表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/43

世界の中心でアイを呼んだウサギ


「もきゅもきゅもきゅ~!(草がうめぇ~!)」


 エイロナを撃退したあと、1時間ほどプレイヤーを襲っていたオレは一角ウサギのアバターを回復させるために草原の草を食べていた。


「――げっぷ!(はぁ~食った食った。ただの草がこんなに美味く感じるなんて味覚補整ってスゴイな!)」


 EN問題が解消されたので、身体を休めてHPとSTの回復に専念する。適当な設定なのに変なところで凝っているよなこのゲーム。


「もきゅん!(さっきの戦闘でポイントもかなり増えたし、これなら今日中に合格できるな!)」


 エイロナのテイムを拒否した影響なのかポイントが一気に増えたのも大きい。……今となっては確認できないが、もしもテイムされていたらポイントが減少するハニートラップだったのかもしれないな。

 ぼけぇ~、っと雲一つない青い空を見上げて時間を潰す。さっきまで忙しかったから、たまにはこういうのも悪くない。


「もきゅ~!(平和だなぁ~)」


 そよ風と草同士の擦れる音が見事にマッチして癒し系の環境音になっているぜ。

 まったりしていると、50メートルほど上空を箒に跨った魔法使い風の女の子がゆっくりと飛んでいくのが視界に入った。


「もっきゅぅ?(飛行系のアプリか?)」


 飛び慣れていないのかフラフラで隙だらけ。

 ……攻撃したいけど、あの高度は空中ジャンプでも届かないから諦めるしかない。……てか、あそこから攻撃されたら近接職だと何もできないんじゃないか? 対策してなかったら一方的にやられるだろ。


「もきゅぅ~!(試験に合格して人間アバター貰ったら、飛行アプリを取って調べてみるか)」


 戦闘機やロボットで飛ぶゲームは遊んだけど、生身で飛行するタイプは初めてだ。ちょっと楽しみ。


「もきゅ~。(ふぁ~)」


 徹夜で悪役の練習をしていたせいか眠くなってきた。

 まだ初日だしポイントにも余裕がある。……仮眠を取りにログアウトするか~。

 メニューを呼び出してログアウトボタンを表示。

 ――ポチッとな。


《現在ログアウトできる状態ではありません》

「……もきゅ?(どういうことだ?)」


 もう一度試してみるが結果は同じだった。

 まさかログアウト不可能なデスゲームに巻き込まれた?


「もきゅ!(それはないな!)」


 ヘルプを表示してログアウト不可の原因を検索してみる。


「も~きゅっ!(えっと、エネミープレイヤーがフィールドからログアウトするための条件は“一般プレイヤーから認識されていない状態”か)」


 ……ん? これってつまり、今のオレは一般プレイヤーに狙われている?


「――もきゅ!(マジか。音には注意していたぞ!)」


 慌ててウサギ耳を研ぎ澄ます。

 風の音、草が揺れて擦れる音。聞こえる範囲で足音はない。

 ……かなり遠くから狙われている? そう思ったときオレの身体に大きな影が落ちた。


「――もきゅ!(雲一つない草原に影なんてありえないだろ!)」


 とにかく誰もいない前方に向かって跳ぶ。


「もきゅ?(身体の動きが遅い?)」


 まさか、スロウ系のデバフ?

 そう認識した瞬間、視界隅に表示されている簡易ステータスに状態異常のアイコンがズラリと並んでいることに気付く。


「もっきゅー!(やっちまったーっ!)」


 スロウ以外にも筋力などの各種ステータス低下、アプリ封印、麻痺、認識阻害、その他色々。ウサギ1羽を倒すのにどんだけ慎重なんだよ!

 ――ぎゃあああっ! 暗闇まで追加されて何も見えなくなったーっ!


