其の拾漆 踏み込むな
行商人を助けることを決めた裏玖は、変化の術で狐の耳と尾を隠し、人間と見分けがつかない姿なってから、妖力で剣を作り、行商人を襲っていた妖の内の1体に斬りかかった。
妖はそれに反応できず、斬り伏せられた。
しかし、次の瞬間、妖から瘴気が溢れ出し、周りにいた他の妖を全て呑み込み、新たな妖へと変貌した。
裏玖は、より強い妖を倒した方が謝礼を多く要求できると思い、その変化を黙って見ていた。
その結果、変貌した妖は、裏玖が自分の放つ圧を恐れ、動けないのだと勘違いした。
そして、変化が終わった妖は、裏玖を前に口を開き、
「よくも、我を一度殺したな?だが、こうして我は復活した。さあ、恐れよ!!!」
そう言い、放つ圧を強くした。
しかし、はなからこの妖程度が放つ圧など裏玖にとってはなんともない。
それ故に、裏玖は、その言葉に反応せず、刀を構え直した。
それに少しばかり驚いた妖は、
「何故恐れぬ?貴様は我が放つ圧に何も出来なかったではないか?」
そう言い、不思議がった。
裏玖は、その言葉も聞き流し、まずは妖の四肢を斬り裂き、妖を地面に倒した。
妖は、その事態が理解できず固まった。
しかし、すぐに自身が危険な状況であることに気が付き、助かる道を探し、一つの方法を思いついた。
それは、その妖にとって最悪の選択だった。
「貴様が最も親しい者の姿になれば、貴様は我に攻撃できない!!!」
そう言い、妖は裏玖の記憶を読もうと裏玖の精神世界に侵入した。
そして、妖は見た。
赤い空に浮かぶ6個の月、そしてその空の下に大量の積み重なった骸とその頂上に座する6本の尾を持つ1柱の妖狐を。
そして、妖は妖狐と目があった。
『吾の世界に土足で踏み込むな。不愉快だ』
その言葉と同時に、妖は魂そのものが壊れ、死んだ。