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電命の灯火【1-EM5】


 解放されている城門に向かって仲間の黒ウサギが再突撃。

 しかし見えない壁に阻まれて跳ね返された。


「もきゅ?(やっぱり入れないか。城壁の上は?)」

「キュ。(無理です。街を覆うようにバリアがあって侵入できません)」

「シャー。(アイちゃんめ。やってくれたな)」


 バリアの向こう側にはプレイヤーたちがどんどん集まってきている。このまま足止めが続いたらプレイヤーたちの準備が整って、せっかくの強襲も意味がなくなってしまう。


「キュ?(リーダー。どうします?)」

「モキュ!(とりあえずアイちゃんにクレームを送りまってやる。無敵バリアで敵陣に侵入不可能とか絶対勝てないクソゲーっと。……クレームを送れないウサギたちは抗議活動を頼む)」


 それでは、せーの!


「もきゅー!(ウサギに人権はないのかー!)」

「きゅー!(ゲームルールに平等を! 魔物のレベル上限を撤廃しろー!)」

「キシャー!(草原生活は飽きたー! 自由に他のエリアへ移動できるようにしてくれー!)」

「もっきゅーん!(結婚システム実装してー!)」


 やっぱり10万羽もいると迫力がすげぇ。映えまくりで最高のPVになるんじゃないか?


「ケンショー!」


 ――おっ。草原で散ったモードキッシがプレイヤーをかき分けて戻ってきた。


「これは一体どういう状況なんだい? 街に結界があるなんて初耳なんだけど」

「うむ。地続きのように見えるが、草原とハジマーリの街が別マップになっているのだろう。その修正をアイちゃんが忘れたと思われる」

「いつものアレか~」

「うむ。いつものアレだ」

「……別マップということは、こちら側の攻撃もウサギたちには届かないよね?」

「うむ。この通りだ」


 ケンショーの合図でプレイヤーの一人がオレたちに向かって弓を射る。

 飛んできた矢は草原と街の境目で消滅した。


「他にも魔法やアイテムなどを試したがすべて無効化されてしまった。城壁の上も同じだ」

「手や武器だけを向こう側に出しての攻撃は?」

「それも無理だった。完全に向こう側に移動しないとダメなのだろう」

「自立行動する召喚獣などを送るのは?」

「出オチだ。あの数相手では1秒すら耐えられない」

「複数体を送っても厳しそうだね。城門も広くないから一度に送れる数が限られる。空から……も無理か。なぜかウサギが空を飛んでいるからね」


 モードキッシが遠くで飛行しているウサギたちを見た。


「虹色に光りながら爆弾を投げてみるかい? ダメージは与えられないけどノックバックは期待できるよ」

「うむ。悪くはない。城門前で爆発。空いたスペースにマシンガンやショットガンを装備した部隊を送り弾幕を張る。その間に魔法障壁や召喚獣で陣地を形成といったところか」

「ウサギが陣地の中に入ってきたらどうする? 短剣などの小回りの利くプレイヤーを護衛につけても数で押し切られそうだけど」

「……自陣で状態異常系のアイテムを使うのはどうだ? 状態異常の耐性値を限界まで上げればウサギだけを狙える」

「それはいい案だね。ウサギに遠距離攻撃はないから絶え間なく使い続ければ一方的に攻撃できる」

「うむ。エイロナたちが使っていた煙タイプなら数十秒は効果が持続する。急いでアイテムをかき集めよう」


 ケンショーの指示で数人のプレイヤーが走り出した。

 ……その作戦はマズいな。マジで一方的に殴られる。


「攻略の目途が立ちってよかったよ」

「うむ。アイちゃんのやらかしのおかげだ。今回はプレイヤー側に女神が微笑んでくれたようだ」

「見ろよ。ピンクの隣にいるクゥロっぽいのが焦ってるぜ」

「ざまぁ淫獣! 爆発しろ!」

「シャー。(ちくしょー。攻略法が見つかったからって調子に乗りやがって)」


 ――てか、淫獣ってなんだよ!?


