其の弐 裏玖
玖音の子、『裏玖』は、自身の母に会うことなく10歳になった。
裏玖は、とにかく活発な子で、村の子供達とよく遊んでいた。
そして、10歳になった裏玖には、頭に狐の耳が生え、そして尾も1本生えていた。
その姿になったのは裏玖が5歳の時だった。
何の前触れもなく、突然耳と尾が生えてきたのだ。
当然訳がわからず裏玖は混乱した。
その後、落ち着いてから老夫婦に自分がどういう存在なのかを聞いた。
それを知った時、裏玖は、捨てられるのではないかと思った。
妖は、その村でも悪として伝わっていた。
だからこそ、捨てられると思った。
しかし、老夫婦もそして村人たちも裏玖を受け入れた。
裏玖は、安堵し、そして嬉しく思った。
化け物である自分と今まで通り接してくれるみんなを見て、心が温かくなった。
それから、裏玖は、狩りにも参加するようになった。
裏玖は、妖になると同時に力が強くなっていた。
それこそ、村の力自慢の男に腕相撲で勝てるぐらいに。
元々豊かな村ではなかったが、裏玖が狩りで大物をとってくることで、みんながいつも以上に元気になっていった。
裏玖は、自分を受け入れてくれた村のみんなにこれでお礼ができると喜んだ。
村人たちは、喜んだが、それでもまだ子供なんだから少しは遊べと、毎日狩りに行こうとする裏玖を止めることもしばしばあった。
結果、裏玖は、1週間に1回狩りに行くことになった。
裏玖は、毎日が楽しく、この日々が永遠に続くのだと思っていた。
思ってしまった。
もし警戒していれば……。
もし、もっと慎重に行動していれば……。
もし、裏玖の姿を村人以外に見られることがなければ……。
あんなことには、ならなかったかもしれないのに……。