13話 血肉を捧げろ
狙うは一点。
盗賊を束ねるリーダー格だ。
スキンヘッドの盗賊が宴の中心になっていた。
彼は武勇伝を語り、周囲の盗賊達は歓声をあげる。
彼の合図で他の盗賊達は肉や酒に手をつける。
スキンヘッドの盗賊がリーダー格と見て間違いないだろう。
それを確認したリアラは、黒の剣をしっかりと握りしめて。
強く大地を踏みしめて。
そして……一気に駆けた。
ザンッ!!!
一閃。
スキンヘッドの盗賊の頭が胴体から離れ、ぽーんと、おもちゃのように宙を舞う。
残された胴体は、噴水のように盛大に血を吹き上げる。
ゆっくりと倒れて……
その間に、近くにいた盗賊達は血を浴びて全身を赤に染めていた。
「は?」
それは誰の声だっただろうか?
突然の仲間の死を理解することができず、現状を把握することもできず、誰もが呆けていた。
そんな中、「バカな人達」と嘲りつつ、リアラだけが動く。
片足を軸に回転。
ダンスを踊るかのようにして、黒の剣を振る。薙ぐ。断つ。
リアラを中心とした刃の嵐が吹き荒れて、それに巻き込まれた複数の盗賊は、結局、なにが起きたか理解できないまま絶命した。
「なっ……あ」
「て、敵襲だっ!!!」
残りの盗賊達はようやく我に返り、慌てて武器を抜いた。
しかし、遅い。
なにもかも遅く、すでに手遅れだった。
「苦しめ、泣き叫べ、命乞いをしろ。私が願うのは、お前達の破滅。魂すら残さず、全てを喰らってみせようではないか。煉獄よ顕現しろ……滅ビノ旋律<イクリプスディザスター>」
魔力で作られた紅の刃が五本、リアラの前方、扇範囲に射出された。
それは、まるで悪魔の鉤爪のよう。
大地をざっくりと抉り……
それに巻き込まれた盗賊達は、文字通りバラバラとなった。
血を撒き散らして、肉を撒き散らす。
悪夢のような光景だ。
それに耐えられる者はおらず、場が恐怖と悲鳴に包まれる。
「な、なんだよ、あれ!? こんなことができるなんて……」
「見た目通りの存在じゃねえぞ、化け物に違いない!」
「逃げろ! 逃げないと殺されるぞ!?」
一瞬で盗賊達は戦意喪失した。
慌てて背を向けて……
しかし、その背中にリアラの黒の剣が突き刺さる。
「ダメだよ、逃げないで? ちゃんと、ここで私に殺されて?」
リアラは聖女のごとき微笑みを浮かべつつ。
魔女のように黒の剣を振り、次々に盗賊達を斬り裂いていく。
胸を貫いて、心臓を破裂させて。
胴を裂いて、内蔵をぶちまけて。
そして、縦に両断する。
殺す。
殺す。
殺す。
リアラはダンスを踊るようにしつつ、一人、また一人と命を奪う。
相手が盗賊とはいえ、むごい殺し方だ。
しかし、リアラはなにも感じていない。
罪悪感は欠片もない。
これは、復讐に必要なこと。
だから殺す。
それだけだ。
「ふぅ、こんなところかな?」
殺戮の時間が終わり、リアラは足を止めて、小さな吐息をこぼす。
全身に返り血を浴びて、赤い雫が滴り落ちる。
その姿は、まさに死神だ。
「うっ、あぁ……ひぃ……」
「なんだ、まだ生き残りがいたんだね」
最後の一人を見つけて、リアラは黒の剣を振り上げて……
「ま、待て!? 殺さないでくれ! 宝はくれてやる、他になんでもする! だから……」
「ばいばい」
容赦なく盗賊の首を跳ねた。
「うん、これでよし。じゃあ、もらうものをもらおうかな」
リアラは倉庫に入り、宝石など、持ち運びやすく金になるものを奪う。
グリムからもらった金だけでは、この先、やや心もとない。
なので、それを補うために盗賊を襲撃して、彼らが溜め込んだ宝を奪うことにした。
相手は盗賊。
虐殺しようが皆殺しにしようが、なにも問題はない。
……なんて、リアラの倫理観、価値観はかなり壊れていた。
本人もそれを自覚しているが、今更、直るようなものではない。
まともな感情なんて、半年前、全て消えた。
「こんなところかな?」
宝をあらかた奪ったところで、リアラはもう一つの目的を果たすことにした。
人質が囚われている小屋に近づいて……
「あ……このままだと、さすがにまずいよね」
己の体が血で真っ赤に染まっていることに気がついて、足を止める。
「清らかな星の流れよ。温かな陽の輝きよ。我はその煌めきを欲する。一欠片をこの手に、流星を以て与えん……浄化光<シューティングスター>」
リアラは魔女と呼ばれているが、それで聖女の過去が消えるわけでもない。
普通に治癒系統の魔法を使うことができる。
魔法で己の体を清めた。
血まみれになっていた体は、時間を巻き戻したかのように綺麗になる。
「えっと……髪はどうしようかな?」
血で赤く染まった髪は魔法でも元に戻ることはない。
ただ、魔女は赤髪という情報を持つ者がいるかもしれないため、なにかしら対策をしたいところだ。
少し考えて、リアラは盗賊達が寝泊まりしていたであろう大きな家に入る。
暖炉に向かうと、燃え尽きた薪が残っていた。
手に取り、灰を頭から被る。
「こほっ、こほっ」
少し吸い込んでしまい、咳き込む。
「こんなところかな?」
灰を被ったことで赤髪は輝きを失い、老婆のような白い髪になっていた。
「ふふ」
女の子として情けない姿ではあるが、リアラは、今の自分を好ましく思う。
グリムと同じだからだ。
「って、のんびりしていられないね」
外に出て、
「嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ。みんな嫌いだ、死んでしまえ。私は歌う、死の喜びを。破滅を賛美して、絶望を受け入れよう。終わりの炎をここに……悪夢ノ炎<ナイトメアフレア>」
黒い炎で盗賊達の死体を残らず焼き尽くした。
血は地面に染み込んでしまっているため、全てを削り取ることはできない。
「まあ……これはもう、仕方ないよね」
血の跡の処理は諦めた。
リアラは改めて人質が囚われている小屋に向かい、扉にかけられていた鍵を壊す。
それから昔を思い出して、聖女の笑顔ってこんな風だったかな? と、少し迷いつつ笑顔を浮かべて、人質にそっと声をかける。
「大丈夫ですか?」
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