現するは刃の嵐……魂喰ラウ刃・乱舞ノ太刀<ソウルイーター・バースト>」
影が隆起して、無数の刃が突き上げられた。
地獄の剣山のようだ。
刃はドルガの足を貫いた。
左手を貫いた。
脇腹を貫いた。
貫いて、刺さり、抉り……
十数の刃がドルガを突き刺して、さらにその体を固定した。
「ぐっ……ぬぅ!?」
無数の刃で磔にされたドルガは、全身に力を入れて刃を破壊しようとする。
しかし、刃はびくともしない。
軽く揺れただけで、ドルガは戒めから解放されることはない。
「無駄だよ。その刃は、魔力で作られたもの。物理でどうにかすることはできない。やるなら、魔力で壊さないといけないけど……でも、私よりもあなたの方が魔力が下だよね?」
「ぐっ……」
「ふふ、これでチェックメイト♪」
魔法で己の傷を癒やしたリアラは、嬉しそうに微笑む。
なかなか手ごわい相手だった。
伊達に四賢者と呼ばれていない。
いくらか判断を間違えていたら、敗北者はリアラになっていただろう。
だからこそ。
この戦いを制したことが嬉しい。
己を正義と信じてやまず、しかし、迷うことなく拳を振るう相手を完膚なきまでに叩き潰すことができたのだ。
なんて快感なのだろう。
素晴らしい。
最高だ。
今すぐ踊り出したい気分だった。
ただ……
「じゃあ、メインディッシュにしようかな」
「なんですって……?」
まだ、終わりではない。
リアラの四賢者に対する復讐は、ここからが本当にスタートだ。
リアラはぱちんと指を鳴らす。
それを合図にして、操られていた兵士達が動き出した。
それぞれ武器を手にして、ドルガを囲む。
「なにを……」
「やっちゃって」
その言葉を受けて、操られた兵士はドルガの足に刃を突き立てた。
他の兵士達もそれに続く。
「ぐっ、あ……!? や、やめるのです、正気に……!」
「無駄だよ、無駄。その兵士達は、もう自分の意思を持たない、ただの人形だもん。私の言うこと以外、なにも聞かないよ」
「ぐううう……くぅっ、目を、覚ますのです! 悪に屈してはなりません! あなた達は、皆、強い! 正義を思い出すのですっ!!!」
ドルガは必死に呼びかけるものの、兵士の動きは止まらない。
ゆっくりと、静かに。
刃を刺して、抜いて、再び刺していく。
「皆、正気に……このような魔女に屈してはなりません、正義の心を取り戻すのです!」
「ふっ、ふふふ……あははははは! ダメ、笑い死にしちゃいそう。今のあなた、すごく滑稽だよ?」
「くぅっ……魔女め!」
「うんうん、どこまでその反抗的な態度が取れるかな? っていうか、あなたがあれだけ信じていた正義は、結局、なにもしてくれないね。奇跡を起こしてくれないね。正義なんて、なにもないんじゃない?」
「私達の心を愚弄するのですか!?」
「事実を述べただけじゃない。だって……ほら」
リアラの合図に応じて、兵士達は、今度はドルガの腕を刺し始めた。
いずれも骨に届くほどの傷ではない。
しかし、数が重なり、痛みも出血量も増していく。
「ねえ。今、どんな気持ち?」
「な、に……?」
「家族のように信じているはずの兵士達に殺されようとしている。どんな気持ちなのか、参考までに教えてくれないかな?」
「あなたは、まさか……」
ここにきて、ドルガはリアラの目的に気づいたのだろう。
なにをしても強い心を保っていた彼ではあるが、今、顔が青くなっていく。
「そう。あなたが家族のように想う兵士達に、あなたを殺させる。あなたは兵士達に殺されて、正義なんてないことを思い知る。兵士達は、自分の手で敬愛する主を殺してしまったという自責に駆られる……ほら、とても素敵なショウだよね」
「なんていう……悪魔そのものの発想ではありませんか……」
「あなたは痛みに対する耐性はあるみたいだけど……こういうショウには慣れているかな? ふふ、実験させてね」
兵士達はドルガを傷つけて……
そして、涙を流していた。
体は自由にならない。
しかし、心は全て制御されているわけではなくて、主を傷つけてしまうことを深く悲しんでいた。
だからこそ、ドルガは耐えられない。
自分のせいで大事な部下達を傷つけてしまう。
最悪の結末を迎えてしまうかもしれない。
「やめっ……もう、やめてください! このようなことをせずとも、いっそ、ひと思いに殺せばいいでしょう!?」
「やだ♪」
リアラは極上の笑顔で断る。
「私の目的は、最初からコレだったんだよ? あなたにとびきりの苦痛を与えて、殺す。肉体的なものだけじゃなくて、心の傷を…‥ね。どう、嬉しい? 私からのプレゼント、喜んでくれたかな?」
「……お願いします、もう、やめてください。このようなことは、もう……」
「んー」
リアラは考える素振りを見せて、
「やっぱり、やだ♪」
にっこりと笑い、涙を流す兵士達に攻撃を再開するように命令した。
すぐに殺すことなく。
時に治癒魔法をかけて。
時間をかけて殺していく。
ドルガは、傷の痛みよりも、そんなことを兵士達にさせてしまうことの方が耐えられなかった。
信じていた兵士達に殺されていく悲しみと絶望。
そして、そんなことをさせてしまっているのは、結局、自分が不甲斐ないせいという自責の念。
それらがドルガの心を蝕み、シロアリに群がられた柱のようにボロボロになっていく。
「あっ、あああああ……うぁああああああああああっ!!!?」




