36話 大事なものがあるのならば……
「なっ!?」
「一人目」
リアラは漆黒の剣を一閃させた。
兵士の体が横に両断されて、血を噴水のように撒き散らしながら倒れる。
「貴様っ!!!」
「あはははっ! 兵士を殺しただけで、そんなに怒るんだね。意外と短気? ダメだよ、領主なら、もっと冷静沈着でいないと」
「皆、後ろへ! 魔女の相手は私がします」
「「「……」」」
「どうしたのですか!? 早く後退を……」
「無駄だよ」
リアラはニヤリと笑う。
その反応が見たかったというかのように、とてもとても楽しそうだ。
「その人達は、すでに私の支配下にあるよ。あなたの命令を聞くことはない。私の忠実なお人形さん」
「貴様っ……!」
「あはははっ、大事っていうのなら守ってみせて? ほらほら!」
リアラは二人目の兵士に剣を向けて……
しかし、今度はドルガに防がれた。
彼は脅威的な速度でリアラの前に立ちはだかり、彼女の剣を剛腕で受け止めてみせる。
「彼らは私の家族のようなものです! これ以上、大事な家族に手出しはさせません!」
「……そこまで大事に想っているのなら」
リアラの雰囲気が変わる。
さっきまでは、無邪気さを残していた子供のようだった。
でも今は、怒りに支配された悪魔のよう。
「なんで私の大事な人を奪ったの!!!?」
「なにを……」
「ママはなにも悪いことをしていないのに、それなのに、あんな酷い目に……大事な人を想う気持ちがあるのなら、なんで、それを他に向けてあげられなかったの!? なんで、なにも見ていなかったの!?」
それは、リアラの魂の叫びだった。
ドルガに大事な人がいるように……
リアラにも大事な人がいた。
かけがえのない最愛の母がいた。
なぜ奪う?
なぜ殺す?
大事な人を持つのならば、それを奪われる苦しみや恐怖も知っているはずなのに……
なぜ、簡単に他人に対しては実行できる?
正義と信じて、迷わず、他に道はないと突き進むことができる?
「奪っておいて、奪われることを拒絶するなっ!!!」
「ぐっ!?」
リアラは、改めてターゲットをドルガに戻した。
そして、加速。
前へ。
前へ。
前へ。
風よりも、音よりも速く動いて、斬撃をぶちかます。
ドルガはリアラの動きを目で追うことはできていた。
全身を魔力で強化して、両手を交差。
盾のようにして斬撃を受け止めた。
しかし、完全に受け止めることは不可能だ。
漆黒の刃が肉を裂く。
骨に届くことはないが、それでもダメージを与えることができた。
鉄壁と呼ばれているドルガの防御を貫くことができた。
「ぬぅんっ!!!」
それでもドルガは動じない。
怪我の痛みなど感じていないという様子でリアラを押し返した。
リアラの両手首を掴み、攻撃を封じる。
その状態で膝を打ち上げて、顎を打つ。
小さな体が浮いて……
しかし、ドルガに捕まえられているため、吹き飛ぶことはない。
「人の心を知らぬ魔女が、人の心を語るなど愚かの極み! そのような戯言に、私が耳を傾けるとでも!? 我が正義は決して揺らがぬ!!!」
「正義、正義、正義……うるさい! 他の言葉を知らないの!? そんなに正義が好きなら……」
リアラは両手を捕まえられたまま、ドルガの分厚い胸元に両足を添えた。
そのまま思い切り蹴り飛ばす。
「一人で浸ってて!!!」
「ぐあっ!?」
魔法が炸裂したかのような強烈な一撃だ。
ドルガはたまらずにリアラを離して、距離を取る。
「ちっ」
リアラは両手首に鋭い痛みが走るのを感じて、小さく舌打ちした。
ドルガの怪力によって、折れてはいないものの、骨にヒビが入ってしまったようだ。
魔法を使えば数秒で癒やすことができる。
しかし、ドルガを相手に数秒は、わりと致命的だ。
リアラは漆黒の剣を消して、代わりに魔法を主体に戦うことにする。
「嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ。みんな嫌いだ、死んでしまえ。私は歌う、死の喜びを。破滅を賛美して、絶望を受け入れよう。終わりの炎をここに……悪夢ノ炎<ナイトメアフレア>」
黒炎が吹き荒れて、ドルガを飲み込む。
通常ならばこの一撃で終わりだ。
リアラの魔王に匹敵する魔力に抗うことができる者なんていない。
……しかし、四賢者と呼ばれているドルガは別だ。
己の身に魔力を集中させて、気合で耐え抜いてしまう。
とんでもない相手だ。
リアラは内心で冷や汗をかいて……
しかし、同時に歓喜していた。
これだけの相手なら殺し甲斐がある。
最初の復讐のターゲットとしてふさわしい。
「さぁ……さあさあさあ! もっと力を見せて!!!」




