表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/42

19話 ふざけるな

「国は、民がいて成り立つものだ。故に、民のために尽くさなければいけない。そのための責務がある、義務がある。それを果たせない時点で糾弾されて当然だ」

「……」


 リアラの反応はない。

 黙って話を聞いていた。


 もしかしたら説得できるだろうか?


 リアラは魔女で、紛れもない悪だ。

 しかし、説得できるのならそれに越したことはない。

 刃を下すだけが全てではない。


 アスラノトは己の正義に従い、彼女に言葉を届ける。


「民は力を持たない。だから、国にすがるしかないのだ。そして国は、差し伸べられてきた手を全て取らなければいけない」

「……」

「それを果たせないことは、罪なのだ。罪は裁かれなければいけない。正義の断罪を受けなければいけない」

「……」

「故に、俺達が正義となり、なにもできない帝国を断罪した。それは正しいことなのだ。おかげで、何千、何万という民が救われた」

「……」

「民のために身を捧げることこそ、指導者がするべきことだ。それができない時点で、帝国は破綻していた。滅びて当然だ。貴様も皇族の一員ならば、己の不徳を恥じて、これからの生を償いに捧げるべきではないか?」


 ……と。

 アスラノトは、大真面目にリアラに語りかけた。

 説得をした。


 彼にとって、誠実に話をしたつもりだ。

 厳しいことがではあるが、理想ではなくて現実を教えたつもりだ。


 ただ。


 責務とか義務とか。

 そんなものはどうでもいい。

 リアラにとって、ただ一つ、大事なものは……


「ふざけるなっ!!!」


 屋敷全体を震わせるようなリアラの叫び声が響いた。


「だから、なにをしてもいいの!? なにをしても許されるっていうの!?」

「な、なに……?」

「私は、2年、牢に閉じ込められて痛いことばかりされてきた。ずっとずっとずっと……泣いてもお願いしても、なにをしてもやめてくれなかった! ママも同じような目に遭っていて……そして、最後は火炙りにされた上で、首を切り落とされた!!! そして、それを見て民は笑っていた、喜んでいた!!!」

「それは……」

「そんなものが正義? 正しいこと? 相応の報い? だったら、私は正義なんていらない。悪でいい! くそったれな正義なんていらない!!!」


 リアラは、改めて黒の剣を構えた。


「この国の全てを潰す」


「『正しい』民とやらは皆殺しだ。その体を切り刻んで、血で大地を赤に染めてやる」


「正義と平和を謳う兵士も皆殺しだ。一人一人を串刺しにして、それをこの国の墓標にしてやる」


「英雄王は必ず殺す。四賢者もだ。革命に加担した貴族も……全部、全部、全部、殺す。連中の悲鳴で全てを満たしてやる」


「平和国をこの足で踏み潰して、この剣で切り刻んで、それからもう一度踏み潰して、焼いて、砕いて、磨り潰して、もう一度焼いて、血に浸して、原型がわからないほどに砕いて、ぶちまけて……なにもかも全て徹底的に潰してやる!!!」


「なにもかも、みんな嫌いだっ!!!!!!!」


「ぐっ……ぅ……」


 リアラの魂の咆哮に、アスラノトは完全に飲み込まれていた。


 罪のない者を巻き込む彼女は、紛れもない悪だ。

 そして、家族を守ろうとする自分は正義である。

 そう断じることができるのに、なぜか体が動かない。


 単純に恐ろしい。


 リアラの抱えている憎悪と絶望は計り知れない。

 まるで底が見えない。

 これほどまでの負の感情を抱えた者を見たことがない。


 そして、それがリアラに圧倒的な力を与えていた。


 心の力は、そのまま魔力に繋がる。

 今のリアラは、魔王に匹敵するほどの魔力を得ていた。

 そして、繰り返しになるが、その状況を作り出したのは、アスラノトを含む、アルカディア平和国の全てだ。


「安心して」


 ふっと、リアラは落ち着きを取り戻した。


 当初あった、温和な笑みを見せる。

 ただ、その口から出る言葉は恐ろしいものだった。


「あなたも、あなたの家族も、まだ殺さない。私の手足として役に立ってもらわないといけないからね。途中で死んじゃうかもしれないけど、その時はごめんね?」

「き、貴様……!」


 家族に害が及ぶことを思い出したアスラノトは、折れそうになる心を奮起させた。

 剣を両手で握りしめて、リアラを睨みつける。


 しかし、次の瞬間、リアラの姿は消えていた。


「なっ、どこに……!?」

「遅いよ」


 声は背後からした。

 ほぼ同時に、ズンッ、と腹部を貫く衝撃。

 やや遅れて熱。

 どうしようもない熱と痛みに襲われる。


 いつの間にかリアラが背後に回り込み、アスラノトを黒の剣で貫いていた。


「ぐっ……こ、このようなところで俺が……」

「だから、殺さないよ。その怪我も、後で癒やしてあげる。まあ、その前に洗脳するんだけどね」

「き、貴様……!」

「あ、洗脳が解けるとか、そういうのは期待しない方がいいよ? 心じゃなくて、魂を掌握するからね。どうしようもないよ」


 リアラは微笑みつつ、そっと、アスラノトの額に指先を当てた。


「ただ……あなたは私を不愉快にさせた。その罰を受けてもらうね」

「なにを、するつもりだ……!?」

「私の洗脳魔法は完璧なんだ。自我は残るけど、私を最上位に置く。そのことにまるで違和感を抱くことはない。でも……あなたは、体の自由は全部奪う。私の言うことだけを聞く人形になってもらう。だけど、意識は消さない」

「なん、だと……」

「意識は残ったままだけど、でも、なにもできない。体は動かない。全部、私のものになるからね。その目と心で、私に忠実に従うところをずっと見て感じ続けるの。どう? 面白いでしょう」

「や、やめろ……そんなことは」


 これから先、アスラノトは望まぬことをやらされる。

 リアラの忠実な駒となる。


 しかし、体の自由はない。

 意識は残るけれど、なにもすることはできない。

 ただ見るだけ。


 恐ろしい未来を想像して、アスラノトは震えた。

 必死に逃げようとするが、いつの間にか妻達が体を押さえつけていて、それも敵わない。


「や、やめろ、お前達……! 正気に戻れ、戻るんだ!」

「うん、良い声で鳴くね。いいよ、もっと鳴いていいよ?」

「やめろ……やめろやめろやめろ、やめろぉおおおおおっ!!!!!?」

「やだ」


 リアラはにっこりと笑い……

 そして魔法を唱えて、アスラノトは彼女の忠実な『人形』になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 大切な人や信念を奪われた者の末路はどうなるのか・・? それにしてもこのジャンルは今までにないだけに気になります!
[一言] 自分達は守られて当然だと思っているから駄目なんですよ そんな甘い考えを持つ国を潰すのが楽しみです!
[良い点] リアラの絶望は当然ですし、正義を口にする連中はその実非道です。 今後何があろうともリアラにはこのまま、突き進んでもらいたいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