27話 人間じゃない
「みなさん、大丈夫ですか? 私達は、領主様の依頼を請けてやってきた冒険者です。救助に来ました」
「おぉ、領主様が……」
「やった! 俺達、助かるんだ!」
フィルローネの言葉を受けて、不安そうに震えていた人質達に笑顔が戻る。
その笑顔を受け取るかのように、フィルローネも笑顔を浮かべていた。
リアラの予想外の行動に焦ったものの、無事、人質を救出することができた。
安堵するフィルローネ。
一方、リアラは黙々と元帝国兵達を縛り上げていた。
やや仏頂面。
拗ねている。
無茶をしないこと!
と、フィルローネにこってりと絞られたからだ。
あれくらい、リアラにとって無茶でもなんでもないのだが……
そう反論するわけにはいかず、素直に説教を受け入れた。
「俺達、家に帰れるんですね!?」
「ええ、もちろん。でも、少し待ってください。まだ、元帝国兵の全てを捕まえたわけじゃないので」
「そんな……」
「大丈夫。あなた達の身の安全は、Aランクパーティー『銀翼の希望』が保証するわ」
「おぉ……!」
「まさか、あなた達があの有名な『銀翼の希望』だったなんて!」
「これなら問題ないぜ!」
人質達を安心させるために、あえてパーティーの名前を口にしたのだろう。
そんなフィルローネの試みはうまくいった様子で、人質達は完全に安心した様子だった。
「アリアちゃん、そっちはどう?」
「うん。今、ちょうど終わったよ」
「ありがとう。それで、これからのことなんだけど……アリアちゃん、ここで、人質のみんなと待っててもらえるかしら? 念の為、結界を展開できる魔導具を置いていくから」
「どういうこと?」
「元帝国兵は、全部で三十人くらい。ここにいたのは、十人弱。単純計算で考えると、マイトとリーネのところに残りのニ十人が向かったことになるわ。さすがに厳しいと思うから……」
「援護に向かう、っていうわけだね? うん、いいよ。ここは私に任せて」
「いいの?」
フィルローネが驚いていた。
さきほどのリアラの行動を見て、また無茶をするのでは? と考えていたのだろう。
「大丈夫。ここで、ちゃんと人質を守るよ」
「……うん、ならお願いね。ただ、絶対に無茶はしないように。また無茶をしたら、今度はげんこつよ?」
「それは嫌だから、約束は守るよ」
「気をつけてね」
フィルローネは何度か振り返りつつ、坑道の奥へ消えた。
リアラは言われた通り、結界を展開する魔導具を起動する。
古い坑道は魔物が現れることもある。
相手をするのは面倒なので、戦闘を避けられるならそれに越したことはない。
「なあ、嬢ちゃん」
ふと、人質の一人に声をかけられた。
「嬢ちゃんも『銀翼の希望』のメンバーなのかい?」
「仮加入だけどね」
「そっか。すごいな、その歳でAランクパーティーに参加しているなんて。きっと強いんだろうな」
「俺、この子が元帝国兵の連中をなぎ倒していくところを見ましたよ!」
「へえ、そいつは頼もしい。見た目で判断したらいけないな」
「ありがとな、嬢ちゃん! おかげで助かったぜ」
「嬢ちゃんは救世主だ!」
「……どうも」
人質達の称賛を受けて、リアラはフードを深く被る。
人質達は、それを照れている、と思い、さらに笑顔を深くした。
ただ、実際は違う。
(……思っていた以上にまずい)
しっかりと自制しなければ……
弾みで人質達を殺してしまいそうだ。
聖女として活動していた時。
民は、リアラのことを救世主と称賛して、笑顔を向けて、そして救いを求めてきた。
リアラはできる限りの要望に応えて、人々を救い続けてきた。
しかし、連中はあっさりと手の平を返して、魔女と罵倒してきた。
母が殺されるところを見て笑い、喜び、歓喜した。
リアラの民に対するイメージはそんなところで塗り固められていて、そうそう簡単に払拭できることはない。
ともすれば怒りが爆発してしまいそうだ。
ただ、今はまずい。
『銀翼の希望』の一員として依頼を成功させなければ、ドルガに近づくことはできないだろう。
我慢の時だ。
「お前達、元帝国兵なんだよな?」
ふと、人質の一人が捕縛された元帝国兵に声をかけていた。
元帝国兵は応えない。
それに苛立ちを覚えたらしく、人質は声を荒くしていく。
「もう帝国は滅んだっていうのに、いったい、なにがしたいんだよ……!」
「そうだ、こいつの言う通りだ。帝国の威光を取り戻すとか……そんなふざけたこと、誰も望んでいないんだよ!」
「滅んで当然の国だ! 俺達を苦しめることしか知らない……お前達なんて人間じゃない! 死ねばいい!!!」
「ぐっ……!」
人質達の怒りが爆発して、捕縛された元帝国兵達を蹴りつける。
罵声を飛ばしつつ、何度も何度も。
今まさに、理不尽な暴力に怒りを覚えていたはずなのに、そのことを忘れたかのように、人質達は動けない相手を蹴る。
「……」
その光景を見たリアラは、とある記憶がフラッシュバックした。
一生懸命に助けようとしていた民達に罵声を浴びせられて。
守ってくれるはずの騎士達になぶられて。
心を壊されてしまい、命も奪われた母の最期が思い浮かぶ。
それは、リアラの一番のトラウマであり、絶対に触れてはいけない部分だ。
間接的にではあるが、人質達はやってはならないことをしてしまい……
そして、リアラは迷うことなく殺意を実行に移す。
「……人間じゃないのはお前達だ」
「うん? 嬢ちゃん、今、なにか言ったかい?」
「枯れろ。枯れろ。枯れろ。枯れ果てて、腐り落ちてしまえ。我が呪言と共に、汝に終わりのない眠りを与えてやろう。奪え……強欲ノ略奪者<タイラントスティール>」
人質の一人が、がくりと膝をついて、己を抱きしめるようにして震えた。
「な、なんだ……? いきなり、さ、寒く……」
極寒の地に裸で放り出されたかのように、その人質は震えていた。
血色が悪くなり、顔色は青に染まる。
それでも状態は悪化して……
「か……はっ……」
限界が訪れて、人質は倒れた。
吐き出す血も残っていない。
その体はミイラのように乾いていて、生気と精気がまるで感じられない。
いっそ、作り物と言われた方が何倍も納得できる。
当然、リアラの仕業だ。
人質の生命力、魔力を奪い取る魔法だ。
通常ならば、対象を死に至らしめることはない。
ただ、リアラの魔力が強大なこと。
人質の生命力、魔力が低いこともあり、こうしてミイラを作り上げる結果となった。
「……は?」
残された人質達はなにが起きたか理解できない様子で、目を点にした。
それは致命的な隙だ。
すぐに全力で逃げ出していれば、もしかしたら助かったかもしれない。
唯一の機会を逃したことも理解できず……
「従え。従え。従え。汝の全てが欲しい。故に、汝の全てを捧げろ。その身、その魂、この手に掴み取る。我のものとなれ……心魂掌握<メンタルプリズン>」
続けて、リアラの魔法が発動した。




