PV撮影
「PVの撮影?」
『はい』
エネミープレイヤー専用拠点の和室。
ログインして運営からのお知らせを開いたら、アイちゃんがPV撮影の参加交渉にやってきた。
『クゥロさんにはエネミーモード宣伝用のPV撮影に参加して欲しいのです。今回は一角ウサギ、イヌカウルフ、モリノベアー。それぞれの魔物で優秀な成績を収めたプレイヤーに参加の打診しています』
「それならオレは一角ウサギか」
アイちゃんが肯定する。
オレの行動をトレースした一角ウサギは“黒のヴォーパル”と呼ばれて攻略まとめサイトに載ったり、使役したプレイヤーが大活躍している影響で人気急上昇中だ。
「撮影って何をするんだ?」
『一角ウサギに憑依して4時間くらい自由に生活してください。状況によってワタシが指示を出しますので可能な限り従ってもらいます』
「一応言っておくけど、演技力を求められても困るぞ」
『問題ありません。編集パワーで何とかします』
この世界を管理しているアイちゃんなら簡単だな。
「出演報酬はエネミーポイント? それともアイちゃんコイン?」
アイちゃんがピースサインをした。
『現金です。時給2000円』
「――よしっ! やろう!」
『それでは契約書にサインをお願いします』
4時間遊んで8000円も貰えるなんて最高だろ!
契約書を読んで特に怪しい部分はなかったのでパパッとサインした。
「それじゃ、さっそく行ってくるぜ!」
『素晴らしい映像が撮れることを期待しています』
操作アバターを一角ウサギに変更。
オレは出現場所のハジマーリの街付近の草原に転移した。
× × ×
――彼はまだ知らなかった。
× × ×
【会話ログ:エイロナ ジッキー スフィア】
「エイロナさん。約束通りお手伝いに来ました」
「よろしくお願いいたします。……あら? スフィアさん、その網は?」
「ウサギ捕獲用の網。師匠にウサギで特訓しろと言われたから飛べるように改造した。捕獲したのはエイロナにあげる」
「良いのですか? 黒のヴォーパルを捕まえてしまうかもしれませんよ?」
「いらない。飛べる魔物がいい」
「あらあら。そうですか」
「捕獲の流れはスフィアさんが空からターゲットを探して、ボクが【カメラアイ】と【解析】で黒のヴォーパルと同一ステータスかを確認。あとはその場のノリでいいんですよね?」
「構いません。……ウフフッ。今日はあの方とお会いできるような気がします」
× × ×
――アルバイト感覚で引き受けたこの仕事が、
× × ×
【会話ログ:リリィ アリス くーちゃん】
「……はぁ、最近ついてないわ。結局、私の魔物は一体もアリスにテイムされなかった。どうしてこんなことになってしまったのよ」
「もきゅ?」
「まったく。コイツがテイムされてから本当にいいことがないわ。しかも中身がクゥロかもしれないとか」
「もっきゅん!」
「……腹が立つけれど行動は可愛いのよね。コイツのおかげで再生数を稼げているし。クゥロのAIだけあってやっぱり強い」
「むきゅ~ん」
「お姉ちゃん。人手が欲しいから手伝ってってジッキーさんからメッセージが来てるよ」
「ジッキーが? ……私にも届いているわね。気分転換も兼ねて行ってみようかしら」
「くーちゃんも行こう!」
「――モキュ!」
× × ×
――偶然が重なり、
× × ×
【会話ログ:ケンショー ギルド『検証班』のメンバー】
「うむ。みんな集まったな。本日から我ら検証班に新人2人が入ることになった。自己紹介を頼む」
「俺はセメツイだ。みんなよろしく」
「自分はカセイツ。よろしくお願いしますと言わざるを得ない」
「うむ。さっそく2人の歓迎会を始めよう。今日は今注目されている“黒のヴォーパル”の見分け方や捕獲方法について調査しようと思う。みんな、どうだろうか?」
