其の弐拾陸 愚か者たちに絶望を 前編
その村は、最初は特になんの変哲もないありふれた村だった。
裕福ではないものの、平和で、村人たちは不幸を感じることなく生きていた。
そんなある日、その村に蛇の妖が訪れた。
蛇の妖は、村人たちに生贄を要求した。
その妖は、自身が神に戻るために生贄が必要なのだと、妖力を村人に浴びせながら言った。
村人たちは、妖を倒す術を持っておらず、従うしかなかった。
しかし、村人たちは、同じ村で育った家族ともいうべき人間を生贄にしたくなかった。
そこで、村人たちは、ちょうどその村に訪れていた旅人を生贄にした。
そこから明確に、村は変わった。
村人たちは、何度も何度も蛇の妖に旅人の魂を献上した。
旅人がなかなか来ない時は、蛇の妖が創った妖に襲われている振りをして助けてもらってからお礼をすると言って村へと誘ったり、あるいは、蛇の妖が創った妖に旅人を襲わせ、それを助けて体を休めるためにと言って村へと誘ったりもした。
そうして、その村は、何十年もただの1人も村人を生贄にすることなくその姿を保ってきた。
蛇の妖は、村人たちにとっても悩みの種だった。
そんな存在が、今、村人たちの目の前で殺された。
村人たちは歓喜した。
これでもう生贄にするための旅人を連れてこなくても良いのだと。
しかし、そんな美味い話があるわけがない。
村人たちは、なんの罪もない旅人を何人も何人も生贄にしてきた。
灯もそのうちの1人だ。
そう、村人たちは、怒らせてはならぬ存在を怒らせてしまっている。
故に、裁きは下される。
「次は、お前らの番だな」