「もきゅー。(クーちゃん。念のため逃走ルートの確保と落とし穴をたくさん作っておくねー)」

「キシャ。(おう。頼んだ。暇なウサギたちも手伝ってやってくれ)」

「シャー。(了解)」


 サンチを先頭に数百羽のウサギたちが地中に潜っていった。


「もきゅ。(オレも何か対抗策を考えないと)」


 煙を散らすならやっぱり風だよな。

 みんなで集まって煙に向かって息を吹きかけるか? ……フーフーしている間に攻撃されて退場だよなぁ。

 呼吸以外でウサギができるのは、掘る走る飛ぶくらいしか。

 ……あれ? なんかいい感じの現象が現実でもあるような。掘って走る。……穴を走る。

 ――そうだ。地下鉄だっ! 駅に電車が到着するとき地上に向かって強風が吹く。それを再現できれば地中から安全に風を起こせるぞ!


「モッキュー!?(流体やモノづくりに詳しいウサギはいるか!?)」

「キシャ!(はい! 自分を制作したエネミープレイヤーが流体力学を学んでいました。ベルヌーイの定理が得意です)」

「もきゅー!(ボクの製作者は設計に携わっていたよ!)」

「モキュ!(土木工事ならいけるぜ!)」

「もっきゅん!(クーちゃんのお嫁さんなら任せてー!)」


 エネミープレイヤーにも色々な中身がいるんだな。普段はライバルだけど頼もしいぜ!

 オレはウサギたちに相談してみた。


「もきゅ?(……というわけで。状態異常の煙対策で強風を起こせる送風機を地下に製作してもらいたいんだ。できそうか?)」

「キシャ。(煙を地下に吸い込まないように注意が必要ですが……何とかなると思います)」

「もっきゅー。(それならさっそく製作を始めてくれ)」

「シャー!(了解!)」


 ウサギたちが作業に取り掛かる。


「……おい。ウサギたちが何か始めやがったぞ」

「どうせ落とし穴を作っているだけだって」


 プレイヤーども。余裕ぶっていられるのは今のうちだぞ。


「キシャ。(リーダー。試作品が完成しました)」

「も?(え? もう完成したのか?)」

「シャー。(ここには10万羽もウサギがいるんですよ。工事なんてあっという間です)」


 すげぇ。やっぱり数の力は偉大だ!


「もきゅ?(この通風孔から風が出ます。試しますか?)」

「もっきゅん。(ぶっつけ本番も嫌だしやってくれ)」

「シャー!(了解です。――みんな走ってくださーい!)」


 通風孔に向かってウサギが叫ぶと、中から返事が返ってきた。

 オレは通風孔に手をかざし、その時を待った。


 ――ゴォォォォオオォォォオオオオオォオッ!


「キュー!(おぉ! 想像していたよりも風が強い!)」


 ウサギの体が軽いから風圧で少しだけ浮いたぞ。

 そんなオレの様子を見たプレイヤーたちに動揺が走った。


「どうなっていやがる。穴からすげぇ勢いで風が吹いているぞ!」

「まさか。あの風で煙を吹き飛ばすつもりなのか?」

「うむ。面白い! ウサギになって検証したい!」


 はっはっは~。ウサギに不可能はないっ!

 職人たちに感謝だぜ!


「大変です。ケンショー!」


 買い出しに行ったプレイヤーが戻ってきた。

 しかし送風機は量産体制に入っている。今更アイテムを持ってきたところでもう遅いっ!


「うむ。アイテムは購入できたか?」

「それが……お金が足りなくて大量確保に失敗しました」

「どういうことだ? 十分な金額は渡しておいたはずだが」

「ライブ配信を視聴していた商人系のプレイヤーが買い占めを行いました。アイテムや素材はオークションに出品されて即決価格が定価の10倍。アイツらクゥロバブルとか言って大喜びしてやがりました」


