34話 改めてはじめまして
「はぁっ!!!」
裂帛の気合と共にドルガの拳が放たれた。
それは砲弾のごとく。
魔物の頭部を貫いて、吹き飛ばす。
魔物は何度か痙攣した後、動きを完全に止めた。
急所は頭部。
あるいは胸部であることは判明していた。
魔物は脅威的な身体能力を有していたが……
ドルガは兵士達と連携を取り、役割分担をする。
兵士達が盾となり、魔物の攻撃を防いで、さらに足を止める。
そこにドルガが前に出て、確実な一撃を叩き込む。
確かな連携が機能して、魔物達は、一匹、また一匹と数を減らしていき……
「むぅんっ!」
そして今、最後の一匹が地に倒れた。
「……」
ドルガは、しばらくの間、構えを解かず様子を見る。
魔物の命を断つことは成功した。
しかし、アンデッドのような特性を持ち、再び復活しないとは限らないからだ。
ただ、魔物が立ち上がる様子はない。
その体から色が失われていき、灰のように崩れていく。
「ふぅ」
完全な討伐を果たした。
そう判断したドルガは小さな吐息をこぼして、ようやく警戒を解いた。
「皆、怪我はしていませんか?」
「はっ、この程度ならば問題ありません!」
「重傷者はゼロです!」
「よかった。では、苦労をかけてしまいますが、このまま地下の調査を続けましょう。魔物の発生原因を突き止めなくては……もしかしたら、街にもあの魔物が現れるかもしれません。そうなったら大惨事に……?」
そこで、ドルガは違和感を覚えた。
兵士達の様子がおかしい。
ついさっきまで頼もしい姿を見せてくれていたのだけど、今は、生気というものを感じられない。
視線は虚ろ。
人形のように操られているという感じで、自立している様子が見られない。
「どうしたのですか?」
「……」
声をかけるものの返事はない。
一人ではなくて、全ての兵士が魂が抜けたかのような表情を浮かべている。
明らかな異常事態だ。
もしかして、まだ魔物は生きている?
そしてこれは、その魔物による攻撃?
ドルガは厳しい表情で周囲の様子を探り……
そして、ようやく彼女に気がついた。
「アリア殿……?」
「こんばんは。ここからだと月は見えないけど、今日は良い夜だね」
彼女は笑っていた。
にっこりと、年相応の無邪気な笑みを見せていた。
だからこそ違和感が激しい。
彼女ほどの冒険者ならば、その場にいなくても、地下で激しい戦闘が起きたことくらいわかるはずだ。
まだ気を抜いてはいけないことも。
それなのに、なぜ笑うことができるのだろう?
「……なぜ、笑っているのですか?」
疑問を押し込めることができず、ドルガは素直に尋ねた。
彼女は、さらに、にっこりと笑う。
「だって、待ち望んだ時がようやくやってきたんだもん」
「待ち望んだ……?」
「ずっと思っていた。ずっと望んでいた。ずっと焦がれていた。この時、この瞬間を! そう、私は、この時のために生きてきた!」
「なに、を……」
「改めて、はじめまして」
彼女はスカートを指先でつまみ、優雅に礼をする。
「私の本当の名前は、リアラ。リアラ・マリーローズ・レジストよ」
――――――――――
「私の本当の名前は、リアラ。リアラ・マリーローズ・レジストよ」
リアラが本名を打ち明けると同時に偽装が溶けていく。
髪の色は赤へ。
ルビーのような輝きを放ち。
血のような紅に染まる。
「なっ……!?」
いつも冷静なドルガではあるが、この時ばかりは驚きを隠せないでいた。
探していた魔女がすぐ近くにいて……
一緒に食事をした相手とは露ほども考えなかったらしい。
ある意味では、それも仕方ない。
ドルガが聞いた報告によると、魔女は容赦なく残虐で狡猾だという。
積極的に民を虐殺するような愚者であり、冒険者アリアとは似ても似つかない。
二人を結びつけるのは困難だろう。
「まさか、あなたが……魔女だというですか?」
「正解♪」
「では、もしかして、この騒動も……」
「それも正解♪ 今、あなたが倒した魔物は、元帝国兵達だよ。私の魔法で、ちょっと……ね」
「くっ……なぜだ!?」
「うん?」
「貴様にとって、彼らは部下のようなものだろう!? それなのに、なぜ、魔物にした!? このようなことをさせた!?」
「私、なんで怒られているのかな? あの人達は、戦う力を欲していた。あなた達、平和国を叩き潰したくてうずうずしていた。だから、私はお手伝いをしたの。それだけだよ? これ、なにか悪いことかな?」
「くっ、あなたという人は……やはり魔女ですか! あなたに良心はないのですか、恥を知りなさい!」
「魔女でも、なんでもいいよ。良心? どうでもいいよ、そんなもの。いい子にしていたら、なにか良いことがあるの? ないよ。なにもないよ、なかった。だから、そんなものは、もう、どうでもいいの。あなた達を叩き潰せるのなら、私は、なんでもする。なんでも……だよ」
リアラは聖女として人々のために尽くしてきた。
しかし、結果は酷い拷問を受けて、最愛の母を最悪の方法で奪われた。
その時に、良心なんてものは欠片も残さずに消えた。
残ったものは復讐心だけ。
それ以外のものはなにもない。
いかに追い込んで。
いかに苦しめて。
そして、どのように殺すか。
それ以外に考えることなんてない。
思うところは一つもない。
「じゃあ、殺し合おう?」
リアラはにっこりと笑い、魔法で漆黒の剣を作り出した。




