其の拾 虚
「あぁ……何故だ……何故こんなことに……」
滅びた都を見て、男が絶望した表情で『何故』と繰り返す。
「お前のせいだよ」
裏玖は、淡々とそう告げる。
「さて、これでもう生き残っているのはお前だけだな」
裏玖はそう言い、ひたすらに冷たく見るだけで背筋が凍ってしまいそうな目で男を見下ろした。
男は悟った。
自分が死ぬ番が来たのだと。
「いつか……必ず、人間が貴様を殺す」
そんなこと、起こりえるはずがないことなど分かっていた。
目の前の存在が、すでに人間はおろか、上位の妖でさえ太刀打ち出来ない存在であると理解しているのに。
それでも、男はそう、言葉を紡いだ。
その言葉が呪いとなり、いつか本当に、妖狐が人間に殺される未来を夢見て。
「あっそ」
裏玖は、特に何も感じることもなく、男にトドメを刺し、その魂を『畜生道』へと送った。
「さて、とりあえず、この呪具は全て壊しておこうかな。大鬼、やれ」
裏玖は、そう言い、男が持っていた呪具と、他の陰陽師が持っていた呪具を大鬼に壊させた。
全ての呪具を壊し終わると、大鬼と餓鬼を元の道へと返し、裏玖は、老夫婦の亡骸を抱え、村へと歩き出した。
「こんなところに、じいちゃんとばあちゃんを長く置いておくわけにはいかない」
……………………
……………
……
村に着くと、裏玖は、老夫婦と村人を埋葬し、その魂の冥福と来世の幸福を祈った。
祈り終わると、
「もう……誰にも、関わりたくない」
裏玖は、光のない、ひどく悲しい虚な目でそう呟いた。