29話 歓迎の宴と祈りの始まり
「では……土の都の宝である民を助けていただいた、偉大な英雄のパーティーに乾杯!」
「「「乾杯!」」」
夜。
ドルガ主催による宴が開かれた。
といっても大規模なものではなくて、参加者はドルガと銀翼の希望の四人だけだ。
たくさんの人を招いて、盛大なパーティーすることも考えられたらしいが、フィルローネ達がそれを却下した。
例の魔女を討伐したのならともかく、まだ、そんなに大したことはしていない……と。
ドルガは残念そうにしたものの……
それは別として、美味しい料理と高級な酒が振る舞われる。
意外というべきか、フィルローネは酒豪だ。
料理よりも酒を好み、すでに何杯も飲んでいた。
酔いで頬が朱色に染まるけれど、問題ないと飲み続ける。
マイトは料理に夢中になっていた。
彼は荒い戦闘をすることが多く、報酬を得ても武具の修理費、交換で大半が消えてしまう。
故に、普段の食生活は慎ましやかで……
ここぞとばかりに肉を食べていた。
リーネはマイペースに食事を楽しみ、時折、メイドを捕まえて調理法を尋ねていた。
料理が好きなのだ。
貴族の……しかも領主が普段味わう料理を覚える機会なんてないため、とても一生懸命に聞き込みをしていた。
そしてリアラは……
「……なるほど。あなたは、銀翼の希望の新しいメンバーなのですね」
「仮加入ですけどね」
「いやはや、それでも素晴らしいです。仮加入とはいえ、その歳でAランクパーティーの一員にするというのは、なかなかできることではありません。そして、今回の事件で、あなたはおおきな活躍をしたと聞いております。私は、あなたを尊敬いたします」
ドルガと歓談にふける。
笑顔の仮面を被り、話を続けて……
なるほど、とリアラは感心した。
ドルガは、一度たりともリアラのことを子供扱いしていない。
年齢の話になることはあるが、しかし、大人がやるように、上から目線でものを語ることはない。
諭すこともしない。
あくまでも対等に接していた。
なかなかできることではない。
「アリア殿は、どうして冒険者に?」
「他にできることがなかったので……わりと不器用なんです」
「そのように自虐されることはなさらないでください。アリア殿のことは、私はよく知りません。しかし、その力で民を助けて、正義を執行することができる。それは、十分に誇ってよいことだと思いますよ」
「そう……かな?」
「もちろんですとも。アリア殿が冒険者をしていたおかげで、土の都の民が救われた。それは絶対的な事実。私は、そのことを深く感謝して……そして、運命だと思っています」
「運命、ですか」
「はい。あくまでも私個人の考えであり、押し付けるつもりはないのですが……人には、それぞれ定められた役目というものがあります。私の場合は、人々を導いていくこと。そしてアリア殿の場合は、冒険者として活動することで正義を執行すること。他の方々も、民も、皆、己だけの役目を持っていることでしょう。それを成すことで、私達は己を鍛え、徳を積み重ねて……世界をよりよいものにしていくことができるはずです」
「そんな風に考えたこと、なかったかも……素敵ですね」
「そう言っていただけると幸いです」
また、ドルガはリアラのことを女性としてではなくて、一人の人間として接していた。
それは彼の態度を見ていればわかる。
なかなかの人格者のようだ。
そんなドルガに対して、リアラは……
(今すぐに殺してやりたい)
殺意を覚えた。
ドルガの語る理想、平和、正義。
そのどれも吐き気を催すほどに酷い。
どうにかこうにか相槌を打っているものの、少しでも気を抜けば殴りかかってしまいそうだ。
(お前のような正義を騙るヤツに、ママは殺された……絶対に許さない)
リアラは殺意を募らせて、しかし、それを決して表には出さず。
情報を引き出す場と割り切り、ドルガと歓談を続ける。
「あの……私からも質問、いいですか?」
「ええ、もちろんです。というか、私ばかり話してしまい、申しわけありません」
「いえ。えっと……さっき言っていた、人々を導く、ということは具体的に言うと?」
「そうですね……なんて言えばいいか」
初めてドルガは迷いを見せた。
言葉を選んでいる様子だ。
「あくまでも私個人の考えなのですが……民は力を持たず、そして、迷うことが多いのです」
「迷う?」
「力を持たないために、力を持つ者に従うことが多く……しかし、その心に迷いを抱えています。この者の話を聞いていいのだろうか? この者に従うことは正しいのだろうか? そのような迷いです」
「なるほど」
この意見に関しては、リアラは心から納得した。
民は弱く、愚かで、なに一つ自分で決めることはできない。
上に立つ者が決めたことを妄信的に受け入れて、それが正しいと信じる。
文句だけは一人前。
それでいて、一人ではなにもできず、常に群れてばかり。
要するに、クズだ。
リアラは心の中で吐き捨てた。
「その民の迷いを晴らすことが、私の成すべきこと……人々を導くことだと思っております」
「失礼なことを聞きますけど……上に立つ者が失敗していたら? その時は、どうするんですか?」
「そうですね、その可能性はあり、私は、そうならないように常に考えて慎重に行動をしているつもりです。ただ、失敗というほどの問題は起きることはないでしょう」
「それは、どうして?」
「私もまた、下に座すべき立場の者。英雄王オーレン・エルトハイデンに仕えている身です。そして、英雄王は絶対に失敗などしません。彼ほど正義に強く、高潔な魂を持った者は見たことがありません。それに、彼は神に認められている。そんな英雄王に助言をいただき、私もまた導いていただくことで、その懸念は解消できるでしょう」
「……すごく信頼しているんですね」
「生涯を仕える主であり、そして、心の友ですからね」
ドルガは誇らしげに言う。
心底、オーレンの人柄に惚れているのだろう。
リアラは相槌を打ち、微笑み……
心の中で嘲笑う。
(強い正義感? 高潔な魂? 神に認められている? くだらない……そんなもの、英雄王を認める理由にならない。結局、思考を放棄して、頼り切りになっているだけじゃないか)
思わず嘆息が出てしまいそうになる。
(特に、神に認められている、というところが滑稽だ。神に認められたから、英雄王の行いは全て正しい? ううん。私は認めていない。そもそも、英雄王の正しさを誰が保証するの? 神? でも、神が正しいことは誰が保証するの?)
結局のところ、ドルガが語ることは力を持つ者の特権でしかない。
理想を押し付けて。
現実を塗り替えて。
好き放題しているだけだ。
それを認めていない者がいることを思い知らせてやろう。




