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其の拾参 事情

 突き放すような裏玖(リク)の言葉に、少女は呆然とし、しばしの間静寂がその空間を支配した。


 しばらくすると、少女は、土下座をし、弱々しく、されど強い意思を感じられる言葉で言葉を紡いだ。


「私を、あなたの元で暮らさせてください!!!」


「は?」


 裏玖は、意味がわからず固まった。


 少女は、ポツポツと己の事情を話し出した。


「私には、帰る場所がありません」


「……ん?」


「私は、元々孤児でした。誰も信用せず、ずっと1人で生きてきました。そんな時、私はとある行商人の夫婦の養子となりました」


「……………」


「最初は、その夫婦のことも、私は信用できませんでした。なぜ私を養子にしたのか分からなかったためです。養子にした理由を聞くと、『生にしがみつこうとする君の目が昔の自分を想起させたから』だと養父は言いました。それでも、私は信用できず、ずっと夫婦を警戒していました」


「……………」


「そんな愛想のない私を、老夫婦は我が子のように愛してくれました」


「……………」


「そんな日々は、温かく、幸せで、いつしか私も夫婦を本当の親のように思っていました」


「……………」


「そんな時、あの怪物が現れたのです。夫婦は私を庇い、亡くなり、私だけが逃げられたのです」


「……だから?」


「私は、あの2人に対して恩返しが出来なかった。私にできるのは、せいぜい、夫婦が庇ってくれたこの命を、尽きさせないことだけ。しかし、このままでは、私は人里に辿り着く前に、死んでしまう」


「……………」


「それに……嫌なのです……怖いのです……また、孤独になることが。私は、誰かと共に生きる温かく、幸せな生活を知ってしまった。だから……もう……孤独には……なりたく……ないのです」


「……………」


「だから、私をどうか、あなたの元で暮らさせてください」


 少女が語ったのは、あくまで自分本位なものだった。


 裏玖には、少女を受け入れる義理などなかった。


 しかし、裏玖は、その気持ちを理解できた。


 今なお、孤独であるが故に、その辛さは、痛いほどよく知っていた。


 故に、裏玖は、


「家事……できる?」


 受け入れてしまった。



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