3話 処刑
革命からどれくらいの日が経ったのだろうか?
ずっと地下牢に閉じ込められて、日々、拷問を受けていたリアラにはなにもわからない。
そんなある日、複数の兵士がやってきて……
「出ろ」
リアラは牢の外に連れ出された。
もしかして釈放されるのだろうか?
ようやく理解してくれたのだろうか?
それは、期待というよりは幻想だ。
日々の拷問にリアラの心はほぼほぼ折れかけていた。
ありえない展開とわかっていても期待してしまう、すがってしまう。
ややあって外に出た。
「……ぅ……」
2年ぶりに浴びる太陽の光は強烈だった。
リアラは目元に手をかざそうとするが、手枷がハメられているため叶わない。
連れてこられた場所は、街の大広場だ。
壇が作られていて、その周囲をたくさんの民が囲んでいる。
「早く殺せっ、殺してくれぇえええええ!!!」
「ざまあみろ! 俺達の恨みを思い知れっ」
「早く、早くして! これ以上は待てないわ!」
民のリアラが姿を見せると、民が一斉に罵声を飛ばし始めた。
憎しみと殺意が込められた目。
リアラは、一瞬、煉獄に迷い込んでしまったのでは? と勘違いしてしまう。
「今日は、お前達を処刑する。ようやく準備が整ったからな、盛大にやってやるよ」
「そ、んな……私……は……」
リアラは膝をついてしまいそうになる。
どうにか説得を試みるものの、長い拷問で声帯が潰れてしまい、まともにしゃべることができない。
「……ぇ?」
待て、とリアラは違和感に気づいた。
今、この兵士はなんて言った?
お前『達』の処刑をすると言ったはずだ。
それはつまり……
「マ……ぁ……!!!」
中央に巨大な十字架が作られていて、そこにマリアが磔にされていた。
2年ぶりの再会だ。
リアラは、枯れたと思っていた涙が流れるのを感じる。
マリアもまた酷い姿だった。
リアラと同じようにボロボロで、あちらこちらに傷跡が残っている。
それよりも気になるところは、その瞳だ。
虚ろで、空っぽ。
どこを見ているかわからず、視線が定まっていない。
「マ……マァ……!!!」
リアラは潰れた喉を必死に使い、何度もマリアに呼びかけた。
それでも、マリアはリアラを見ることはない。
ただただ、明後日の方向をぼーっと見つめ続けていて……
それはもう壊れた人形のようだった。
このような状況なのに、なんの反応も示さない。
声を発することもなく、痛みに悶えるわけでもなく。
なにも……ない。
「マ、マ……?」
「……」
マリアは娘に気づかない。
なにも見えていない。
それも当然だ。
彼女の心はすでに壊れていた。
別の場所で軟禁されているというのは嘘だ。
そこで、リアラと同じように拷問を受けていた。
そして、彼女は一児の母ではあるものの、まだ若く美しい。
そのような者が囚われの身となれば、どうなるか?
残酷な結末しかない。
「諸君、よく来てくれた! 私は、アルカディア平和国、初代国王のオーレン・エルトハイデンだ!」
リアラは気づいていなかったが、いつの間にか平和国の王が姿を見せていた。
革命の時、先陣を切って戦い、帝国の将軍を撃破した英雄だ。
彼はその人気で王の座について、新しい国を建国した。
アルカディア平和国。
大層な名前である。
しかし、その人気は絶大。
圧政を敷く帝国から自分達を助けてくれた英雄王として、民達は、オーレンを敬い、忠誠を誓っていた。
それは熱狂的で、信者と言っても過言ではない。
「2年前、私は悪の帝国に裁きを下した。皆を救うために立ち上がり、愚かな暴君達を粛清した。しかし、それはまだ終わりではない。皇族はまだ残っている!」
「「「おおおおおぉーーー!!!」」」
「今の今まで生かしてきたのは、彼女達の改心を願っていたからだ。そのために、私は、今まで彼女達と対話をして、その身に罪を刻み、己の過ちを認めるように諭してきた。しかし……彼女達はなにも理解せず、理解することを放棄して、あまつさえ間違ったことはしていないと開き直る有様だ」
「「「おぉおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」
「私の判断が遅れたこと、ここに謝罪しよう。そして、過ちは即座に修正されなければならない。故に、今日、ここで皇族の血を全て断つことを宣言しよう!!!」
「「「殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!」」」
「「「殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!」」」
「「「殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!」」」
リアラは目の前の光景に恐怖を覚えた。
あれほど優しかった民達が自分達の死を望んでいる。
狂気を瞳に宿して、泡すら飛ばしつつ叫び、死を望んでいる。
なんていう……
なんていう光景なのだろうか?
これが帝国の民?
守りたかった人達?
「諸君、見たまえ! これが悪の最後である!!!」
オーレンの合図で兵士が動いた。
松明を持ち、ゆっくりと磔にされているマリアに近づいていく。
「や、めっ……!?」
リアラは必死になって止めようとするが、声が出ない。
長い幽閉と拷問で体はボロボロで、支えられなければ立っていることもできず、当然、力づくで止めることもできない。
それでも叫ぶ。
潰れた声帯を無理矢理使い、ありったけの声と願いで。
「やめてえええええぇえええええっ!!!!!?」
その願いは……
届かない。
火が点けられた。
「「「「「おおおおおぉおおおおおぉぉぉぉぉーーーー!!!!!!!」」」
同時に、磔にされたマリアが火炙りにされて……
民の興奮は最高潮に達して、空を震わせるような声が響いた。
「あっ、あああああぁ……ま、マァっ!!!」
「……」
リアラは必死に叫んだ。
しかし、マリアは反応しない。
火に焼かれても苦しむことなく、悲鳴をあげることなく。
変わらずに虚ろな視線をさまよわせているだけ。
やがて、炎が全身を包み込んで……
マリアの命が消えた。
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