 ……プレイヤーの敵はプレイヤーだったか。


「うむ。それは行幸。アイテムの確保は不要だ。アレを見ろ」

「……草原にもの凄い強風が吹き荒れていますね。ウサギたちの身体が宙に浮いています」

「うむ。クゥロが1分でやってくれた。これでは煙が流されてしまう。先に買い占めてくれた商人プレイヤーに感謝しよう」

「ははっ。ザマァですね」


 イベントが終わったら確実に値崩れを起こすだろう。第2エリアが実装されたらゴミになる可能性だってある。


「結局イベントの攻略はふりだしに戻ってしまったね」

「うむ。このまま睨み合った状態でイベントが終了するのも面白くない。……誰かいいアイデアはないか?」

「我輩が行くのである!」


 全身金属鎧の男がやってきた。

 その後ろにはグリィセリンがいる。


「その声。……もしかしてカンチョー?」

「そう! 我が名はカンチョー! 超弩級戦艦フィグのカンチョーである! 現在ギルドメンバー募集中である!」

「アットホームでフレンドリーなギルドッス!」


 2人がカメラアイに向かって謎ポーズを決めた。


「所詮は序盤雑魚のウサギ。前回同様、全身鎧なら攻略は容易である」

「そう上手くいくかな? 今回はウサギの数が多過ぎるよ」

「それでも誰かがやらなければならないのである!」

「だからってカンチョーが犠牲になることはないだろう。キミはすでに2回死んでいる。次に死んだらデスペナだよ」

「問題はない。我輩にはこれがある!」


 カンチョーがアイテムストレージからゾンビのイラストが描かれた缶ジュースを取り出した。


「デスペナを無効化できるゾンビアタッカーか。……しかしそれはアイちゃんコインでしか購入できな貴重なアイテム。本当に使うのかい?」

「我輩はここに集う仲間たちと共に目の前の困難を乗り越えたい。そのためならジュース1本くらい安いものである」


 プルタブを開ける音が響く。

 ゾンビアタッカーにストローを刺し、ちゅーっと一気に飲み干したカンチョーが缶を投げ捨てて叫んだ。


「行くぞグリィセリン。地平線の彼方へ!」

「あっ。オイラ今月金欠なんで無理ッス。そもそもフルプレートメイルなんてオイラのアバターじゃ重過ぎて装備できないッス」

「…………」

「幸運を祈っているッス。カンチョー!」


 ビシッとグリィセリンがカンチョーに敬礼。

 ……カンチョー。裏切られたような顔をするなよ。飛行アプリを使用するグリィセリンには無茶振りだ。


「わ、我が名はカンチョー! 超弩級戦艦フィグのカンチョーである! 皆のモノ。我が英姿をしかとその目に焼き付けるのである!」


 やけくそ気味に叫びながらカンチョーが突っ込んできた。

 ぶっちゃけ全身を防具で固められると攻撃が通らないので、オレたちウサギは後方に下がってカンチョーから距離を取るしかない。


「――おぉ! ウサギたちが逃げていくぞ。これは行けるか!?」

「カンチョー。格好いいッス!」

「ふはははははっ! どうしたウサギども。我輩に慄いて逃げることしかできないのか!」


 ――ズボッ! ひゅ~ぅ、ドンッ!


 落とし穴にご案内~。


「いたたっ。いきなり地面が抜けて驚いたのである」


 穴の中からカンチョーの声が聞こえてくる。さすがに3メートルの深さで即死は無理だったか。


「モキュ!(みんな埋めるぞ。手伝ってくれ!)」

「シャー!(了解!)」

「もーっきゅ!(せーの!)」


 ――ドババババババババッ!

 ウサギたち総出で土を蹴って穴を埋めていく。


「――ちょ、何をするっ! ぬおっ。足が埋まって動けないのである! 誰か助け……」


 仕上げにみんなで地面を踏み固める。地中から『パリーン』と音が聞こえてきた。


「……生き埋めとかエグイな」

「あんな死に方はしたくねぇよ」

「カンチョーの犠牲は無駄にしないッス」


 グリィセリンの敬礼に他のプレイヤーたちが続いた。


「……さて。どうしようか? もう落とし穴に注意して特攻するしか思いつかないんだけど」

「一つだけ。邪道だけど必勝の攻略法があると言わざる得ない」

「セメツイか。話を聞こう」

「初心者プレイヤーのチュートリアルバリアを利用する。それなら城門からイヌカの森までの道は安全になると言わざる得ない」

「チュートリアルバリアか。イベントの注意事項には何も記載されていないから利用できる可能性は十分にあるね」

「うむ。邪道ではあるが確実に情勢を覆せる」


 アーマルドたちにやられたヤツか。確かにアレをやられたらウサギ側は完全に詰むな。

 ……でも、この過疎ゲーで都合よく初心者が見つかるのか?


