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ログイン&エントリー


『ようこそ【お願いっ! 魔王を倒して異世界人さまっ!】の世界へ』


 ログインしたオレを待っていたのは、白い空間に佇む青髪ロングの女性アバターだった。クールなお姉さんっぽい雰囲気がオレ的にポイント高い。


『ワタシの名前はアイ。このゲームを管理運営するAIです。そして異世界転移のテンプレに当てはめるのなら、転移者にチート能力を授ける女神的なヤツです。親しみを込めてアイちゃんと呼んでください。敬語も不要です』

「了解だ。アイちゃん」


 アイと名乗ったAIは表情を変えることなく淡々と話した。

 クールビューティーな見た目だけど言動からそこはかとなく残念感が漂っている。もちろんポンコツお姉ちゃんも守備範囲だぜ!


『……エネミーモードのエントリー情報を確認しました。質問します。アナタは運営の手先となって異世界人と敵対しますか?』

「それなら答えはイエスだ」


 目の前に出現した選択画面の【イエス】を押す。


『確認しました。エネミーモード【世界の半分をやる。異世界人を倒してくれ!】へ移行する前に規約の同意が必要です』


 続けて規約に関する画面が表示された。

 細かいことがいろいろ書かれているけど重要なのは情報漏洩に関することだ。エネミーモードではプレイヤーが敵キャラを準備する必要がある。そのため事前にイベントの詳細や運営スケジュールなどを知ることができる。そういった情報を漏らしたら裁判とかで大変なことになるぞって感じだ。

 公式ページで確認した規約と同じなのでポチッと同意。

 ――その瞬間、白い空間が暗黒に染まった。


『エネミーモード【世界の半分】……長いので以下略の規約同意を確認しました。なお、長くて面倒臭いので今後はエネミーモードで統一します』


 ……管理AIなのに面倒臭い発言。九音が言っていた通りクセがあるな。


『アナタのアカウント名とイメージカラーを決定してください』

「……イメージカラー? 何に使うんだ?」

『エネミープレイヤーが使用するアバターなどにちょっとした特徴を持たせる為のモノです。試験中は色だけですが合格後は模様などの細かい部分も設定できるようになります。尚、試験終了までイメージカラーの変更はできないのでご注意ください』

「見た目に拘りたいプレイヤー向けの要素だな。それじゃアカウント名はクゥロ、イメージカラーは真っ黒で」


 クゥロだから黒。理由なんてシンプルが一番だ。


『登録を完了しました。それでは試験会場へ移動します。開始時間までお待ちください』


 視界が白に染まって、景色が変わる。

 飛ばされた場所は雲一つない青い空の下、どこまでも草原が広がっているフィールドだった。

 周囲には他の受験者もいて、全てのアバターが全身タイツ姿の人型になっていた。選択したイメージカラーが反映されているみたいで黒や白が多い。受験者は2000人以上いそう。この中にスノウとサンチもいるはずだ。

 しばらく待っていると、上空に大型画面が出現してアイちゃんの姿が映った。

 

『エントリー終了時間になりました。これからエネミーモード採用試験の内容を説明します。今から30分後に【ウサギ狩り】という公式イベントがこの特設フィールドで開催されます。受験者の皆さんにはイベントで登場する穴掘りウサギの変異種【一角ウサギ】に憑依してもらい、やって来るプレイヤーたちの相手をしてもらいます。……まずは実物に憑依させましょう』


 ――ピンピンピロリ~ン♪


 効果音が終わると目線の高さが一気に低くなった。地面が近いし、周辺に生えていた草がデカイ。手を見ると黒毛のモフモフに変わっていた。


「もきゅ~!(おぉ~!)」


 言葉も魔物仕様になっているな。ウサギに声帯は無かったと思うけど、異世界を舞台にしたゲームだから気にしたら負けかな。


『身体を動かしにくい場合はメニューを呼び出して操作モードを【ダイレクト】から【コントローラー】に変更してください。操作モードは評価に影響しませんので好みで使い分けてください』


