23話 予想以上に……
「燃えろ、燃えろ、燃えろ。舞い上がれ豪炎……火炎旋風<スパイラルフレア>」
リアラは、螺旋状に渦を巻く炎を撃ち出した。
それは三メートル以上の巨体を誇る魔物を一瞬で飲み込み、燃やし尽くす。
魔法の効果が切れた後、残るものは骨だけだ。
肉などは全て炭と化していた。
「……攻撃魔法はこんな感じだけど、どうかな?」
「「「……」」」
リアラが魔法を披露すると、フィルローネ、マイト、リーナの三人は目を点にした。
とても驚いている様子だった。
さきほど、リアラが片手剣を使い、十二匹の小型の魔物をジャスト3秒で撃滅した時も似たような顔をしていた。
なぜだろう?
リアラは小首を傾げる。
「なるほど、これは……」
「予想していた以上に……」
「とんでもないですね……」
「えっと……みんな、どうして驚いているの?」
「普通の冒険者は、3秒で十匹以上の魔物を駆逐できないし、オーガを魔法で一撃、なんてこともできないからよ」
フィルローネの説明を受けて、なるほど、とリアラは納得した。
グリムの元で『力』を鍛えられたけれど、『知識』については学んでいない。
リアラは元聖女で、皇女でもあった。
一般的な知識はさすがに持ち合わせているが、しかし、『冒険者の適正レベル』なんてものは知らない。
今のは、やりすぎた、ということなのだろう。
リアラの目的は、銀翼の希望を利用して成り上がり、ドルガに近づくことだ。
ただし、あまり目立つことは望まない。
一応、追われている身なのだ。
だからこそ、銀翼の希望という隠れ蓑を使うことにしたのだから。
「アリアは、こんなことが当たり前のようにできるのかしら?」
「ううん。ごめんね、みんなに良いところを見せた方がいいかな……って、ちょっと張り切りすぎたかも」
なので、今のが限界、という話にしておいた。
……実際は、十分の一以下の力ではあるが。
「なるほど」
フィルローネは今の説明で納得したらしい。
苦笑して、ぽんぽんとリアラの頭に手をやる。
「アリアが強いのはよくわかったわ。ただ、あまり無理はしないでね」
「……ぁ……」
「強いに越したことはないけれど、でも、命が一番よ。あまり無理はしないで、私達を心配させないでね?」
「……心配してくれるの?」
「もちろんよ。だって、仲間じゃない」
フィルローネは微笑む。
マイトとリーネも微笑む。
リアラはきょとんとして……
それから、困ったように微笑む。
その表情を、フィルローネ達は照れているのだと解釈した。
ただ、実際のところは違う。
リアラは本当に困っていたのだ。
リアラは他人にそうそう簡単に心を許さない。
グリムと一緒にいた時でさえ、半分の三ヶ月くらいは、夜、警戒のあまりまともに眠れなかったほどだ。
人間なんて信用できない。
仲間なんて幻想でしかない。
この連中も、どうせいつか裏切る。
帝国民が手の平を返したように、手酷い言葉をぶつけてくるに違いない。
そう考えていて……
その思惑を悟られないように、ちょっとした演技をしただけだ。
他人なんて……
人間なんて信用できない。
――――――――――
リアラが銀翼の希望に仮加入して1週間が経った。
今のところ、問題なく活動を続けられている。
リアラはアタッカーとして固定。
そこそこ連携がとれるようになり、効率の良い狩りができるようになっていた。
「と、いうわけで……」
その日も討伐依頼を請けて、無事に完了した。
夜は親睦を兼ねた食事会だ。
その席で、フィルローネがニヤリと笑いつつ、言う。
「アリアちゃんが加わったことで、私達、銀翼の希望はワンランク、パワーアップしたわ。もはや、Sランクと言っても過言じゃないと思うの」
「おいおい、気が早いだろ」
「でも、気持ちはわかります。アリアさんが加わったことで、今まで以上に効率よく、魔物を狩れるようになりましたからね」
「あはは……ありがとうございます」
まだ仮加入なのだけど。
そんなことを思いながらも、リアラは笑顔で応えた。
「なーのーでぇー……ちょっとがんばってみようと思うの♪」
「どういうことだ?」
「実は、領主様から直々に指名が入ったのよ!」
『領主』という単語にリアラがピクリと小さな反応を見せていたものの、フィルローネ達は気づかない。
「えっ、それ、本当ですか?」
「マジマジ。最近、大活躍の銀翼の希望に、ぜひともお願いしたいことがある、って」
「へぇ。いいな、それ。俺らも出世したもんだぜ」
「どんな依頼なんですか?」
「それはまだ聞いていないのよねー。でも、討伐系らしいわ」
「領主様からの討伐系の依頼ですか……たぶん、強敵ですね」
「ま、今の俺等なら大丈夫だろ。俺等だけじゃなくて、アリアもいるからな」
「マイトさん、油断禁物ですよ」
「でも、リーネだってそう思うだろ? フィルローネの言う通り、アリアが加入してくれて、かなりパワーアップしたと思うからな」
「それは、まあ……」
三人の視線がリアラに注がれた。
妙な居心地の悪さを覚えたリアラは、適当に笑ってごまかした。
そもそも、まだ仮加入ではあるのだが……
野暮は言わないでおこう、と決める。
「とりあえず、話だけでも聞いてみましょう。もしもダメっぽい、って感じた時は、ちょっと失礼になっちゃうけど、止めておきましょう。冒険者は引き際も大事だからね」
「そうですね、それでいいと思います」
「だな」
最後に、フィルローネはリアラを見る。
「アリアちゃんも、それでいいかしら?」
「うん、大丈夫」
領主に会えるチャンスを逃すわけにはいかない。
リアラは、若干、食い気味に頷くのだった。




