光の道
夏休み、部活帰りのある日、校門を出てすぐの坂道でぼんやり立ってる彼を見かけた。
「…なにしてんの?」
「立ってる」
彼が無愛想なのは今に始まったことではないが、この日は無愛想と言うよりも心ここにあらずと言う感じだ。
とは言え、話し掛けているのにそれはないだろう。
私は一つため息を吐き、もう一度だけ話しかける。
「立ってるだけ?」
「待ってるだけ」
立ってるだけ、と聞き取った私は、一瞬、からかわれたのかと思ったが、はたと、彼が言った言葉を理解する。
「待ってる?」
「あぁ」
確かに彼は、坂道の上で校門を向いて立っている。
だが、人を待つなら校門で待てばいいだろう。
意味が分からない。
そう言いかけたとき、彼が唐突に校門の方を指差した。
反射的に彼の指差す方向を振り向き、彼が待っていたのは誰か分かった気がした。
学校の裏手にある山と、山に向かって伸びる道、学校を仕切るフェンス、山を背に立つ校舎。それらの隙間に沈む夕陽の一筋の光がまっすぐこの坂道の先を突き抜けて、坂道の向こうの空へと伸びていく。
それは、まるで光の道だった
時間にして僅か数分。夕陽が校舎の影に姿を隠し始めると光の道は道筋を変えて、拡散し、彼方への消えた。
「綺麗」
ぼんやりと余韻に浸る私を置いて「じゃぁ」と、彼は去ろうとする。
「この景色のために待っていた割にはずいぶん冷めた対応だね」
「見れて満足した。だから帰る」
立ち止まって答えてくれただけマシだろうか。
「どうして知ってたの?」
「それ、ここで答える必要あるのか?」
彼の言い方に少し頭にきたが、そのとき、彼の友人のカジ君が言ってたことを思い出した。
「あいつはいつも言葉が足りないんだ」
「じゃぁ、帰りながら」
「そんなに知りたいことなのか?」
今度は否定されなかった。
まぁ、つまり、そういうことか。
部活帰りの生徒たちが大勢いる中で、道幅の狭い歩道に立ち止まってまで話をするほどのことなのか、と。
……面倒な奴。
「見つけ方が分かれば、他にも見つけられるかもしれないじゃん」
そう言いながら歩き出すと、彼も合わせて歩き出した。
これは了承と取っていいのだろう。
「なるほど。一理ある」
「じゃあ、教えて」
「教えてください、だろ」
「……」
感情の分かりづらさがマイナス要因ではあるけれどそれさえ分かればプラスだよな、と。
ヒグラシの声が騒がしい坂道を下りながら彼と共に帰宅する。
初めて帰り道を共にした、そんな夏の日の夕暮れ。