2話 革命
……革命が起きた。
最初のきっかけは、流行り病だ。
数えきれないほどの民が死んだ。
生き残った者も重い後遺症を抱えることになり、まともな生活を送ることができなくなった。
この事態に対処するために、リアラは全力で励んだ。
文字通り、寝る間も惜しんで人々のために聖女としての活動を続けた。
しかし、不眠不休で活動を続けるリアラを見かねて、皇帝は彼女を引き上げさせることにした。
気持ちはわかるが、限界だ。
民を救うよりも先にリアラが倒れてしまう。
事実、リアラは限界で……
その後、倒れてしまい、自身も流行り病にかかってしまった。
幸い、一命はとりとめたものの、長期にわたり、城で療養することになる。
ただ、それが民の不信を招いてしまう。
国は聖女を独り占めして、自分達だけ助かろうとしているのではないか?
そもそも、聖女は民を救うつもりはないのではないか?
流行り病を恐れて、自分達を見捨てて逃げ出したのでは?
そんな噂がまことしやかに囁かれるようになり……
それでも、帝国はなんとか流行り病を乗り越えることができた。
次の問題は飢饉だ。
天候不順により、例年の半分以下の作物しか取れない。
おまけに流行り病の影響で動ける者が少なく、農作業に従事できる者がいない。
どうしようもない悪循環だ。
皇帝は税を軽減したものの、しかし、それでもまだ民は払えないほどの深刻な状況に陥っていた。
このような状況で税が払えるわけがない。
それよりも援助をしてくれないのか?
民の訴えに、しかし、皇帝は動くことはできなかった。
強大な力を持つ帝国とて、無尽蔵のエネルギーを有しているわけではない。
その屋台骨を支えるのは民の税であり、それがないとなると、きちんとした活動を行うことはできない。
民を援助しようにも、そのための力が不足していた。
貯蓄はある。
しかし、周辺国家は戦争を繰り返しており、そちらの対策のために貯蓄を切り崩すわけにはいかない。
軍備を削るわけにはいかないのだ。
国は俺達よりも戦争を取るのか、と民の不信を買う。
……まるで呪われているかのように、帝国は次々とトラブルに見舞われてしまい、まともに対処することができず、民は困窮していった。
皇帝はそのようなことを望んでいない。
しかし、事実として民は日々食べるものにすら困り……
他国から見れば、帝国は民を虐げる暴君として映るようになった。
そのような事実はない。
しかし、人々は鬱憤を晴らすための矛先を求めていた。
わかりやすい『悪』を求めていた。
お前のせいだ、お前が悪い、と糾弾することで自身を納得させたいのだ。
そして……
他国の介入があり、帝国で革命が起きた。
民を虐げる暴君を倒せ。
税をむしり取り、贅沢の限りを尽くす皇族を許すな
偽りの聖女を叩き潰せ。
民の怒りは津波となり帝国を飲み込んだ。
度重なる事件で帝国は弱っていて。
他国の介入もあり、革命は成功した。
皇族は全て捕らえられて、帝国は解体。
民を率いて、先頭に立ち戦った英雄が新しい王となる。
数百年、繁栄が続いた帝国は、こうして歴史から消えることになった。
――――――――――
……2年後。
帝国改め、アルカディア平和国の地下牢。
「……」
そこには、ボロボロになったリアラの姿があった。
偽りの聖女。
民を騙して、その血税を貪り、贅沢の限りを尽くしていた魔女。
……それがリアラに対する世間の一般的な認識だった。
皇帝と皇妃は、真っ先に処刑された。
しかし、リアラは生かされていた。
慈悲ではない。
簡単に殺してなるものか、楽にしてたまるものか。
そんな理不尽な怒りを向けられてしまい、2年もの間、拷問を受けていたのだ。
平和国の王であり、英雄が直々に彼女を拷問した。
これが民の痛みだ、悲しみだ。
その身に刻み込めと、怒りを迸らせながら拷問器具を振るう。
時に、民も拷問に参加した。
家族を返して、子供を返して、友達を故郷を返して。
偽りの聖女……いや、魔女め。災厄の忌み子め。
報いを受けろ、我々の苦しみをお前も味わえ。
そんな言葉を浴びせられて、やはり、筆舌に尽くしがたい拷問を受けた。
鞭で打たれると、リアラは喉が裂けるような勢いで叫び、泣いた。
ただ、しばらくすると、鞭なんて生易しいことであることを知る。
沸騰したお湯をかけられて、無数の針を口に入れられて頬を張られ、熱した鉄を押し付けられて……
普通であれば死んでしまうが、魔術師が回復魔法をかけていたため、リアラは死んで楽になることも許されなかった。
来る日も来る日も拷問が続いて、天使のような姿は見る影もない。
自らの血で髪は赤く染まり、なにもかもが荒れ果てて、ゴミ以下の扱いを受けていた。
それでも。
(だい、じょうぶ……きっと、いつか……誤解が、解けるはず……)
リアラは人々を信じていた。
今起きていることは悲しい誤解だ。
いつか誤解が解けて、笑顔を見せる時が来るはずだ。
現実逃避ではなくて、リアラは、心の底からそう信じていた。
彼女は本物の聖女なのだ。
その力だけではなくて、心の在り方が人と違う。
おぞましい拷問を2年間、受け続けたとしても、それでもまだ人を信じることができた。
それは誰にでもできることではない。
リアラにしかできないだろう。
ただ、そう思えるのには理由があった。
時折、母の様子を聞かされていた。
今や唯一の家族となった、最愛の人。
妾なので、母はまだ処刑されず生きている。
別の場所に幽閉されているらしいが、リアラのような酷い拷問を受けることはなく、単純に軟禁されているらしい。
母は無事だ。
なら、がんばることができる。
そしていつか、笑顔で再会しよう。
それだけがリアラの心の支えだった。
しかし……
その心の支えも壊されることになる。
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