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エネミーロール【お願いっ! 魔王を倒して異世界人さまっ!】  作者: えたーなる・ばけーしょん
第3話 砦を守るゴブリンたち【1-13-EX】
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砦を蹂躙する異世界人たち【1-13】


「皆さん。今後一緒に行動することがあると思うので、ちょっとパーティーを組んで狩りに行きませんか? 配信のネタになりますよ」

「私は問題ない」

「わたしも大丈夫だよ。ラビィちゃんは?」

「……好きにしろ」


 ラビィは戦闘狂という設定だ。バトルがあるならば同行するしか選択肢はない。


「場所は……そうですねぇ。ラビィさん、希望とかあります?」

「オレは強いヤツと戦えればどこでもいい」

「それならゴブリンの砦ですね。皆さんいいですか?」


 現環境の最終ダンジョン。しかしイベント報酬目当てに何度も周回している慣れ親しんだ場所なので反対意見はなかった。

 クエストを受注するために冒険者ギルドへ移動する。メンバーはラビィ、アリス、スフィア、ジッキーの4人。それと一角ウサギのくーちゃん、イヌカウルフのクロの2体だ。


「ラビィさん。難易度はどうします?」

「練習だしD級でいいだろ」


 イベント期間は終了しているがEPやエネミープレイヤーの評価は増減する。将来ラビィがエネミープレイヤーだと知られたとき、ランキング操作を疑われないためにもC級以上は極力避けたい。

 ……さて。そんな事情があることを知らないジッキーの配信を見ている人たち。彼らが“世界最強を目指す戦闘狂ラビィ”の発言を聞いたときにどんなコメントを書き込むか?


“戦闘狂なのにD級www”

“雑魚専門の戦闘狂”

“そこはA級1位だろ!”

「――よし、A級1位にするぞ!」


 アリバイ作り完璧っ!


「……あの」

「何だジッキー?」

「A級1位はやめませんか? ちょっとトラウマが……」


 オレとサンチでボコボコにしたアレか。

 コメントでもそのときのことが書き込まれている。まだまだ人数は少ないがジッキーを追っている固定ファンがいるみたいだ。


「それならジッキーが決めてくれ。これはお前の配信だからな」

「えっと。……A級46位にしましょう。これなら中身もいないので最後まで生き残って尊き記録を残せそうです」

「尊き記録?」


 ジッキーを睨む。

 A級舐めるな。油断しているとまた落とし穴に落ちるぞ。それと変(態)な行動をしたら通報するからな。


「……と、尊きというのはアレです。ラビィさんの戦闘狂っぷりのことですよ」

「それはいいことだ。最後まで生き残ってオレの戦闘狂っぷりを全世界に伝えろ」


 地道に一般プレイヤーと戦って存在感を出すよりも、戦闘の様子を全世界に配信したほうが宣伝効果は期待できそう。

 ……って、誰だ“ちょろいwww”ってコメントしたヤツ。


   × × ×


 アタックするダンジョンのランクが決まったらギルドの受付でクエストを受注。ギルド長の説明をスキップしてオレたちは砦近くの森に転移した。

 攻略を急ぐ理由はないので今回はのんびりと森の中を移動していく。


「門番どうしよっか?」

「突撃して警笛を吹かせればいいだろ」

「さすが師匠。発想が戦闘狂」

「そうだろ、そうだろ」

「ボクが死にそうになるのでやめてください。……睡眠玉があるのでそれを使いましょう」


 砦が見えてきたので静かに近付く。


「……あれ? 門番がいませんね」

「どこかに隠れている?」


 声には出さないがそれは絶対にあり得ない。門番の立ち位置は門の周囲5メートル以内と決まっているし、今回のダンジョンで姿を隠す能力持ちは登場しないからだ。


「くーちゃん。敵がいないか見てきて」

「もきゅ!」


 くーちゃんがぴょんぴょん跳ねていった。門の前で止まると耳をぴょこぴょこ動かす。こっちに振り向いて右前足を上げた。


「誰もいないって」


「ボクたちを油断させる罠かと思いましたが、……違うみたいですね。こんなのは初めてです」


「警戒。維持」


 初見殺しの第1フロアに入った。今回は警笛が吹かれていないので敵は出現しない。注意するのは罠だけだ。


「罠探知を持っている人いますか?」

「落とし穴ならクロが見つけられるよ」

「それならアリスさんお願いします」

「クロ。お願い」

「――がうっ!」


 クロが鼻先を床に近付けて匂いを嗅ぎながら、第2フロアの扉へと進んでいく。

 真っ直ぐ。まだ真っ直ぐ。一直線に真っ直ぐ。ひたすら真っ直ぐ。

 ……そして、何事もなく次の扉に到着した。


「……驚愕。罠がない」

「裏をかいて両端に落とし穴を配置したんですかね?」


 第2フロアにやってきた。

 構造は廊下の左右に兵ゴブたちが休む小部屋が配置されている。小部屋には扉がないので室内の兵ゴブに発見されないように進まなければいけない。当然ゴブリンに見つかれば警笛だ。


「……静かですね。いつもならいびきが聞こえてくるのに」

「敵の会話。聞こえない」

「くーちゃん。中から何か聞こえる?」

「もきゅ~」


 くーちゃんが首を横に振った。


「覗いてみましょう」


 ジッキーが【カメラアイ】を使って小部屋の中を確認する。


「……誰もいませんね」

「反対側の部屋もいないみたい」

「このまま敵も罠もなかったりして。――ちょっと、これはヤラセじゃないですよ。このダンジョンを選んだのは偶然です。本当ですよ!」


 アイちゃんの介入がないのでヤラセの可能性は低いと思う。

 ならばこの状況はどうなっているんだ? A級だから兵ゴブの未配置にも何かしらの意図があるはずだ。


「師匠。ずっと静か」

「ラビィちゃん。怖いなら手を繋ぐ?」

「必要ない。……って、勝手に繋ぐな!」

「これで大丈夫だね!」

「……あぁ、尊いです」


 オレはエネミープレイヤー側だから攻略に口を出さないように配慮しているんだよ。

 ……ちくしょう。アリスが余計なことをしたせいで“ビビっている戦闘狂”って書き込まれたし。 

 その後もオレたちは奥に進み、あっさりとボス部屋の前までたどり着いた。


「…………ここまで何もありませんでしたね」

「敵も罠もゼロ。D級より簡単」


 オレはふと思った。

 もしかしてこれは設定にこだわったダンジョンではないか?

