32話 毒を抱える
元帝国兵達は、騎士団支部ではなくて領主の館に移されていた。
もしかしたら魔女に繋がる情報を持っているかもしれない。
そう考えた結果、領主であるドルガがまず最初に話を聞きたいと思ったのだ。
こういう時のために、館の地下に牢が設置されている。
そこに元帝国兵達を拘束していたが……
「グッ、オォオ……オオオオオォッ!!!」
元帝国兵達は突然苦しみ始めて……
そして、異型の魔物へと姿を変えた。
牢を簡単に壊すと、その場にいた兵士達を皆殺しにする。
そのまま地下を抜け出して、目につくもの、全てを破壊する殺戮兵器として活動を始めた。
屋敷に残っていた兵士が必死に応戦するものの、ほとんどの兵士は街の暴動鎮圧に出てしまったため、圧倒的に数が足りていない。
兵士の質も魔物と化した元帝国兵以下だ。
結果は簡単に予想できた。
魔物を止めることができず、次々と血が流れていく。
それは、床を赤く染めて、血の池を作り……
屋敷を『死』で染めていった。
――――――――――
「くそっ、なんでこんなことに……!」
「ぼやいているヒマはありません! 今は、とにかく動かないと!」
「早くアリアちゃんと合流するわよ!」
屋敷の廊下を駆けるのは、フィルローネ達、三人だ。
街で暴動が起きて……
屋敷が手薄になった隙を狙ったかのように、元帝国兵達が魔物と化した。
魔物達は強力で、個人で太刀打ちできる相手ではない。
逃げる気はないが、しかし、不完全な状態で挑むには、あまりにも分が悪い相手だ。
故に、フィルローネ達はリアラが泊まる部屋を目指していた。
彼女の力があれば、どうにかこうにか、まともに戦えることができるだろう。
うまくやれば魔物の殲滅も可能だ。
そんな期待を込めて……
それと、心配もして……
「アリアちゃん!」
フィルローネ達はアリアが泊まる部屋にたどり着いた。
「……アリアちゃん?」
しかし、求める少女の姿はない。
バルコニーに続く扉が開いていて……
夜風でカーテンがゆらりゆらりと揺れていた。
――――――――――
「くっ……なぜ、このようなことに……」
執務室で部下からの報告を受けたドルガは思わず頭を抱えてしまう。
突然、発生した暴動。
しかも一箇所ではなくて複数で発生。
犯人の詳細な情報はまだ届いていないが、先の事件で人質になっていた者という報告は受けていた。
なぜ?
事件によるストレスでおかしくなってしまったのだろうか?
それとも、犯人達がなにか罠をしかけていたのだろうか?
考えるけれど答えは出てこない。
それよりも、今は他にやらないといけないことがある。
「地下の様子はどうですか?」
「はっ。地下に突如現れた魔物は、現在、交戦中です。しかし、見たことのない魔物で情報を持たず、また、かなり強力なので苦戦は避けられず……」
「……私が行きましょう」
「そんな!? ドルガ様が戦闘に参加されるなど、そのようなことは……!」
「今は、これ以上の被害を増やすことを防ぐことを第一に考えないといけません。ここで私達が傷つくだけならともかく、銀翼の希望の方々や、民に被害が出るようなことになれば最悪です」
「それは……」
「……本当に最悪の時は、客人である銀翼の希望の力を借りなければいけませんね」
彼らは冒険者ではあるが、今はドルガの客人だ。
それなのに戦ってほしいと頼むなど、領主としての能力を疑われてしまう。
とはいえ、ドルガはそのような面子にこだわることはない。
本当にまずいと判断した時は、迷うことなく銀翼の希望に協力を求めるだろう。
「魔物が現れたのは地下ですね? 鉱山占拠の犯人が無事か気になりますね」
「あのような犯罪者を気にかける必要はなんて……」
「犯罪者ではありますが、しかし、命は平等です。そして、彼らは法の裁きを受けなければなりません。無駄に命を散らすことは望みません」
「さすが、ドルガ様」
「さあ、行きますよ」
「はっ!」
複数の兵士を連れてドルガは屋敷の地下へ移動した。
「これは……」
地下に降りた瞬間、濃厚な血の匂いを感じた。
奥を見ると無数の死体が転がっている。
頭を潰された者。
胴体を断たれた者。
大きな穴を開けられた者。
死因は様々だ。
共通して言えることは、誰も彼も無惨に殺されている、ということ。
「なんてことだ……」
ドルガは胸の前で手を合わせ、部下達に簡単な祈りを捧げた。
それから、さらに奥にいる魔物達を睨む。
「邪悪なる魔物達よ……汝らの罪は明白であり、そして、決して償うことはできません。なればこそ、この私が裁きをくだしましょう。いざ、ここに正義の鉄槌を!」