 ちょっと試してみる。

 ……なるほど、ヘッドセットで映像を見ながらコントローラーで操作する一昔前のVRゲームみたいな感じだ。


「もきゅもきゅ!(操作レバーを上に倒すと前進)」


 そして、


「キシャー!(○ボタンで角で突く攻撃っと)」


 操作は簡単だけどモーションが固定。これは上級者が相手だと通用しないだろうな。使うとしたらスライムみたいな特殊な身体構造の魔物になりそうだ。


『次に試験の評価方法です。エネミープレイヤーの評価は一般プレイヤーに対する行動で増減します。相手の行動を妨害して困らせることが高評価に繋がると考えてください。他にもレベルが高い格上を相手にすると評価が上がりやすくなり、逆に低レベルの格下に倒されれば大幅に減少します』


 舐めプや接待プレイはダメってことだな。


『エネミーモードでは魔物としての行動も評価されます。その特性上、通常のゲームでは迷惑行為に当たる横殴りなどを推奨とします。魔物に人間のマナーは通用しませんので。……ただし、不快な暴言などは取り締まりの対象となります。詳細はヘルプで確認してください』

「むっきゅー?(デスペナはありますか?)」


 別のエネミープレイヤーの質問にアイちゃんが答える。


『憑依した魔物が倒されても評価値が変動するだけでペナルティーはありません。なぜなら魔物は倒されることが前提の存在です。最初は一般プレイヤーを易々と撃退できる強い魔物でも、レベルや装備が更新されたら苦戦するようになります。それはボスキャラも例外ではありません。そのような仕様でデスペナをアリにしたら伝説のクソゲーになるとワタシは判断しました』


 ……まぁ、そうなるよな。エネミーモードの楽しみ方は普通のゲームとは違う。だからこそ興味を持ったわけだし。


『次は本試験の合格基準についてです。エネミーモードでは評価値に応じてエネミーポイント(EP)を入手できます。EPは憑依する魔物の強化、ダンジョン内のトラップ設置、その他さまざまなモノに使用できます。今回はそのEPをイベントが開催される7日間で累計500ポイント以上貯めれば合格となります』


 イベントを走る一般プレイヤーを困らせてポイントを貯めていくんだな。オッケー理解した!


『最後に初期EPを配布して説明を終了です。イベントが開始されるまでは自由時間となります。魔物の強化、準備運動、ヘルプで情報収集など自由に過ごしてください』


 上空の画面にカウントダウンが表示された。同時に一角ウサギたちが移動を始める。


「もっきゅう!(とりあえず一角ウサギのステータスを確認してみるか)」


 種族は一角ウサギ。レベルは5で固定。敏捷が高めで他は、……低めの能力値だな!

 標準インストールされているアプリは【穴掘り】【探知〔音〕】【角攻撃】【爪攻撃】【体当たり】【噛り付く】【鑑定〔匂い〕】【状態異常無効化〔条件付き〕】で、それぞれ強化レベルは5。ゲームの仕様で“本体レベル=アプリ強化の上限値”だからカンスト状態だ。


「……もきゅ。(……で、配布された50EP使って追加のアプリをゲットできると)」


 メニュー画面のEP交換を選択すると獲得できるアプリの一覧が表示された。……てか、配布されたEPが累計に加算されているけどいいのかこれ? 実質450EPで合格じゃん。

 ――まっ、細かいことは気にしないことにしよう。


「モキュ!(――おっ。【空中ジャンプ】があるぞ!)」


 こういうの好きなんだよな。着地の瞬間を狙われても回避できるのがいい! 配布EPを使って迷わずインストール。オマケで【三角跳び】もゲットしておこう。

 そういうわけで、さっそく【空中ジャンプ】を試してみる。


「――もきゅ! モキュ! もっきゅ~!」


 足裏の位置で上下左右と自由に跳べるのは便利だ。注意点はSTの消費が大きく、空中で跳べるのは一度だけで地上に降りて回数のリセットが必要になるってところか。


「もっきゅ!(次はステータスの調整)」


 さらにEPを消費して【一角ウサギ用・フリー強化ポイント】を解放する。


「も~っきゅ!(とりあえず致命傷狙いの調整にするか。敏捷、筋力、STあたりかな)」


 再振り分けが可能なので遊びながら微調整していこう。

 最後に敏捷を生かすように身体のサイズを小さく、重量を軽く変更すれば……。


「モキュ!(オレの考えた最強の一角ウサギの完成だ!)」


 額の角が輝いている気がするぜ!