「――やった。捕まえた!」


 幼い感じの少女の声が聞こえた。腰のあたりを掴まれて身体が持ち上げられたのが解った。

 ……終わった。絶対に狩られる。


「もっきゅー!(――だけど、オレは簡単にはやられないぞ!)」

「ちょっと。ウサギさん暴れちゃダメ!」


 全身を使った悪足掻きで脱出を図る。たとえ逃げられなくても、嫌がらせでHPやSTを消耗させてやる!

 20秒ほどジタバタしていたらSTが尽きて今度はHPが減り始めた。……そして、HPが10%を切ったと同時に疲労困憊で行動不能となった。


「きゅ~……。(完全に詰んだ。もう尻尾ふりふりも無理)」


 ぐで~ん、と一角ウサギの身体が少女の腕の中で力尽きる。意識は問題なくても、システムが動くことを許してくれない。

 ……まぁ、エネミーモードは倒されるのが前提だから仕方ないか。そもそも序盤雑魚の魔物で一般プレイヤーを数人キルしたんだから頑張ったほうだろう。

 ――うん、オレ頑張った! そういうことにしておこう!

 唯一残念なのは、初めてオレを討伐する少女の顔が状態異常のせいで見れないということ。


「もきゅ~。(その声、忘れないからな! 覚悟しておけ!)」

「…………えっと。これ食べる?」


 ……ん? 鼻の近くに美味しそうな匂いが近付いてくる。


「――もきゅ! もきゅもきゅもきゅ!」


 ……おいおい、身体が勝手に動いて食べ始めたぞ。これは葉物野菜か? そこらへんの草なんかより全然うめぇな。しかもHPの回復量がすげぇ。


「くーちゃん。おいしい?」

「もきゅ?(うまうまだぞ。……って、何でオレのあだ名を知っているんだ?)」

「えっとね。くーちゃんっていうのは、あなたの名前。黒いからくーちゃんだよ!」


 会話が微妙に噛み合わない。

 …………あれ? というかこのウサギに名前を付けられた?


 ――ピーンポーンパーンポーン♪

《一般プレイヤー【アリス】にテイムされました》


 視界端の簡易ステータスからデバフのアイコンが一斉に消滅した。光が戻り暗闇から青空と草原に切り替わる。そして、金髪の少女がオレの身体を小さな腕で抱えながら笑っていた。


「わたしはアリス。よろしくね。くーちゃん」

「もっきゅーっ!(マジかーい!)」


 追加されたアリスの簡易ステータスを見てさらに驚いた。デバフまみれだったオレとは反対に、バフのアイコンが沢山並んでいる。そしてアリスのレベルは1。

 ……これは間違いなく仲間がいるな。


「アリスちゃん。おめでとう」


 ――ぱちぱちぱちぱち。

 手を叩きながら支援職っぽい恰好の女性が出てくる。


「おめでとう。アリスさん」

「おめでとう。アリス」


 さらに騎士っぽい恰好をした男性と女性が拍手しながらやってくる。


「初テイム成功おめでとう」


 箒に跨った女魔法使いが降りてくる。さっき飛んでいたヤツだし。


「よかったな。嬢ちゃん。おめでとう」


 今度はフライパンを持った料理人かよ。……一体何人いるんだ? その後も次々と一般プレイヤーたちが現れて、手を叩きながらアリスの周囲に集まってくる。


「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」


 おめでとうの大合唱!

 ……何だよこの人数。ウサギ1羽をテイムするために集まってきたっていうのか? 序盤雑魚相手にどう考えても過剰戦力だろ。本気出し過ぎで引くぞ!

 鳴り止まない拍手の中、ドーナツ化現象の中心にいるアリスはオレを抱えて満面の笑みで言う。


「――みんな。ありがとう!」


《特殊クエスト【テイマー志望の女の子】をクリアしました。追記:紳士にありがとう。淑女にありがとう。そして新しい世界の幕開けにおめでとう》


 ……もう意味が解らねぇ。

 特殊クエストってなんだよ!

 ちょっとアイちゃん説明しろーっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