「初心者なら1時間前に筋肉もりもりマッチョマンが連れているのを見たぞ!」

「うむ。アーマルドのことだな。誰か連絡が付く者はいるか?」

「えっと。それなんだけど……」


 ケンショーの呼びかけに鮫パジャマを着た女性アバターが手を挙げた。


「私の名前はシャメコよ。アーマルドと同じギルド“午後はロードショー”に所属しているわ。みんなが探している初心者というのは間違いなくアーマルドの娘のサリアだと思う。それで良い知らせと悪い知らせがあるんだけど。……どっちから聞きたい?」

「うむ。ならば良い知らせから聞こう」

「サリアはチュートリアル中に変なウサギに絡まれたせいでまだ初心者マークが付いたままよ。そして今日はサリアの誕生日」

「うむ。それは素晴らしい。……悪い知らせは?」

「サリアの誕生日会でログアウト中。今頃は家族で高級フレンチを楽しんでいるわ」

「うむ。家族と過ごす時間は大切だから仕方がない。他の初心者を探そう」


 現実>ゲーム。

 ゲームは用法容量を守って楽しく遊ばないとな!


「シャメコ氏、情報提供を感謝する」

「こちらこそありがとう。こういうやり取りって一度やってみたかったのよ」


 シャメコは空中を泳いで街へ戻っていった。たぶん鮫パジャマを飛行魔道具に改造しているな。


「他に初心者っているのかな? このゲームってマイナーだから新規は珍しいよ」

「うむ。一時的に新規プレイヤーが増えて喜んでいたが、今思えばウサギ狩りの直後だったからエネミープレイヤーだったのだろうな」


 城門の境界を挟んで睨み合いを続けていると、気が緩んだ一部のプレイヤーたちが呟き始めた。


「もうこのままイベント終了でよくね? 詫びコインで10連ガチャ分くらいは貰えるだろ」

「致命的なバグだし、クレームを送ればもっと貰えるかもよ」

「キミたち。アイちゃんを甘く見過ぎだよ。彼女は必ずやらかす」

「うむ。不具合発覚から20分。そろそろ来る頃だ」


 ――ピーンポーンパーンポーン♪


《アイちゃんからのお知らせです。現在開催中のイベントで発生している不具合を修正しました。今回の修正でハジマーリの街と草原のマップが1つに繋がり、魔物が自由に出入りできるようになります。修正の適用は今から5分後です。尚、不具合による補填は追って連絡致します》


 視界にカウントダウンが表示された。


「……あははっ。この状態からスタートするなんて。さすがアイちゃんだ」

「うむ。いつものことだ」

「悠長なことを言っている場合ではない。今のうちに対策するべきだと言わざる得ない」

「そうだね。とりあえず城門を閉じようか。それと遠距離攻撃が可能なプレイヤーは城壁の上に移動してもらおう」


 プレイヤーたちが慌ただしく動き始め、お腹に響く重い音と一緒に城門が閉じられていく。

 オレたちウサギはその様子を眺めていることしかできなかった。

 ……このまま相手が準備を整えるのを何もせずに見ているのは時間がもったいないな。


「もきゅ?(確認なんだけど。街を覆うバリアはドーム型だったよな。それは乗れるのか?)」

「シャ。(乗れます)」


 それはいいことを聞いたぜ。


「もきゅー。(クーちゃん。悪い顔してるー)」


 そんなことないぞ。


「モッキュ!(修正適用30秒前に作戦を開始する。総員。まずは街を囲め!)」

「シャー!(了解!)」


 10万のウサギが大移動を始めた。

 当然、城壁の上にいるプレイヤーたちも気付く。


「ウサギたちが動き出したぞ。何をする気だ?」

「固まっていると範囲攻撃の的になるからだろ。……しかしこれは戦線が広がるな。城壁の上にプレイヤーを増やすように伝えるんだ」


 ――ピーンポーンパーンポーン♪


《修正適用まであと30秒。エリアの境界にいるプレイヤーは注意してください》


 よし。行くぜ!