「「「「「異議なし!」」」」」
「よし。みんな検証に行くぞ!」
「「「「「おーっ!」」」」」
× × ×
【会話ログ:アーマルド サリア】
「サリア。次のチュートリアルはイヌカの森だ。強制戦闘があるから途中の草原でライフルの調子を確かめるとしよう」
「わかったマミィ」
「…………サリアよ」
「何? マミィ」
「ゲーム内ではアーマルド。もしくはダディって呼んで」
× × ×
――誰も予想していなかった、
× × ×
【会話ログ:カンチョー グリィセリン】
「ジッキー殿に付き合うついでに特訓なのである! 素早い相手が苦手だから初心に帰ってウサギ狩りなのである!」
「どこまでもついていくッス。カンチョー」
× × ×
【会話ログ:レオーラ】
「……はぁ、はぁ。ついに単独でゴブ砦A級攻略に成功」
「強くなった今の俺ならエイロナを守れるはず」
「――行こう! 草原で待っているエイロナの元へ」
× × ×
【会話ログ:クノン エイコ アオイ】
「ねぇねぇ。掲示板見た? 黒のヴォーパルが100万円で取引されているんだって」
「アオイ。そういう怪しい取引はやめたほうがいいと思うよ」
「クノンの言う通りです。絶対に詐欺です」
「大手サイトだから大丈夫だって。それに100万円だよ。3人で分けても33万円! クノンもエイコも気にならないの?」
「……」
「……」
× × ×
【会話ログ:イーケメン お助けNPCたち】
「はじめまして。私は“リタ・アンスグニ”です。一生懸命全力であなたをサポートします」
「やっとリタを迎えることができた。――ついに声優統一パーティーの完成だーっ!」
「おめでとうございます。イーケメンさん」
「ありがとう。ママミ・アフレール」
「やりましたね。ご主人様」
「ここまで支えてくれてありがとう。メェイド・カフェイン。お迎えできるまで15890回……本当に長かった」
「その執念はさすがです。お兄様」
「イモート・キモウット。きっと君に当てられたちゃったんだ。……はははっ。今月の課金額は200万か」
「わー。イーケメンすごーい! そこで遠い目をしちゃうとか、お金の使い方を間違ってるー」
「悔いはないよ。アオル・メスガッキー。なぜなら俺は石油王。お金の心配はいらない」
「はじめまして。私は“リタ・アンスグニ”です。一生懸命全力であなたをサポートします」
「よろしくリタ。……えっと、俺を呼ぶときは」
「石油王と呼べばいいんですね。よろしくお願いします。石油王」
「………………」
「あははははっ。初期登録が終わっちゃったね。それじゃイーケメン。これからどこへ遊びに行く?」
× × ×
――大騒動に発展する。
× × ×
【会話ログ:モードキッシ ギルド『デバッカー』の団員たち】
「団長。強過ぎー」
「団長なら対人イベントがきても一位になるんじゃね?」
「そんなに簡単じゃないよ。強いプレイヤーはたくさんいるいるんだから」
「モードキッシの言う通り油断は禁物だ。例えばアーマルドにカンチョー。若手だとエイロナ、レオーラ、クノンが力をつけている」
「そういえば……」
「何か気になることがあるのか。モードキッシ」
「この前戦ったラビィって子はどうしているかなって。レベルの差がなくなったら苦戦すると思うんだよね。……最近はハジマーリの街にいるみたいだしちょっと様子を見てこようかな」
「ついでに周辺でウサギでも狩ってきたらどうだ? 劣化コピーでも最近頭角を現した黒世界のアリスの対策になるかもしれない」
「そうだね。レベルを下げれば丁度良さそうだし行ってみるよ」
× × ×
『これは面白いことになりそうですね』
× × ×
【会話ログ:???】
「クーちゃん、クーちゃん。私のお婿さん♪」
「そーよ♪ 私がお嫁さん♪」