其の伍 絶望の門は開かれた
裏玖は、旅人を血祭りにあげた後、老夫婦の霊力を探知し、走り出した。
都へは、通常歩いて3ヶ月ほどかかる。しかし、裏玖はその距離を1週間で走りきった。
そして、見た。
傷だらけになり、手足を縛られ、人間たちから罵詈雑言と石を投げつけられる老夫婦の姿を。
「人でなし!!!」
「妖を庇うとはなんたることか!!!」
「死ね!!!」
裏玖は、老夫婦に駆け寄り、すぐに拘束を解くと、人間たちを妖力で威圧した。
「裏玖……来てくれたんじゃな……」
「うん。すぐに助けられなくて……ごめん」
「気にしてないさ。……よく来てくれたと言いたいところじゃが、本当は来てほしくなかった」
「なん……で?」
「気づいているだろう?儂らは囮じゃここには強大な陰陽師たちがおる。だから、来てほしくなかった」
「それでも、助けに来ない訳には行かないでしょ……?だって、じいちゃんとばあちゃんはボクの家族なんだから」
「嬉しいことを言ってくれるのう」
「本当にのう」
「じゃが、お前は今すぐここから逃げろ」
「儂らは置いていけ」
「え?」
「気づいておるじゃろう?儂らはもう長くない。そろそろ死ぬ」
「何……言って……」
「この傷、よほど深いらしくてのう、出血がひどい。そろそろ儂らは死ぬ」
「嫌だ!!!嫌だよ!!!まだボク2人に恩を返しきれてない!!!」
「十分返して貰ったさ。さあ、行け!」
「復讐なんて考えずとも良い」
「「幸せに……生きてくれる……ことだけが……儂らの長いじゃ」」
そう言って、2人は死んだ。
「感動の物語をありがとう!!!では死ね妖狐よ!!!!!」
裏玖の心をより濃く昏い憎悪が支配した。
その憎悪に呼応するように大量の妖力が裏玖から溢れ出し、そして……
「3尾……だと?」
3尾となった裏玖は、自分の能力を完全に把握し、そして、
「ごめん。じいちゃん、ばあちゃん。復讐しないと、ボクは前に進めない」
そう言い、さらに言葉を紡いだ。
「『現世顕現』『餓鬼道』『開門』」
目覚めし『三悪道』が牙を剥く。