其の弐拾玖 永劫の生を共に
魂が戻った灯は、ゆっくりと、けれど確実に、目を開けた。
「こ……ここは?」
あたりを見渡すために灯が起きようとして、少しふらついた。
裏玖は、すぐに灯を支え、起き上がらせた。
「大丈夫?」
裏玖が心配そうに声をかけると、灯は徐々に意識をはっきりとさせ、
「そうだ……私、短剣で胸を貫かれて……」
そう言いながら、傷口を確かめた。
しかし、そこには傷などなく、灯はさらに混乱した。
「傷はボクが治した」
裏玖がそう言うと、灯は少し驚きながらも、裏玖なら出来るのだろうと納得し、
「ありがとうございます」
そう、お礼の言葉を口にした。
「でも、あの傷でも生きてたんだ」
「ああ、いや、死んでたよ?ボクが蘇生したんだ」
「そんなことも出来るんですね。やっぱり、貴方はすごいです」
「ボクのせいだ」
「え?」
「ボクが、油断さえしなければ……」
「でも、私は生きていますよ?貴方のおかげで。貴方がいなければ、数年前に私は死んでいます」
「でも……」
「『でも』ではありません。私は貴方に感謝こそすれ、恨むことなどありえません」
「そう?」
「ええ」
2人は笑顔で笑い合い、そして抱き合った。
生きていることを噛み締めながら。
そんな時、裏玖はあることに気づき、気まずそうに口を開いた。
「あの……さ、灯」
「なんですか?」
「今、蘇生したって言ったじゃん?」
「ええ」
「その時に、灯の魂力が減少してたから補充したんだけどさ」
「……?」
「その補充した魂力がどうやら多すぎたみたいで……」
「……?」
「それで、灯の魂の位階が大分上がってたみたいで、その魂を入れた肉体もそれに合わせて強化されてる」
「えっと……つまり、どういうことですか?」
「灯は、ボクと同じく、寿命という概念のない不老の存在になっちゃった……」
不老……聞こえは良いが、それはある種の呪いでもある。
特に、人間にとってそれは顕著だ。
周りの人間は老いていくのに、自分だけはずっと姿が変わらない。
それは、あまりにも悲しいことだ。
そう思い、裏玖は、灯に申し訳なく思った。
しかし、灯の反応は違った。
「嬉しいです」
「え?」
「それでは、これからも私は、永遠に貴方と共に在れるのですね?」
「え?」
「私は、貴方のことが好きなのです。しかし、私は人間で、いつかは老いて死んでしまう。もし、気持ちを伝えてしまったら、その別れは貴方に傷を負わせてしまうかもしれない……そう思い、この気持ちは隠しておこうと思ったのです。しかし、寿命という枷がないのなら、後は私自身も強くなり、殺されないようにすれば、貴方と死に別れることはない。だからこそ、嬉しいのです」
灯の気持ち。
それは、裏玖にとって、とても嬉しいことだった。
「ボクも、君が好きだ。君と共に生きていきたい」
「では、両思いですね」
「うん!!!」
笑顔で答えた裏玖の瞳には、完全に光が戻っていた。
こうして、2人は隣り合って、支え合って生きていく。
共依存とも言えるかもしれない。
しかし、そこには確かに愛がある。
2人を分つことは、もう何者にも不可能だ。
裏玖には、もうすでに油断はなく、これから、灯も宣言通り強くなる。
故に、2人の幸福は、久遠に続く。
老夫婦の願い通りに。
外伝完結!!!ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!!!これにて、外伝は完結となります。とりあえず、今後の予定なのですが、今のところ、他の外伝や後日談を書く予定はありません。『いずれ伝説に名を連ねるオレッ娘狐の冒険譚』は、ここで本当に完結です。完結まで書けたのは、読んでくださる方々がいたからに他なりません。読んでくれる方々がいなかったら、途中で折れてエタっていたかもしれません。改めて、この小説を読んでくださり本当にありがとうございました。