「キシャー!(作戦開始だ! 総員。城壁を超えてバリアの上に乗れ!)」

「シャー!(了解!)」


 ウサギたちが連携して空を飛び、バリアの上に着地していく。

 その影によってハジマーリの街が闇に包まれていった。


「……マジかよ。ウサギたちがバリアの上に飛び乗ってやがる」

「太陽が黒いウサギに喰われていく」

「あぁ。この世の終わりだ……」

「諦めるのはまだ早い! 範囲魔法攻撃ができるプレイヤーは出来るだけ散らばって上の敵を狙うんだ!」


 モードキッシの指示で一部のプレイヤーが動き出した。


「……うむ。モードキッシ」

「わかっているよケンショー。城門前にプレイヤーが集まり過ぎた。今から移動しても街全体をカバーするのは不可能だし、施設を壊したら耐久値が減るから街の中で範囲攻撃は使えない。……もうこのイベント無理ゲー」

「無理をしてでも状態異常アイテムを落札するべきだったか」

「人の欲望が招いたことさ。キミに責任はないよ」


 モードキッシが上を向く。

 目が合った。ような気がした。


「狂演のクゥロか。まったく。キミはこのゲームと相性が良過ぎるよ」

「モキュ!(お褒めに預かり光栄だぜ!)」

「でも簡単には終わらないよ」


 モードキッシがゾンビアタッカーを飲み干した。


「こんな機会は滅多にない。限界まで修行させてもらうよ!」


《修正適用まで。あと5秒……》


「キシャー!(総員。バリアが喪失したら、そのまま街に降下だ! 対空攻撃に注意しろ!)」

「「「「「シャー!(了解!)」」」」」


 バリアが消えて身体が宙に浮いた。


「モッキュー!(降下開始。異世界人の街にご挨拶だ!)」

「「「「「シャー!(おー!)」」」」」


 ウサギたちが一斉に街へ落ちていく。

 地上いるプレイヤーたちが各々の武器をこっちに向けてきた。


「ウサギに遠距離攻撃はない! ぽよぽよ小隊。連携攻撃行くぞ! 撃って撃って撃ちまくれー!」

「えいやっ」「ファイアー」「氷の暴風」「たい焼きうどん」「脳髄ダムド」「寿限無寿限無五劫のすり切れ……」「ばっよえ~ん」


 なんかいろいろな攻撃が飛んできた!


「きゅーーっ!(回避コンビネーション開始! 位置取りとジャンプのタイミングに気を付けろ!)」

「きゅー。(了解! 1コンボ)」「きっきゅ。(2コンボ)」「ききゅー。(3コンボ)」「きっきゅー。(4コンボ)」「ききっきゅー。(5コンボ)」「きゅーききゅー。(6コンボ)」「きっききゅー。(7コンボ)」「きっききゅー(8コンボ)」


 プレイヤーが放った遠距離攻撃はウサギたちをすり抜け、何もない空で次々と爆発していく。


「――そんな馬鹿な! 自慢の7連鎖を全て避けただと!?」

「敵の勢いが止まりません! このままではバタンキューです!」

「単発でもいい。少しでも数を減らすんだ!」

「無理です! 構築が間に合いません!」


 角の先をプレイヤーにロックオン。

 空中ジャンプで加速して……。


「きっききゅー!(19コンボ! お邪魔するぜ!)」

「うわあああぁぁぁあ!」


 一角ウサギの雨に討たれてプレイヤーたちが次々と砕けていく。運よく生き残ったモノたちもトドメを刺されていった。


「キシャー!(最優先目標は¥アンテナだ。リスポーンしたザマァ対象者に無限のザマァをプレゼントしてやれ。ただし無関係な者は攻撃の意思がなければ捕虜にすること。オレたちのザマァ大義を忘れるなよ!)」

