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17話 全て寄越せ

「おかえりなさい」


 アリアはにっこりと笑い、アスラノトを出迎えた。


 本来なら、その天使のような笑顔に癒やされ、安心していただろう。

 しかし、なぜだろう?

 今は不安しかない。


「キミか……娘達は?」

「問題ありません。もちろん、無事ですよ。奥様もメイドさん達も、みんな、無事です」

「そうか……」


 良い知らせのはずなのに、しかし、安心することができない。

 不安だけが増していく。


 と、その時。


「あなた」


 妻が姿を見せた。

 二人の娘もいて……

 その後ろに、フレイを始めとしたメイド達も揃っていた。


「どうしたのですか? なにやら顔色が悪いですが……」

「あ、いや……なんでもない。今、戻ったぞ」


 家族は無事だ。

 なにも問題は起きていない。


 ようやくアスラノトは安心することができた。


 安堵の吐息をこぼして、小さな笑みを浮かべて。

 しかし、それはすぐに怪訝そうなものに変わる。


「お前達……?」


 妻と娘達がアスラノトの左右に立ち、そっと体に触れてきた。

 フレイも同じように背後に立ちアスラノトに触れる。


「ふふ……おかえりなさい、あなた。帰りを待ちわびていましたわ」

「これで、ようやく家族が一つになれますね」

「うんうん、すごい素敵なことだね。嬉しくて嬉しくて笑顔になっちゃう」

「いったい、なにを……?」


 アスラノトは、すぐに妻達の様子がおかしいことに気がついた。

 その笑顔に意思は感じられず、どことなく人形のような印象を受ける。


「……もしかし、操られているのか!? アリア殿、これはいったい……!?」

「ふふ」


 焦るアスラノトとは対称的に、アリアはとても落ち着いていた。

 穏やかな笑みを浮かべていた。


「大丈夫。奥さんも娘さんもメイドさんも……他、全部、ちゃんと生きているから」

「な、なにを……」

「生きているだけで、生きているとは言えないかもしれないけどね」


 くすくすと、アリアは年相応の笑みを見せた。

 今まで見せていた大人びた姿は消えている。


 演技だったのだろうか? と、アスラノトはアリアを睨みつける。


 なにが起きているかわからない。

 わからないけれど、アリアが関与していることは間違いないだろう。

 彼女の言動がそれを証明しているし、勘と経験がアリアが怪しいと告げている。


「貴様……妻達にいったいなにをした!?」

「あまり大したことはしていないよ? ちょっと、私のお人形さんになってもらっただけ」

「人形……だと?」

「私の言うことに忠実に従い、なんでも言うことを聞いてくれる。そんな感じかな? あなたが1週間も家を空けてくれたから、簡単だったよ。大丈夫。自我はちゃんと残っているから。ただ、私が頂点に立っているような感じで、私の命令はなんでも聞くようになっているの。死んで? ってお願いしたら、迷わずに死ぬよ」


 その時、ドサリ、と音がした。

 そちらを見てみると、メイドの一人が自分の首を絞めて倒れていた。


「なっ……!?」

「あ、しまった。今の例えだったのに、命令として受け取っちゃったみたい。うーん……まだちょっと制御が甘いな。未熟者、っておばあちゃんに怒られちゃいそう」

「貴様ぁっ!!!」


 人を殺しておきながら、まったく反省の色を見せず、罪悪感の欠片もにじませないアリアの姿に、アスラノトは激高した。

 妻達を振りほどこうとするが……


「ぐっ……な、なぜだ!?」


 振りほどくことができない。

 がっちりと押さえつけられていた。

 まるで万力で固定されているかのようだ。


「どうして、妻達にこのような力が……」

「あまり無理させない方がいいよ? 奥さん達には、今、限界を超えた力を出してもらっているから。その状態が続けば、筋繊維が断裂とか起きるかもね」

「なっ……」


 アスラノトは慌てて抵抗を止めた。

 アリアに対する怒りは消えていないものの、それよりも家族の方が大事だ。


 ただ、アリアを睨みつけることだけは止められない。

 彼女の不興を買うことが不利になることを自覚しているが、それでも怒りは押さえられなかった。


「貴様は何者だ? 目的は……なんなんだ!?」

「私が何者? えっと……これで、わかるかな?」


 アリアがパチンと指を鳴らすと、その髪の色が変わる。

 銀から赤へ。

 血のような紅に。


「潜入の際に髪の色を変えていたんだけど、これでどう? わかるかな?」

「赤髪? そのような者は、いくらでも……いや、待て」


 アスラノトは最悪の可能性に思い至る。


 半年前。

 王都で打ち損じたという堕ちた聖女……魔女リアラは、己の血で髪が赤く染まっていたという。


「まさか……」

「ふふ、気づいてくれたんだ。よかった。でないと、また一から説明しないといけないからね。それはちょっと面倒だよ」

「やはり魔女なのか……くっ、生きていたとは!」

「生きていたよ。死ぬわけがないよ。だって、やらないといけないことがたくさんあるんだもん」


 リアラは幼い少女のように無邪気に笑う。

 ただ、その瞳と視線は氷のように凍てついている。


「おのれっ、国に仇なす魔女め! この俺が正義の裁きをくだしてやるっ!!!」

「くすくす」

「なにがおかしい!?」

「だって、あなた達みんな、みーーーぃんな、正義って口にするんだもの。正義、正義、正義……それしか頭にないの? おかしい。そんなもの、あるわけがないのに」

「なに!?」

「正義なんてくだらない」


 リアラはひどく冷めた顔をして、


「だから、正義を騙るあなたから、全部、奪ってあげるの」


 再び笑う。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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