 例えば、敗北を悟った砦ゴブが砦の放棄を宣言。兵ゴブたちが退却する時間を稼ぐために殿をやっているとか。

 ――よし、この設定なら違和感がない! きっとこのエネミープレイヤーはイベント期間終了に合わせて意図的にそうしたんだ。最後まで残って砦を守るゴブリン。ボスの名前に相応しい粋な演出じゃないか! これならアイちゃんも許可を出しそう。


「入りましょう」


 オレたちはボス部屋に足を踏み入れる。指定位置まで移動したらボスの登場イベントが始まった。

 オレの推測通り取り巻きの兵ゴブの姿はなかった。現れたのは無装備状態の砦ゴブのみ。格闘メインの近接型だろうか? 


「ボス1体だけですね」

「油断するとやられるぞ。ボス戦だけでA級を維持する実力があるんだからな」

「そう考えると危険な相手ですね」


 全員が気を引き締める。


「オレにはわかるぜ。コイツが強敵だってな。気迫が違う」


 中身がAIなのは残念だが、きっと楽しい戦いになるだろう。


「ゴッブアアァァアァアア!」

「――来るぞ!」

「遠距離攻撃はないと予想。牽制する」

「わたしも手伝う」


 スフィアは飛行スキルで、アリスは弓で矢を放った。

 おそらく砦ゴブが無装備なのは軽量化のためだ。ならば確実に敏捷値を高く設定している。きっとこの攻撃は易々と躱されるだろう。


「――矢が直撃しました!」

「はぁ? 回避どころか防御もしないのかよ!」


 予想を裏切る結果に思わず大きな声が出た。

 その後も二人が放つ矢が次々と砦ゴブに命中していく。


「まさかのノーガード。……これはアレか? 接近したらクロスカウンターを狙ってくるボクサータイプなのか?」

「一歩も動かないからサンドバックですね。ボクも爆弾投げようかな」


 砦ゴブは無抵抗のままHPを減らしていく。

 ……おかしい。こんなの絶対おかしいだろ!


「――タイム! 攻撃ストップ!」

「どうしたのラビィちゃん?」

「ちょっと確かめたいことがある」


 初期位置から全く動かない砦ゴブへと近付く。――反応なし。

 デッキブラシで軽く突いてみる。――反応なし。

 頭の上に乗ってみる。――反応なし。


「……不具合だな」

「そうみたいですね。運営に報告しておきましょうか」


 ……ちくしょう。“強敵”とか“気迫が違う”とか言ったオレを笑いたければ笑えよ視聴者ども。

 しばらく待っていると床に青い魔方陣が出現した。


『呼ばれて飛び出てじゃんじゃかじゃーん。運営の女神アイちゃん登場です。不具合発生ということでやってきました』

「このボスのことなんですが全く動かないんですよ。それに道中も敵や罠がなくて」

『そういうことですか。……結論から申し上げますと、これは不具合ではありません』


 疑問符を浮かべるオレたちに対し、アイちゃんが淡々と説明を続ける。


『このダンジョンを管理していたエネミープレイヤーがダンジョンデータを初期化しました。その後ログインもしていません。……非常に残念なことですが別の世界に転生したと考えられます』


 直訳すると“このゲームを引退した”と。

 ……まぁ、よくあることだな。


「あの、このダンジョンは消さないんですか?」

『本人からアカウント完全消去の申請がありません。その場合は規約に則り、14日間ログインがなければ凍結して登録されたメールアドレスに連絡。さらに14日間経過してもログインがなければ消去という流れになります』

「その間は放置ということですか?」

『肯定します』

「じゃあ、ドロップ率もA級のまま、条件を満たせば称号を貰えるってことですか?」

『肯定します。ですが明日にはランクダウンが予想されます』

「視聴者の皆さん聞きましたか!? このベリーイージーなA級ダンジョンはアイちゃん公認です! 本日限定でA級46位が熱ーい! これは今すぐ攻略しないと勿体ないですよぉおおおおおお!」


 兵ゴブなし、罠なし、しかもボスは無抵抗。

 ジッキーが配信した情報は瞬く間に広がり、一般プレイヤーたちがダンジョンに殺到。A級46位のダンジョンは、たった1日でC級最下位まで転落したのだった。


  × × ×


《フレンドからメッセージが届きました》


●アリス(10:26)

 お姉ちゃん元気になったよ。


●戦闘狂ラビィ(10:26)

 それはよかったな。


●アリス(10:29)

 うん。お母さんからゲーム機を返してもらったから、これから一緒に遊ぶんだ。


●戦闘狂ラビィ(10:29)

 病み上がりなんだから程々にしておけよ。


●アリス(10:31)

 もちろん。

 ゲーム機を返してもらうときのお姉ちゃん、子供みたいにそわそわしちゃって可愛い。


●アリス(10:46)

 どうしよう。

 お姉ちゃんが壊れた。

第3話 おわり


ストックがなくなりました。4話更新まで少々お時間いただきます。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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