玖音
〈三人称視点〉
彼女は、突如として創造神のいる空間にやってきた。
彼女は、創造神を視認すると言った。
「妾の上に立つ者がおるなど冗談ではない!!!妾の方が上じゃ!!!!!」
彼女は、そう言い終わると同時に創造神に向かって攻撃を始めた。
創造神は、誕生して初めて困惑という感情を覚えた。
そして、それと同時に、楽しいと思った。
創造神にとって戦いとは、自分が相手を殺すだけの作業のようなものだった。
しかし、彼女との戦いは自分でも油断すれば死んでしまうとわかる緊張感があった。
彼女が理から外れた存在であることに創造神は気づいた。
だからこそ、創造神は楽しんだ。
そして、その戦いは1週間も続いた。
結果は、引き分けだった。
地面に横たわりながら、創造神と彼女は、笑い合った。
創造神が名を聞くと、彼女……狐の耳と9本の尾を持つ女性は、
「玖音」
と、名乗った。
創造神も名乗り、それから創造神と玖音は、対等な友となった。
創造神は歓喜した。
自身と対等な存在がいるだけで、創造神は嬉しかった。
対等な戦いが楽しいということも知ることができた。
玖音には感謝しかなかった。
玖音が自身のいる空間に来ると、満面の笑みを浮かべて戦った。
それが、数十年続いた。
だからこそ、創造神は錯覚した。
この生活が永遠に続くのだと。
しかし、現実は無常で、別れは突如として襲ってきた。
玖音は、大体1ヶ月に一度創造神のいる空間を訪ねた。
しかし、玖音が最後に来てから1年ほど経っても、玖音が創造神の元を訪れることがなかった。
創造神は、永遠を生きる存在であったがために、それまで時間を気にすることがなかった。
1年経ってやっと、異変に気づき、玖音のいる世界を見た。
そこで、ボロボロになり、尾も8本へと減らしながらも、『空亡』にトドメの一撃を放つ玖音を見た。
今にも死にそうな玖音を見て、創造神は後悔した。
なぜもっと早く玖音の元を訪ねなかったのかと。
玖音は、魂に傷を負っており、もうその命は長くなかった。
理から外れた存在の魂でさえなければ、創造神は修復することができた。
しかし、理から外れた存在である玖音の魂は、修復することはできなかった。
涙を堪えながら、創造神は玖音に言った。
「最後に、何かしたいこと……欲しいものは……あるか?」
自分にできるのは、せいぜい玖音が最後に笑えるようにすることだけ。
そう思い、創造神は聞いた。
玖音は、迷いなく答えた。
「■■■■■と戦いたい!!!」
創造神の名を呼び、そう言った。
しかし、それはさらに寿命を縮める行為だった。
しかし、それが玖音の願いならと、創造神は承諾し、自身の空間に連れて行った。
本気で、戦えるように。
そして、戦った。
……10時間後、そこには、仰向けに倒れている玖音と、今にも泣きそうな創造神がいた。
創造神は聞いた。
「お主は、後悔しておらぬか?」
玖音は答えた。
「もちろん!!!後悔などしておらぬ!!!!!」
満面の笑みでそう言い、その言葉を最後に、玖音は死んだ。
その空間には、しばらく創造神の泣き声が響いていた。