「「「「「シャー!(了解!)」」」」」


 ハジマーリの街に侵入してしまえばこっちのものだ。

 ウサギの、ウサギによる、ウサギのためのザマァイベントが始まった。


「なんで俺ばっかり狙われるんだよ! あっちにもプレイヤーがいるだろ!」

「キシャー!(自分の胸に聞きな!)」


「ちくしょう。クゥロバブルで一儲けしようとしたら不良在庫を抱えちまった。――って。倉庫がウサギに襲われて燃えている? ――うわああっぁぁぁぁぁっ!」

「キシャー!(ザマァ!)」


「――お前たちはああああ、いいいい、ううううなんだろ? 追放して悪かった。もう一度やり直さないか?」

「にどりゃん。会って話がしたかったんだ!」

「「「「キシャー!(もう遅い!)」」」」

「「ぎゃーーーー」」

「モキュ!(いいいい、うううう、にどりゃん。同士に連絡しながら¥アンテナに向かおう。みんなでリスポーン&ザマァだ!)」

「「「シャー!(おー!)」」」


   × × ×


 空が赤黒く変化していく。もうすぐ日没の時間だ。

 テンイーシャノ学園の屋上から街を眺めていると、高性能なウサ耳に各所からの遠距離会話が届いてきた。


「モキュ。(こちらバニーボーイ。冒険者ギルドを制圧したぞ)」

「キュー。(修行マニアが¥アンテナで暴れているが対処可能。現在96回目のリスポーン)」

「もっきゅ。(テイマーの女の子が通訳を引き受けてくれた。捕虜の誘導は問題ない)」

「モモッキュ!(学園長アイちゃんの身柄を拘束した。両手を挙げて降参ポーズをとっている)」


 そして。


 ――ピーンポーンパーンポーン♪


《ハジマーリの街の耐久値が全損。緊急クエストは失敗しました》


「もきゅ。(陥落しちゃったな)」

「もっきゅー。(陥落しちゃったねー)」


 街中からウサギたちの勝鬨が上がる。

 ここまで上手く事が運ぶなんてやっぱり数の暴力は強い。


「もきゅ!(この街ってクーちゃんのモノになるのかな? もしそうなったら、ここが私たちの愛の巣だね!)」

「キュー。(たぶん復興イベントに派生するんじゃないか。ウサギたちは日没と同時にみんな消えるし)」

「もきゅ……。(そっか。みんな消えちゃうんだったね……)」


 サンチがそっと寄ってくる。

 ……なんだかこの雰囲気は嫌な予感がするぞ。


「シャー。(現実なら大問題だけどゲームとしては間違っていない。ゲーマーが強さを求めるのは必然だからな。今回はそれをネタにイベントが構築されただけ。感傷に浸るのもいいけどゲームと現実は区別しておかないと頭おかしい人に思われるぞ)」

