表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/42

28話 毒を招く

「ありがとうございました。あなた達のおかげで鉱山は解放されて、人質達を助けることができました」


 領主館の客間。

 再び足を運んだリアラ達は、ドルガから丁寧な感謝の言葉を受けた。


 Aランクパーティー『銀翼の希望』は、不当に占拠された鉱山解放の依頼を請けた。

 そして、鉱山を占拠する元帝国兵達を捕縛。

 不幸な事故があり、人質の一人が死亡する事態になってしまったけれど、他は問題なく、依頼を達成することができた。


 その功を労うために、ドルガは『銀翼の希望』一行を館に招いたのだ。


「ありがとうございます」

「いいえ……その、私達は犠牲者を出してしまいました。依頼は失敗したに等しいかと」

「……ごめんなさい」


 リアラは申しわけなさそうに頭を下げた。

 それを見て、フィルローネ達は難しい顔になる。


 捕縛した元帝国兵の一人は、失敗した時の保険にあらかじめ自爆装置を体に巻き付けておいた。

 その爆発に巻き込まれ、人質の一人が帰らぬ人になったのだ。


 常識で考えて、そこまでするなんて誰も予想ができない。

 フィルローネも考えていなかった。


 リアラに非はない。

 あるとしたら、あの場を任せたフィルローネにあり、また、『銀翼の希望』全員の責任だ。


 そう諭したもののリアラは落ち込んだまま。

 フィルローネ達もどう接していいか迷い、心のケアは成されていない。


 ……もちろん、全てリアラの演技ではあるが。


「いいえ、気になさらないでください。確かに、人質の一人が亡くなったことはとても悲しいことですが……しかし、あなた方がいなければ、さらに多くの犠牲者が出ていたことでしょう。あなた達は、一人を助けられなかったのではなくて、残りの十人近い人質を助けることができたのですよ」

「領主様……ありがとうございます」

「「ありがとうございます!!」」


 領主の言葉に感銘を受けた様子で、フィルローネとマイトとリーネの三人は深く頭を下げた。

 それを見て、リアラも頭を下げる。


「頭を上げてください。あなた達は、私にとっての英雄です。英雄殿にそのようなことをさせてしまうなんて、とても失礼なことです」

「はい、ありがとうございます」

「ところで……この後の予定はどのようになっているでしょう? もしよろしければ、歓待の宴を開きたいのですが」

「そんな。そのようなことをしなくても……」

「言ったでしょう。私にとって、あなた達は英雄なのです。なればこそ、英雄をもてなさなければなりません。せめてもの感謝の気持ち、可能ならば受け取っていただきたいのですが……あぁ、もちろん、それとは別に依頼料はお支払いいたしますが」

「えっと……」


 フィルローネは仲間の方を見た。


 マイトとリーネは、賛成と言うように頷いていた。

 リアラもまた、二人に続いて頷く。


 ドルガは純粋な厚意で歓待を申し出てくれている。

 それを断るということは、彼の名誉を傷つけるだけではなくて、真心も否定することになってしまう。


 ……なんてことを、フィルローネは考えたのだろう。

 ややあって笑顔で頷いた。


「ありがとうございます。ぜひ、参加させていただきます」

「よかった。では、さっそく準備を……と言いたいところですが、実はすでに進めておりまして。ほどなくして夕食ができるでしょう。我が家の料理長が心を込めて作る料理を堪能していただければ」

「手際がいいんですね」

「これでも領主を務めておりますので」


 二人は小さく笑う。


「ただ、もう少し時間がかかりますので……それまでは、やや無粋ではありますが、依頼についての詳細をお聞きできれば」

「ええ、もちろんです。それと、可能でしたら、こちらからも質問をいいですか?」

「かまいませんよ」


 そして、銀翼の希望とドルガの間で情報交換が行われる。


 ドルガは、フィルローネ達がどのようにして事件を解決したか?

 その詳細な流れを聞いて……

 それと、最後に依頼料と必要経費の調整をした。


 フィルローネは、メンバーを代表して事件のその後を尋ねた。

 人質となっていた人々の健康状態など。

 そして、犯人の元帝国兵の処置。


 元帝国兵は、現在、領主の館にある地下牢に囚われているらしい。

 そこで尋問が行われているという。


 本来ならば、それは騎士団の役目だ。

 国に仕える騎士が犯罪者を裁く。


 しかし、鉱山の不法占拠の犯人は元帝国兵という、非常にデリケートな存在だ。

 決して逃すわけにはいかず……

 また、一つでも多くの情報を得て、他に仲間がいるのなら確実に捕まえなければいけない。


 なによりも魔女に繋がる情報が欲しい。


 故に、元帝国兵はドルガのところに送られて、尋問を受けていた。


「……と、いうわけなのです」

「なるほど、ね……まさか、魔女が関わっているかもしれないなんて」

「魔女って、アレだよな? 帝国の皇女で、人を騙していた大罪人だよな? 半年前に処刑されなかったか?」

「マイト、これは他言無用ですよ? 領主様は、私達を信じて話してくれたんですから」

「はい。すみませんが、絶対に漏らすことのないようにお願いいたします。民が知れば、パニックを誘発するかもしれませんからね」

「……でも、あえてそんな話をするっていうことは」


 リアラはドルガを見た。

 彼は神妙な表情で頷く。


「……はい。今回の事件、魔女が関わっている可能性があります」

「そう……ですね。魔女の情報が流れてきたタイミングで、元帝国兵による鉱山の占拠……偶然の一致なのか、それとも……」

「あるいは、魔女の仕業かもしれません。そうなると、情報は正しいことになり……この土の都が災厄に襲われるやもしれません。それだけは絶対に避けなければなりません。そのための力を、引き続き貸していただきたい」

「……」


 フィルローネは即答を避けて、しっかりと考えた。


 半年前に処刑されたはずの皇女。

 元聖女が魔女に堕ちて、悪魔のような所業を繰り広げているかもしれない。


 それが本当なら見過ごすことはできないが……

 しかし、相手の力が不明だ。


 元聖女なのだから、それなりの力を持っているだろう。

 ただ、戦闘に特化しているわけではないから、戦えば負けることはないと思う。

 ましてや今、アリアという秘密兵器がいる。


 ただ……なぜだろう?

 嫌な予感がした。

 背中が震えるような悪寒がする。


「おいおい、なに迷ってんだよ? 俺達『銀翼の希望』は、こういう時のために冒険者になったんだろう?」

「騎士団で対処できないことを、私達で……その理念を叶えるために、私は、このパーティーに参加しています」

「それは……」


 二人の言うことは正しい。

 とても正しいことで納得できる。


 ……しかし、嫌な予感は消えてくれない。


「わかりました。断言はできませんが、できる限り力になると約束します」


 嫌な予感は消えていないが、フィルローネはドルガに協力することにした。


 彼の話が本当なら放っておくことはできない。

 土の都に災厄が降り注ぐというのなら、どの道、ここをホームとしている以上、衝突は避けられないだろう。


 そんな判断をしたのだけど……

 フィルローネは、それが過ちであることに気づいていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