『吸血姫』VS『凍界』 その4
〈三人称視点〉
彼女は、吸血鬼の始祖として、生まれた。
彼女は、永い時間を孤独に過ごした。
寂しくなり、その寂しさを紛らわすために『三大真祖』という、眷属を作った。
それでも、彼女の心は、寂しさで溢れていた。
誰も、対等に接してくれないから。
そんな時、彼女は、1人の魔族の男と出会った。
魔族の男は、『魔王』と呼ばれていた。
彼女は、自身と対等に接してくれる『魔王』に惹かれていった。
しかし、『魔王』にはすでに、妻がいた。
彼女は、この一夫多妻が当たり前の世界では珍しく、自分だけを愛して欲しかった。
だから、彼女は身を引いた。
それでも、彼女は、『魔王』の友であり続けた。
『魔王』に娘が生まれた時は、自分のことのように喜んだ。
彼女は、『魔王』に愛されることはなかったが、それでも幸せだった。
そんな幸せな日々がずっと続くと思っていた。
そんな時だった。
『魔王』が勇者に殺されたのは。
彼女は、悲しんだ。
泣き続けた。
しかし、『魔王』の娘が生きていることを知ると、すぐに会いに行った。
そこで、彼女は目を腫らしながらも前を向き、魔族の国の再建を目指す『魔王』の娘の姿を見た。
彼女は、誓った。
この子を守ろうと。
自分の愛した男の形見である彼女を自分の命を賭してでも必ず守ろうと。
彼女の名は、アレリルリ。
『吸血姫』の二つ名を持つ『災害指定』。
次代の『魔王』を守ると誓った女。
……………………
……………
……
『凍界』は、絶対零度の世界。
そこに入った瞬間に、ありとあらゆるすべてのものが凍りつく。
もちろん、アレリルリも例外ではなかった。
アレリルリの体はピシピシと音を立てながら凍りついた。
「フフフ、これでお終い。あっけなかったわね」
グラキエは、そう言いながら、凍りついたアレリルリに近づいた。
無警戒に……。
次の瞬間、アレリルリから大量の血のトゲが生え、グラキエを串刺しにした。
「グッ……アアッ……!!!」
「お前は随分間抜けじゃな」
それは、グラキエの後ろから聞こえた。
「お前……は?」
「そこで凍っているのはただの血でできた人形じゃよ」
「何……だと?」
「妾は、負けるわけにはいかぬのじゃ。エンカのためにも。さて、ここであれば、妾も本気を出して良さそうじゃな」
アレリルリがそう言った瞬間、アレリルリの足元から大量の血が噴出した。
その血は、瞬く間に『凍界』全域に広がった。
「飲み込め『異界血』」
その言葉と共に大量の血の手が、グラキエに絡みつき、血の中へと引き摺り込み始めた。
「何だ?これは!?」
血の中は、あまりにも深かった。
「妾の作る血の中には異界があるのじゃ。妾にとってのお前の使うこの『凍界』のような場所だと思うが良い」
「ゴボッ……!!!」
グラキエは、すでに下顎まで血に浸かっていた。
「さあ、妾の世界で、じっくりじわじわ死の恐怖を感じながら死ぬが良い」
グラキエは、その言葉を聞くと同時に完全に血に沈んだ。
こうして、『吸血姫』と『凍界』の戦いは、『吸血姫』の勝利で幕を閉じた。
ユニークスキル紹介
『血姫』
血の量、温度、形状、硬度など、さまざまなことを操作する能力。さらに、血の中に異界を作り出すことも可能。