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10話 最後の教え

 リアラは、血を吐いて倒れたグリムを慌てて家に運んだ。

 ベッドに寝かせて、治癒ポーションを飲ませる。


 やりすぎただろうか?

 もしかして、さきほどの一撃が内蔵に達していた?


 おろおろと慌てていると、ややあってグリムが目を覚ます。


「師匠ぉ……よかったぁ、よかったよぉ……」

「まったく……なんて顔をしているんだい」

「だ、だって、死んじゃったかと思って……」

「まだ死なないさ」

「……まだ?」


 不穏な言葉にリアラは顔をひきつらせた。


「……元々、1年の命だったんだよ」

「ど、どういうこと……?」

「あんたと出会う前、あたしは、ちょっとした病にかかってね。余命1年って宣告されていたのさ」

「そんな……」

「もう少し生きられると思っていたんだけど……どうやら、ここまでみたいだね」

「もしかして、私のせいで……」

「あたしが決めたことだ。あんたは関係ないよ」

「でも!」

「まったく……そんな泣き虫で復讐を成し遂げられるのかい?」


 リアラは泣いていた。

 ぽろぽろと涙をこぼしていた。


 民に裏切られた時も。

 母を殺された時も泣くことはなかった。

 涙なんてとっくに枯れ果てていたと思っていた。


 でも。


 今、リアラは泣いていた。

 グリムのことを想い、死んでほしくないと悲しみ、涙をこぼしていた。


「やだ、やだよぉ……死なないで、逝かないで」

「無茶を言うね、この子は」

「私を一人にしないで……一人は嫌、もうやだよ……」

「……リアラ、よくお聞き」


 グリムは、泣きじゃくるリアラの頬にそっと手を添えた。


 リアラは、グリムが初めて自分の名前を呼んだことに驚いて、涙に濡れた目を大きくする。


「あたしは、どうしようもない人間でね……生きるために人を殺してきた。老若男女関係なく、殺し続けてきた……いわゆる、殺し屋っていうやつさ」

「グリムが……」


 道理で強かったわけだ、と納得した。


 その生涯を殺し合いに捧げてきたのだ。

 死を乗り越えた先に得る力を持っていたのだと、リアラは思う。


「だから、まあ……ここで終わることに納得しているのさ。一人、孤独に死ぬはずだったのに……リアラに看取ってもらえるんだからね。だから、あんたが気にすることじゃない」

「でも……でもっ!」

「それと……最後だから、おせっかいを焼かせてもらうよ」


 グリムは、リアラの目をまっすぐに見た。

 心に問いかけてくるかのような視線に、リアラは一つ、息を飲む。


「リアラは殺したいヤツがいるんだろう?」


 リアラは無言で頷いた。


「復讐を望んでいるんだろう?」


 もう一度、頷いた。


「やめておきな」

「それは……」

「殺すために生きる。それはもう、生きているとは言えないよ。死を望むだけの生き物なんていない。どんな生き物であれ、生きるために生きているんだ」

「……」

「今なら、まだ戻れる。リアラ、あんたは若い。どこか遠い場所で人生をやり直すんだ。それがリアラのためになる」

「人生を……やり直す……」


 そのようなこと、欠片も考えたことがない。

 リアラはそのことに驚いて、思わず思考を停止してしまう。


「復讐に意味はない。成し遂げたとしても、残るものはない。得るものもない。空っぽなんだよ……だから、やめなさい」

「……やだ」


 その言葉は自然と出てきた。


 リアラは、グリムの手をしっかりと握り……

 それでも、彼女の最後の願いを受け入れることはしない。


「全部忘れるなんて……できない。なかったことになんて、できない」


 全てを奪われて、全てに裏切られて。

 2年、思い返すだけで震えてしまう拷問を受けて。

 挙げ句、最愛の母を目の前で無惨に殺された。


 その上で。

 平和国と名乗る阿呆な連中は、自分達がしたことをなにも反省していない。

 英雄オーレンは、自分が正義と信じて疑っていない。


 許せるか?

 いや。

 許せるわけがない。


「あいつらは……絶対に、絶対に殺す……!!!」

「なにも意味がないとしても?」

「意味ならあるよ」

「どんな?」

「私が、私であるために」


 許せない。

 許せない。

 許せない。

 復讐心が燃え上がり、リアラの心を黒に染めていた。


 もう後戻りなんてできない。

 するつもりもない。


 この炎で全てを飲み込み。

 悪が正義を断罪する。

 そうしなければ、リアラは、己の生に価値はないと思っていた。

 復讐を果たすことだけが唯一の存在意義なのだ。

 それほどの憎悪と絶望が心に刻まれているのだ。


「許せないから、殺す……それだけでいいよ」

「……わかったよ」


 ややあって、グリムは小さく苦笑した。


「まったく……しばらく一緒に暮らしてわかっていたことだけど、リアラは頑固な子だね」

「ママと……それと、グリムに似たんだと思う」


 それは、リアラがグリムを家族と認めた、という意味だった。

 それに気づいて、グリムは微笑む。


「なら……突き進みな。なにがあろうと、どんな目に遭おうと、復讐を成し遂げるんだ」

「うん」

「この先、リアラの復讐を否定する者が出てくるだろう。あんたを悪と認定して、糾弾する者が現れるだろう。でも、迷うことはない。引け目を感じることもない。あたしが、リアラを肯定するよ。世界が敵になったとしても、あたしは、あんたの味方でいるよ」

「うん……うんっ」

「だから……がんばりな」

「うん、がんばる」


 リアラは、グリムの手をぎゅっと握る。

 グリムもまた、リアラの手を握る。


「……リアラ……」

「なに?」

「……ありがとう……」

「うん……私こそ、ありがとう」


 ふっと、グリムの手から力が抜けた。


「……さようなら、おばあちゃん」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] このような作品を手掛けるとはまた新たなトライですか。 この主人公の想いはかつてのイリスみたいな雰囲気ですね。
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