其の拾捌 行商人
裏玖の目の前にいた妖が突如消滅し、裏玖は訳がわからず混乱した。
しかし、当初の目的通り、行商人から謝礼をもらおうと、行商人の方に向き直った。
行商人は、混乱こそしていたものの、裏玖が自分を助けてくれたのだと理解し、口を開いた。
「助けていただき、ありがとうございます」
「別に、良いよ。こっちも目的があっただけだし」
「目的でございますか?」
「うん。実はボクらは旅をしている途中だったんだけど、お金がなくてね」
裏玖がそう言うと、行商人は、納得したという顔をして、
「なるほど、であれば、お礼にこちらを」
そう言い、袋を裏玖に手渡した。
中には、お金が入っていた。
しかし、裏玖はお金の価値を知らなかったため、すぐにその袋を灯に渡した。
袋の中を見た灯は、目を見開き、
「大金じゃないですか!?良いんですかこんなに!?」
驚きをあらわにした声でそう言った。
「ええ、命を助けていただいたのです。当然それぐらいは。まあ、これ以上は流石に私が生活できなくなるので無理ですが……」
「いえ、十分ですよ」
「それは良かったです。それに、私としては目的があって助けて下さったと言って下さり、助かりました」
「何故?」
「私は経験上、無料より怖いものはないと思っておるのですよ」
「なるほど」
会話を終えると、行商人は、散らばっていた荷物を集め、
「私はこれから近くの町に行くのですが、あなた方はどうします?」
裏玖たちにそう尋ねた。
裏玖は、しばらく考え込み、口を開いた。
「ボクらは、特に目的地とかはないからね。まあ、気の向くままに旅をするよ。町とかにも、まだ寄らなくていいかな」
それを聞いた行商人は、穏やかな笑みを浮かべながら、
「それでは、ここでお別れですね。もしまたご縁がありましたら、ご贔屓に」
そう言い、去っていった。
「さて、お金も手に入れたことだし、旅を再開しようか?」
「ええ、そうしましょう」