「――もっきゅん!(次は一角ウサギの身体に慣れないとな!)」


 操作モードを【コントローラー】にして草原を適当に走った。低い視点で跳ねるように移動する感覚は人間とは大違いだ。加速、減速、急旋回などいろいろな動作を試してみる。

 移動する感覚に慣れてきたら操作モードを【ダイレクト】の変更してみる。


「も――ブッ!(痛い!)」


 ……初っ端から着地に失敗して地面とキスしちまった。

 とりあえず減ったHPとENを草原の草を食べて回復させる。草の中には毒草も混じっているが【状態異常無効化〔条件付き〕】のアプリがあるから問題ない。環境に適応して体内で無毒化できるという設定らしい。


 ――ぴょ~ん。――ぴょ~ん。


 その後もオレは丁寧に跳ねる特訓を続けた。慣れてきたら徐々にテンポを上げていく。

 ……っと、角がない茶色いウサギを見つけた。コイツが穴掘りウサギだな。

 丁度いい。ウサギの走り方はウサギから学ぶのが一番だ。


「もっきゅー?(ハロー、そこの穴掘りウサギさん。ちょっとオレと鬼ごっこしない?)」

「きゅー!(一角ウサギか。いいよー!)」

「もきゅ!(オレが先に鬼をやるぜ!)」


 すげぇ。軽いノリで話しかけたら会話が成立しちゃったぜ!

 オレは茶色い穴掘りウサギを追いかけながら身体の動かし方を観察する。


「もっきゅ~!(待って~、穴掘りウサギさ~ん!)」

「もきゅー!(簡単には捕まらないよー!)」


 こうしてオレは茶色い穴掘りウサギさんと一緒に鬼ごっこや草原の草を食べたりして親睦を深めながら一角ウサギの肉体に慣れていった。

 そして、ついにその時がやってくる。


『時間になりました。まもなく試験スタートです』


 フラッグを持ったアイちゃんが上空のモニターに映し出される。続いて、競馬で流れるような壮大なファンファーレが始まった。

 穴掘りウサギさんが心配そうに聞いてくる。


「もきゅ?(とうとう人間たちが動き始めちゃったね。一角ウサギは戦うの?)」

「もきゅきゅ!(当然だ。オレは世界最強を目指す戦闘狂だからな!)」

「……もきゅ、ももっきゅ。(たしかにキミは変異種だから強い。だけど所詮は逃げ回ることしかできないウサギだよ)」

「もきゅ!(わかっている。それでもオレは戦わなければいけないんだ!)」


 ――試験に合格するためにな!


「もきゅももきゅきゅ!(穴掘りウサギさん。お前は生き残れよ。逃げることは恥じゃないし弱いという意味でもない。生きている限り成長して強くなれる。誰にも狩られることなく長生きしてきたウサギが弱いわけがないんだ)」

「……もきゅ。(……そうだね。頑張ってみるよ)」

「もきゅー!(短い間だったけど楽しかったぜ。達者でな!)」

「もきゅ!(我が兎もよ。幸運を祈っているよ)」


 オレと茶色い穴掘りウサギさんは別々の方向へ進み始めた。

 なんだかオレたちの間に友情が芽生えた気がしたよ。……まったく、よくできたAIだぜ。

 やがて曲が終わり、鬼ごっこで減少していたオレのステータスが完全回復する。

 そして、カウントダウンがゼロになった。


『第1回エネミーモード採用試験。――開始します』

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