其の肆 憎悪に染まって
旅人が村を去って1ヶ月ほどが経ったある日、裏玖は1週間に1度の狩りに行っていた。
その日は運良く大きな猪を狩ることが出来、これでまたみんなの笑顔が見れると裏玖は喜び、急いで猪を持って村に帰った。
村に近づくにつれ、裏玖は嫌な予感を感じ始めた。
そして、村から上がった煙を見て、それは確信に変わり、裏玖は、猪をその場に放り捨て、村に走った。
そして、そこで裏玖は見た。
積み上げられた村人たちの亡骸と燃え盛る村……そして、村人たちの亡骸を見ながら笑みを浮かべる旅人を。
「何を……してる……?」
裏玖は、心に沸々と憎悪を滾らせながら旅人に聞いた。
旅人は、裏玖を見ると気持ちの悪い笑みを浮かべ、
「おやおや、逃げたのかと思いましたよ」
丁寧な口調で、精神を逆撫でするような気持ちの悪い声でそう言った。
「何をしてると……聞いてるんだ……っ!!!」
「簡単ですよ。ゴミ掃除です」
「ゴ……ミ?」
「そうです。妖狐などという化け物を擁護するゴミを掃除しているのです」
「ボク……?」
「そうです!!!この村人どもはこともあろうに貴方を庇った。故に、ゴミと断じる結果となったのです!!!貴方を庇いさえしなければ、投獄だけで済んだものを」
「ふざけるな……」
「そう言えば、常軌を逸したほど貴方を庇った老夫婦もいましたね。あまりにもそれが癪に触ったので、あの2人は都で処刑する運びとなりました」
「は?」
「いえ、実はね、私は旅人を装いながら人間に混じって暮らす妖を探す仕事をしておりまして、まあ、まさか妖ということを隠しもせずに暮らしている妖狐がいるなど思いもしませんでしたが」
「……………」
「流石に妖狐が相手となると1人では厳しいと思い、都の陰陽師たちを連れてきたのですよ」
「……………」
「まぁ、老夫婦を連れて1番強い1人は転移で帰ってしまいましたが、残りの5人はまだいるのですよ」
「……………」
「おや、気づいておられない?」
「……………」
「もう貴方……囲まれているのですよ?」
その言葉と共に、裏玖を5人の陰陽師が取り囲み、裏玖を結界で閉じ込めた。
「どうです?その結界、すごいでしょう?1尾程度の妖狐では破ることは出来ません!!!フフフフフ」
そう言いながら、旅人は笑う。
陰陽師たちも勝利を確信し、笑みを浮かべ、そして次の瞬間、結界が割れ、陰陽師たちは、首なしとなって生き絶えた。
「……え?」
旅人の間抜けな声が響いた。
「もう……死んでいいよ」
人間は、こうして自らの手で破滅の未来を引き寄せた。