『魔女』VS『崩界』 その5
〈三人称視点〉
彼女は、とある村のごく一般的な家庭に産まれた。
彼女が最初に見た魔法は、『種火』を出す魔法だった。
彼女は、その魔法を見て、『なんて美しいんだろう』と思った。
彼女は、精神の発達が恐ろしく早く、産まれて数週間で言葉も全て理解した。
それから彼女は、魔法にのめり込んだ。
食事と睡眠の時間以外を魔法の練習にあてた。
彼女には、魔法の才能があり、2歳になる頃には、同時最強と呼ばれた魔法使いを超えた。
そして、5歳になると、天災すらも引き起こせるようになった。
そして、10歳になると冒険者になり、さらなる魔法を求めて旅をした。
そして、18歳の時、触媒魔法という魔法の存在を知った。
そして、『災竜』と呼ばれる竜の存在を知った。
彼女は、最上位の種族である竜の中でも最強と呼ばれる『災竜』であれば、自分が求める最強の魔法の触媒となるのではないかと思った。
そして、『災竜』に挑み、大敗した。
しかし、彼女は生き残った。
彼女が最後に放った全魔力を乗せた魔法が、『災竜』に傷をつけた。
それが、『災竜』の興味を引いた。
それからというもの、『災竜』は、何度も彼女を訪ねてきた。
そして、いつしか彼女と『災竜』は、友人になった。
友人になってからも、彼女は、『災竜』を倒せる魔法の開発をし続けた。
『災竜』を、友人を最強という孤独から救うために。
そして、完成した。
『災竜』を殺せる魔法が。
しかし、それは彼女の求めた魔法ではなかった。
その魔法では、『災竜』を確実に殺してしまうから。
彼女は、『災竜』を殺したいわけではなかった。
だからこそ、その魔法は使わないことに決めた。
そして、また魔法の開発を再開した。
しかし、どんな強力な魔法を使っても、『災竜』を殺せるものにはならなかった。
そんな時、『災竜』を超える者が現れた。
彼女は、表情にこそ表さなかったものの、とても嬉しかった。
それが自分でないことが少し悔しいが、それでも、友人が孤独から救われたことが何よりも嬉しかった。
だからこそ、許せなかった。
破壊神とその使徒が。
ある日、とてつもなく焦った様子で『災竜』が彼女の家を訪ねてきた。
瀕死の『災竜』を超えた者を抱えて。
その時の『災竜』の表情は弱々しく、今にも泣き出してしまいそうだった。
『災竜』にそんな表情をさせた破壊神とその使徒に激怒した。
だからこそ、彼女は誓った。
その使徒が自身の前に現れたら、魔法の実験体にして殺すと。
彼女の名はリーリ。
『魔女』の二つ名を持つ『災害指定』。
魔法を愛し、魔法に愛された者。
……………………
……………
……
リーリの体に亀裂が入り、そして、その亀裂が範囲を広げていく。
しかし、リーリは笑みを浮かべた。
「何を笑っている?」
「フフフ、ここであれば、あの魔法が使えると思うと嬉しくてね」
「あの魔法?」
「そう!私の使うことのできる魔法の中で最強の魔法!」
「この世界では、魔法なぞすぐに崩壊して使えぬぞ?」
「普通の魔法ならそうかもしれないわね。でもあの魔法は違う。あの魔法は世界そのものを滅ぼす魔法だから!」
「神術でもないのに、世界を滅ぼすことなどできるはずがない!」
「できるのよ!なんなら、その魔法を実験した時にできた跡をあなたは知ってるはずよ」
「何?」
「君たちが今まで拠点として使っていた、今は、破壊神と『幻界』が居る大穴があるでしょう?そこがその跡よ」
「何……だと?」
カロスは、その大穴を思い出し、震えた。
その大穴は、いつのまにかできていた。
しかし、魔力の残滓もなかったため、自然とできたのだと思っていた。
「さあ、この魔法を見れたことを光栄に思いながら死になさい」
リーリは、そう言うと、人差し指を立て、その人差し指の先に大量の魔力を集め出した。
それは、生物が制御できる魔力の量ではなかった。
「魔力を暴走でもさせるつもりか!?!?!?」
「いいえ。違うわよ。『模倣・掌握』」
しかし、リーリの持つユニークスキルが制御を可能とする。
リーリのユニークスキルは、他者のスキルを模倣する。
通常のスキルであれば、完全な状態で使える。
ユニークスキルであれば、性能は多少下がる。
しかし、それでも自身の魔力を制御するには十分な性能だ。
魔力が凝縮され、ありえないほどの圧を放つ。
そして、それは完成した。
「『種火』」
リーリのその言葉と共に、リーリの人差し指の先に小さな炎が現れた。
次の瞬間、全てが消えた。
灰すら残さず燃え尽きた。
カロスも、カロスの創った『崩界』も。
全てが例外なく燃え尽きた。
「今のルリはこの魔法でも殺せないでしょうけど……」
こうして、『魔女』と『崩界』の戦いは、『魔女』の勝利で幕を下ろした。
ユニークスキル紹介
『模倣』
他者のスキルを模倣するスキル。通常のスキルであれば本来の性能で使うことができ、ユニークスキルであれば、性能が下がった状態で使える。