其の拾伍 1年後
裏玖と灯が共に暮らし始めて、1年の時が経った。
同じ孤独を知る者であるが故に、2人は打ち解け、気がつけば、裏玖も灯に自分の事情を話していた。
さらに、裏玖の瞳には、少しだけ、光が宿っていた。
最初こそ、裏玖は灯に必要以上に関わろうとしなかった。
しかし、灯は常に明るく振る舞って、暗い表情の裏玖をどうにか明るくしようとした。
裏玖は、孤独である時間が長かったが故に、気づかないうちに他者の温もりを求めていた。
だからこそ、いつも明るく接してくれる灯を裏玖が受け入れるのは、必然だった。
そうして、1年が経ったある日、食事を終え、食器を片付けた灯が真剣な表情で裏玖に向き合って座った。
「急にどうした?」
いつもと違う灯の雰囲気に、驚きながら裏玖が聞くと、灯は真面目な口調で言葉を紡いだ。
「大変なことに気がつきました」
「……何?」
「塩がそろそろなくなります」
「なん……だと?」
それは、一見どうでもよく、くだらないこと。
しかし、美味しい料理を作るためには、調味料は必要である。
つまり、塩がなくなるとは、それだけで料理の味が落ちることを意味していた。
「大変じゃないか!!!」
「ええ、大変なのです」
「……どうしよう?」
「そこで、提案なのですが、塩を買いに一度人里に下りませんか?」
「……うーん……そうだな……」
裏玖にとって、人里は今までであれば絶対に行きたくない場所だった。
しかし、灯と打ち解け、また人間の優しさに触れた今であれば……
「そうだね。良い機会だし、行こうか?……どうせなら、少し旅でもしようか?」
「旅……ですか?」
「うん。ボクは、一度もう誰とも関わりたくないと思った。でも、それじゃあ、じいちゃんもばあちゃんもあの世で笑顔でいてくれないかなって思ってさ」
こうして、裏玖と灯の旅は始まった。
この選択は、果たして……