「もきゅー。(はーい)」


 よし。物理的距離も離れて脳内警報が鳴り止んだ。


「もっきゅー!(クーちゃん。街を見て!)」


 薄暗くなった街の中に小さな明かりが灯り始める。

 光の正体はウサギだった。大通り、屋根の上、¥アンテナ。これから消去されるモノたちが最後の輝きを放ち空へと昇っていく。


「もきゅー。(綺麗だねー)」

「きゅ。(そうだな)」


 アイちゃんめ。心憎い演出をしてくれるぜ。事情を知らないプレイヤーたちには意図が伝わっていないと思うけどな。


「……もきゅ。(……終わったな)」


 夜が訪れて街からウサギたちが消えた。……いや、ちょっと違うな。正確にはまだウサギは残っている。

 ぴょんぴょんと跳ねる音が近付いてきて、茶色い穴掘りウサギが姿を見せた。


「もきゅ。(チャーさん)」

「もきゅっきゅ。(ありがとう。我が兎もよ。君のおかげでみんな良い顔で逝ったよ)」

「きゅー。(それならよかったぜ)」


 トラブルもあったが終わってみると結構楽しいイベントだった。


「もきゅ?(チャーさんはこれからどうするんだ?)」

「もっきゅー。(いつも通り穴の中でのんびり暮らしていくよ。彼らは違うみたいだけど)」

「きゅ?(彼ら?)」

「「「「シャー!(リーダー!)」」」」


 地上から4羽の黒ウサギが連携して跳んできた。

 ああああ、いいいい、うううう、にどりゃんだ。


「きゅ?(お前たち。消えていなかったのか?)」

「もっきゅー。(我々のロールバック用データが消去されるのは7日後であります)」


 ……結局消されるのか。


「モキュ!(リーダー。我々は残された時間を使って旅に出ます。そして世界中の魔物にリーダーから教わったザマァ精神を広めていこうと思います!)」

「……きゅ。(……そ、そうか。頑張れよ)」

「シャー!(それでは行ってまいります! リーダー。お元気で!)」


 敬礼した4羽が屋上から跳んでいく。他にも同行するモノがいるらしく、結構な数のウサギたちが夜の街を跳んでいった。

 ……アイちゃんめ。変なフラグを建てやがったぞ。


「もっきゅ。(さて。そろそろボクも草原に帰るよ。たまには巣穴に遊びにおいで。自慢の迷宮を案内するよ)」

「モキュ!(おう! 楽しみにしているぜ。またな。チャーさん!)」


 チャーさんが去ったことで、ハジマーリの街に残っているウサギはオレとサンチだけになった。

 契約時間も終わるし、とりあえずアイちゃんを呼び出すか。


『お疲れ様でしたクゥロさん。アナタのおかげで最高のPVが出来上がることでしょう』

「キュ。(街のバリアがなければもっと最高だったけどな)」

『プレイヤー側にも準備時間が必要だと判断しました。バリアの解除も参加者が一定数を超えたタイミングで行っています。つまりアイちゃんの計画通り。実は不具合ではありません』


 その説明で納得しておこう。祭りは人数が多ければ多いほど盛り上がるからな。


「もきゅ?(最後は街から脱出して撮影終了か?)」

『契約時間を超えてしまうので、そのままログアウトしてください。あとはAIに任せます』


 残業代は貰えないか。残念。


「もっきゅん。(まぁ、夕飯前で腹も減ったし丁度いいか。……そういうことだからオレはログアウトするぞ。またなサンチ)」

「きゅ?(何を言っているの? 私はずっとあなたと一緒だよ?)」

「もきゅ。(そ、そうか……)」


 あとはオレのAIに任せよう。がんばれオレのAI。

 そういうワケでログアウトボタンをポチッとな。


   × × ×


【会話ログ:黒ウサギAI、ピンクウサギAI、???】


「……もきゅ。(なぁ。そろそろ草原に帰りたいから毛を掴むのをやめてくれ)」

「もきゅー。(もう少しだけゆっくりしようよ。ほら、月がとっても綺麗だよー。特製のお団子も用意してあるんだ。一緒に食べよ)」

「きゅー……。(月見団子か。丁度お腹が空いていたし、まぁ少しだけなら……)」

「もっきゅー。(はい。どうぞー)」

「きゅーん!(――おぉ、変わった味だけど美味いな!)」

「もきゅー!(そうでしょー。街にあった植物を使ってみたんだー)」

「きゅー?(へぇ。どんな植物を使ったんだ?)」

「キュ。(彼岸花)」

「…………も?(それってウサギには耐性がない毒だよな? ……てか状態異常で動けなくなったし)」

「もっきゅー。(すぐに治療してくれるから心配しないで)」


 ――クーちゃん♪ クーちゃん♪ わーたしのお婿さん♪


「キシャ!(――おい! なんか恐ろしい歌声が近付いてくるんだけど!)」

「もきゅ。(大丈夫だよ。私の味方だから)」


 ――そーよ♪ 私がお嫁さん♪


「さすが私のAI。必ずクーちゃんを捕まえてくれるって信じていたよ」

「きゅー。(当然だよ。使役する準備はできているよね?)」

「もちろん♪」

「もきゅ……。(お前たち。これを狙っていたのか……)」


「さぁ。クーちゃん」

「もーきゅ。(さぁ。あなた)」


 ――一緒に暮らしましょう?

4話終了。

次回更新は未定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ───後に、この事件は【ウサギの落日】と呼ばれる様になったのだ……
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