其の拾弍 出会い
その日は、いつも通り特に何もなく過ぎると思っていた。
しかし、突如裏玖は、膨大な瘴気を感知した。
それも、山の中。
つまり、その瘴気を放つ存在は、裏玖の縄張りに足を踏み入れていたのだ。
裏玖は、すぐさま瘴気を放つ存在の元へと走った。
そこにいたのは、悍ましい瘴気を放つ不定形の怪物だった。
この時の裏玖は、知る由もないが、この怪物は、妖気の濃い場所で生まれた妖だった。
しかし、魂を不完全な状態で得てしまい、存在が世界に完全には定着せず、ただ破壊衝動のままに生きる存在になっていた。
裏玖は、すぐさま怪物を殺した。
怪物を殺すと、瘴気が溢れ出した。
裏玖は、その瘴気を妖力で霧散させた。
それにより、山には再び清らかな空気が流れ始めた。
しかし、この時裏玖は、瘴気を放つ存在を殺すことしか頭になく、もう1人、そこにいた存在に気づかなかった。
気付いたのは、瘴気を霧散させた後だった。
「……え?」
ひどく間抜けな声がその場に響いた。
裏玖が声が聞こえた方を向くと、そこにはボロボロの少女が驚いた表情をしてそこにいた。
◇
死ぬかと思った。
体力も尽き、まともに立つことすら出来なくなって、すぐそこには怪物が迫ってきていて。
もう、助かる道はないと思っていた。
しかし、その絶望は、突如現れた救世主によって、いとも簡単に消し飛んだ。
「……え?」
少女の口から最初に出た言葉は、そんな間抜けな声だった。
目の前の状況が理解できず、ただ固まった。
しかし、目の前の3本の尾を持つ少年が自分を助けてくれたことを理解し、少女は慌てて口を開いた。
「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!!!」
少女がそう言うと、少年は、めんどくさそうな表情をしながら、
「別に君を助けたわけじゃない。こいつがボクの縄張りを汚染したから消しただけ。それより、早く帰ってくれない?」
突き放すように、そう言った。