其の参 旅人
裏玖の住む村は、ほとんど外の人間と関わることがない。
というのも、村から1番近い人が住んでいる場所でも、歩いて1ヶ月ほどかかるのだ。
そのため、村に訪れる人は極端に少なく、1年に1人来れば多い方である。
そんな村に、1人の旅人が訪れた。
旅人は、特に目的地を決めることもなく気の向くままに旅をし、そして村に着いたらしい。
村人たちは、旅人が村に滞在することを許し、小屋を貸した。
その日は、ちょうど裏玖は狩りに行っており、幸運にも裏玖と旅人が会うことはなかった。
しかし翌日、不運にも裏玖と旅人が会ってしまった。
旅人は、理玖を見るなり、顔を歪め、嫌悪感を顕にし、
「用事を思い出した」
と言って、どこかへと去って行った。
この時、村人たちは、旅人の変わりように驚いたものの、特に警戒はしなかった。
警戒しなかったのは、ひとえに、村が今まで平和であり、人間からの悪意に触れたことがなかったから。
それが、悲劇を呼んだ。
この時、警戒していれば……
この時、旅人を行かせることがなければ……
あんな悲劇は起こらなかったのに。
しかし、現実は非情であり、『もし』と何度思考しても過去は変わらない。
起こってしまったことは変えようがない。
1つ確かなことは、裏玖の心に悲哀と憎悪が灯り、そして……