11話 旅立ちの日
グリムの遺体は家の裏に埋葬した。
いつもリアラとグリムが訓練していたところだ。
色々な思い出があるから、そこなら寂しくないだろうという、リアラの精一杯の配慮だった。
その後、リアラはグリムの遺書を見つけた。
以前から体の不調を感じて、終わりを悟っていたのだろう。
遺書に従い、リアラはグリムの私物を受け継ぐことにした。
服と装備を整えて。
旅に必要な金をもらう。
そして……
「いってくるね、おばあちゃん」
リアラはグリムの墓に挨拶をして、そして、旅に出た。
――――――――――
食料や水など、色々な物を入れた大きなバッグを背負い、リアラはゆっくりと街道を歩いていた。
行き先は平和国の王都……
ではなくて、王都の遥か北にある、多くの鉱山を抱えている都市……通称、『土の都』だ。
銅、銀、金。
一般的な鉱石だけではなくて、ルビーやサファイアなどの宝石の原石。
さらに、希少価値が高いオリハルコンも採掘されるという。
大地の恩恵を受ける街。
故に、『土の都』なのだ。
かつて、革命の時、オーレンは固い絆で結ばれた四人の仲間と共に戦場を駆け抜けた。
その力、知識、偉業を讃えられて『四賢者』と呼ばれている。
革命後、その仲間はそれぞれ故郷に帰り、領主となり街を治めた。
その一つが『土の都』だ。
「まずは、『土の都』の領主を殺す」
グリムから戦う術を教わったものの、しかし、リアラ一人で国を相手にすることは不可能だ。
真正面から突撃しても、いくらかの騎士や冒険者を巻き添えにして終わり。
そのような結末は望まない。
故に、平和国の……オーレンの力を削いでおく必要があった。
それと、『土の都』の領主は復讐のターゲットでもある。
連中のせいで帝国は傾いて、革命軍に敗北した。
結果、たくさんの臣民が殺された。
親族も殺された。
『四賢者』は、オーレンに次ぐ復讐のターゲットなのだ。
「待っていてね。今、殺してあげるから……あはっ♪」
――――――――――
土の都。
領主の屋敷の執務室。
そこに体長2メートルを超える大男がいた。
手足は丸太のように太く、その全ては筋肉で作られている。
あまりにも規格外の体格のせいで、市販の服は全てサイズが合わない。
特注の服を着ることになっていた。
ドルガ・バンガス。
土の都の領主で……
『大地のドルガ』と呼ばれている、四賢者の一人だ。
「魔女が生きている……ですと?」
とても穏やかな声で、ドルガは報告を上げてきた副官に、そう問い返した。
彼は巨漢と二つ名のおかげで誤解されがちではあるが、とても温厚な性格をしている。
平和と動物をなによりも愛する、心優しい男なのだ。
「魔女は、半年前の事件で、王によって致命傷を与えられて、その身を川に投げた……そのまま死んだと聞いていますが?」
「はっ、そのような報告を自分も受けていたのですが……」
何度も何度も捜索が行われた。
結果、身元不明の少女の死体が見つかった。
損傷が激しく、結局、身元を完全に特定することはできなかった。
しかし、リアラと年齢が近い少女であること。
身を投げた川の先で見つかったこともあり、その亡骸はリアラであるという結論に至ったのだ。
「死んだはずの魔女が、なぜ、生きているという話になるのですか?」
「その……占星術師が凶兆の星を見た、と」
「凶兆が魔女……だと?」
「可能性がある、というもので、確たる話ではないのですが……」
「ふむ」
ドルガは髭の生えた顎に指先をやる。
彼が物事を考える時にする癖だ。
「……内容が内容だけに、無視するわけにはいきませんね。警戒度を上げておくように。ただし、民に無用な心配をかけたくありません。魔女のことは伏せておくように」
「はっ」
副官は敬礼をして部屋を出た。
一人になったドルガは難しい表情を作り、窓の外を見る。
その果てにいるかもしれない魔女を思い、その視線は鋭い。
「魔女ですか……罪に穢れた存在よ。もしも存在するのならば、正義の名の元、私が神のところへ送ってさしあげましょう」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じていただけたのなら、
『ブックマーク』や『☆評価』などで応援していただけると嬉しいです!
皆様の応援がとても大きなモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いします!